よくみる不正咬合

よく見る不正咬合

❐前歯の隙間

前歯の間が大きく開いている方がいます。お子さんの永久歯が生えてきてしばらくして気が付くケースが多く、よく相談されます。また、かかりつけの歯医者で指摘されて初めて気が付いた、と言うのもよくあります。考えなければならないのは、お子さんの場合、歯の生え変わり初期にみられる特有の状態として一時的に2本の前歯の間が開いて生えてくることがあり(この場合は隣の歯が生えてくると自然に隙間が無くなっていきます)、今がその状態の場合は問題がありません。しかし、前歯の生える位置・方向の異常、小さいなど形の異常、真ん中に過剰な歯が存在するなどの不正、爪や鉛筆を噛むなどの癖、そして上唇小帯の強直症などは問題です。

〇 今回は、上唇小帯の付着についての話

上唇小帯の付着は、出生直後は歯に近い所にありますが、成長に伴い次第に細くなり上方に移動します。しかし、そのまま高位に残存し前歯の間に強く付着している場合には正中離開つまり前歯の隙間の原因となります。

治療は、発育に伴って上唇小帯の付着位置は移動するため前歯に正中離開が存在していたとしても自然に消失することが多く、犬歯が萌出する時期までは経過観察を行います。しかし、それ以降小帯の高位付着と正中離開が残存する場合には小帯を切除します。正中離開に関しては、必要に応じて矯正歯科治療により歯の空隙閉鎖を行います。

-長濱ブログより引用

※時に、付着が強くないのにもかかわらず前歯に空隙があることで小帯を切除した方が良いとすすめられる場合があるようですので、高位付着の典型例を「小帯の異常」の項に掲載しております。

❐小帯の異常

〔定義・概念〕

口腔内の小帯には、口唇小帯(上唇・下唇小帯) 、頬小帯および舌小帯があります。小帯の異常は、位置異常、肥厚、過短症あるいは強直症がみられます。

1)口唇小帯の異常

上唇小帯強直症が多く認められます。上唇小帯の歯槽部への付着は、出生直後は歯槽頂付近にありますが、成長に伴い次第に細くなり上方に移動します。しかし、高位に残存し切歯乳頭部に強く付着している場合には正中離開を引き起こします。また、発音障害やブラッシングを困難にすることもあります。発生頻度は、1.5歳で27.3%にみられますが35歳頃には5.9%程度になるようです。

〔治 療〕

治療は、歯槽骨の発育に伴って上唇小帯の付着位置は上方へ移動するため前歯部に正中離開が存在していたとしても自然に消失することが多く、犬歯が萌出する時期までは経過観察を行います。しかし、それ以降小帯の高位付着と正中離開が残存する場合には小帯を切除します。正中離開に関しては、必要に応じて矯正歯科治療により歯の空隙閉鎖を行います。一方、下唇小帯の異常は稀で、治療としては歯間部の小帯を切除します。

2)頬小帯の異常

頬小帯が、小臼歯部において高位に付着していることがあります。上顎より下顎に多く認められ、小臼歯の萌出障害、位置異常、歯間離開、歯周疾患の誘発また義歯装着の障害を引き起こします。

〔治 療〕

治療は、頬小帯の切除または伸展術を行います。

3)舌小帯の異常

舌小帯は、舌下面と下顎正中部歯槽骨に付着しそれらを連結しています。舌小帯が短いことにより舌の運動が制限されるものを舌小帯過短症といいます。一方、舌が口腔底に癒着しているものを舌強直症といいます。舌運動障害のほか、構音障害(サ、タ、ラ行など)、哺乳障害、咀嚼・嚥下障害をきたすことがあります。舌を前方に突出させると、舌尖部がハート形にくびれます。発生頻度は14歳以下では1%、口唇口蓋裂患者では5.3%にみられます。

〔治 療〕

治療は、成長に伴って舌小帯は伸展しやすくなるため経過観察を行うが障害の著しい場合は小帯の切除、もしくは伸展術を行います。また、舌小帯の著しい異常は不正咬合の原因ともなるため矯正歯科治療を必要とする場合もあります。

唇小帯の高位付着による正中離開

舌小帯の短縮と舌突出時にみられる舌尖部の陥凹

〔文 献〕

古郷幹彦:口と歯の辞典, 第1版(高戸毅ら編集), pp219-221, 朝倉書店, 東京, 2008

山岡稔:ハンディ口腔外科学, 第1版(新藤潤一編集), pp58-60, 学建書院, 東京, 1997.

Lauren MS, Randolph S, et al:Prevalence, diagnosis, and treatment of ankyloglossia. Can Fam Physician,53: 1027-1033,2007.

❐永久歯の先天欠如(大人の歯がない)

〔先天欠如〕 永久歯の先天欠如は、歯胚の形成が障害されることによって生じます。隙っ歯の原因として見つかることが多くあります。また、検診や歯科医院のレントゲン検査によって指摘されたり、乳歯が抜けた後なかなか生えてこないために検査して初めてわかることも多いようです。多数(現在6歯以上)の歯がない場合は全身疾患や遺伝が関与している場合があり、現在多数歯の先天欠損が原因で起こった不正咬合の治療には健康保険の適応されます。一方、少数歯の先天的欠如の原因は発生学的に退化傾向の一つと考えられており、歯並び以外に大きな問題はないとされています。親知らずを除く先天欠如歯の発生頻度は約5%程度と言われています。部位では、下顎の前歯、第二小臼歯、上顎の側切歯に多く認められます。

〔問題点〕 後継永久歯がない場合、乳歯がずっと残ることになりますが成人以降までしっかりと残ることは多くありません。歯並びとして稀にバランスよく並んでいる場合には特に問題はないのですが、歯が抜けたり、成長期に乳歯の歯の根と骨が癒着を起こすと咬み合わせが悪くなり対合歯の挺出や隣の歯の倒れこみなど咬合の異常を招きます。また、癒着すると低位乳歯となり歯を支える歯槽骨の形成量を減らしてしまいますので、抜けた部分をインプラントで補う場合などに困難をきたす場合があります。

❐歯の脱臼(歯をぶつけた)

歯をぶつけたりなど、瞬間的な外力が加わることで起こる歯根膜線維の断裂した状態を脱臼と言います。歯根膜の損傷状態によって亜脱臼と完全脱臼とに大きく分かれます。

【亜脱臼について】

亜脱臼は、歯がぐらぐらしていていたり、歯が元の位置からずれていたりします。

永久歯、乳歯ともに場所の変化がほとんどない場合には、経過観察でよいかと思います。しかし、変化が大きかったり、咬み合わせの異常がある場合には歯を正しい位置へ早期に整復し固定を行います。固定には、床副子や線副子を用いることが一般的とされていますが、矯正装置(マルチブラケット)を線副子として用いることを当院などでは推奨しております。

【永久歯の完全脱臼について】

歯が挺出していたり、陥没したり、横へ大きくずれていたりした場合には整復・固定を行います。脱落した歯でも保存状態が良い場合には再植を試みます。条件として、脱落後30分以内に生理食塩水や牛乳、つばなどに保存したものは生着する可能性が高くなります。数時間たったものでも状態によっては生着の可能性はあります。

【乳歯の完全脱臼について】

基本的には永久歯の場合と同じですが、隣の歯と固定できない場合には抜歯することもあります。また植え直す方が問題を起こすと判断される場合には再植を行わないこともあります。

歯並びに影響する癖

❐指しゃぶり

◆ 歯科医と小児科医、臨床心理士それぞれの見解

指しゃぶりは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる胎生14週ごろからみられます。生後2~4か月では口のそばにある指や物を無意識に吸ったり、5か月になるといろいろなものをしゃぶり、形や味、性状を確かめ、学習するためになんでも口のほうへ持って行くようになります。歩き始めるようになると、指しゃぶりをしていると行動が制限されるため自然と指しゃぶりは減っていきます。1歳半を過ぎると昼間の遊びの中で指しゃぶりは減り、退屈な時や眠い時だけみられるようになります。さらに3歳以降外へ出て遊ぶようになると指しゃぶりはさらに減り、通常5歳ごろにはほとんどなくなります。

指しゃぶりが高い年齢までつづくことは、歯並びや咬み合わせに影響するだけでなく、前歯が開いた開咬の状態になると発音など言葉の問題、つばの飲み込み、食事の仕方に悪い影響を及ぼします。さらに口元の突出、顎などの発育にも影響します。従って、不正咬合の進行を防止し、口腔機能を健全に発達させる観点から、4、5歳を過ぎても続いている指しゃぶりは指導し止めさせていくべきだと歯科医は考えます。一方、小児科医は、指しゃぶりは生理的な人間の行為ゆえ、こどもの生活環境、心理的状態を重視して無理にやめさせないという意見も多いようです。特に幼児期の指しゃぶりの持つ不安や緊張を解消するという効果を重視するためで、歯科医ほど口や歯並び、咬み合わせへの影響を考慮していないように思われます。また、臨床心理士は、指しゃぶりは生理的なものとしながらも4歳以降も続ける場合には、その背景に親子関係の問題や、遊ぶ時間が少ない、退屈など、こどものおかれる環境面が影響している事を挙げ、こどもの心理面から問題行動の一つとして対応すべきであると考えています。

7歳児の指しゃぶりによる開咬。前歯が咬み合わない状態。親指には吸いだこができている。

❐舌癖

舌癖とは、リラックスしている時に口をポカンと開け、上下の歯の間に舌が飛び出していたり、飲み込む時に舌を突き出し、常に前歯に押しつけているような状態の癖を言います。

舌癖があると歯並びや発音に大きな影響を及ぼします。

舌癖の原因として

1 幼児期より指しゃぶりを長く続けた。

2 乳歯から永久歯への歯の生え変わりの際に、歯がない状態が長く続いた。

3 鼻炎等で鼻の通りが悪く、口呼吸をしている。

4 舌の小帯が短い、強く結びついている。

などが挙げられます。

治療: 適切な診断に基づく原因の除去および歯並びの不正(開咬や歯の隙間)が認められる場合には必要量の矯正歯科処置を行う。

おしゃぶりの長期使用による開咬。舌が上下の前歯の間に挟まりこむ。

◆ 舌癖と舌突出嚥下の違い

歯並びに影響するものの一つに舌の癖があります。長時間にわたって舌を前歯に押し付けたり、舌を咬み続けたりすると歯の位置が変化しはじめ、開咬(上下の歯がかみ合わない)や空隙歯列(歯並びに隙間ができる)を引き起こします。舌癖の方の中では、舌がもともと前に位置している場合が多いようです。(これは単純にみているだけではわかりません)

ところで、舌突出癖ではなく舌突出嚥下というものをご存知でしょうか?

不正咬合の原因として、よく歯医者さんが間違えて、勘違いして、患者さんもしくはご家族に話をしてしまうものです。

「嚥下」とは食物を人が飲み込む行為、口から胃まで食物を移送することを言います。舌の突出嚥下とは、上下の前歯の間に舌を挟むようにして行う嚥下行動(唾をゴックンさせた時に行う様)ですが、現在では歯並びや咬み合わせに影響を及ぼすような習癖とは考えられていません。そもそも嚥下は無意識に行う生理的現象であって習癖にはあたりませんし、このように舌を前に突き出す嚥下をすることは、問題のない咬み合わせの幼児では移行期にみられる特徴、正常な嚥下なのです。前歯部が開いている開咬の方の場合では、代償的に行う生理的な適応行動です。すなわち、嚥下時の舌の突出は、咬合の異常の原因には当たらないのです。

不思議なことに、前歯に隙間があったり、出っ歯だったりする5-10歳くらいのお子さんの相談を受けると、なぜか、かかりつけの一般・小児の歯医者さんで、舌の突出が原因だろうと言われ、舌が出ないようにする、または、出ないように訓練をする矯正治療を勧められる、との話を聞きます。

このことで一番の問題は、不正咬合の原因がわからないままに、矯正治療の介入が行われる可能性があることです。

― 長濱ブログより

❐こどもの歯ぎしり

歯ぎしりの発現率は2歳児で7.1%、3歳児で8.0%であり、乳歯列完成前後における小児の口腔習癖の中で指しゃぶりに次いで多くみられるものです。また、6歳以降12歳での調査でも発現率は10.0%をこえます。

乳歯列期の歯ぎしりは、歯列の発育過程で生じる不安定な咬合状態が関連している場合が多いといわれます。この場合には、乳歯列の完成期には消失することがほとんどです。5歳前後の幼児に上あごの前歯が大きく削れている場合は、これは上下のあごの成長のずれに関連するもので歯ぎしりに関連したものでないことが多い。

〔文献〕

安部敏子,松崎和江,他:口腔習癖の年齢的推移について.歯科学報,87:95-103,1987

馬場篤子,米津卓郎:小児歯科は成育医療へ,通巻第520号(吉田昊哲ら編集),デンタルダイヤモンド社,東京,2011