Admission Policy

Ω研の受験を考えている人へ

Ω研は広い意味での銀河の形成・進化を理論・観測両方の方法を駆使して研究している研究室です. 広い意味とは, 銀河の形成以前の物理も含めた, 宇宙の構造形成全てを視野に入れているということです. Ω研は名古屋大学素粒子宇宙物理学専攻宇宙グループの中で唯一, 研究手法ではなく研究対象で定義されている研究室です. 多波長にわたる観測データを多用することから, 2010年度まで実験系グループに分類されていましたが, 理論的アプローチが主たる手法であるため, 竹内の移動に伴い2011年度から理論系研究室として再出発しました. ただし, 観測データに密着した研究を行っていますので, 観測データ解析は主要な研究手段の一つとなります.

1.Ω研での研究とその特長

具体的には, 星とガスとダークマターの集団である銀河が宇宙進化の中でどのようにして形成され, どのように進化してきたかを様々な側面から検証しています. 地上観測装置, 飛翔体観測装置のデータを実際に解析することで銀河の中で生じている物理過程を明らかにし, それを説明する理論モデルを構築するのがオーソドックスな方法です. また最近比較的大規模な数値シミュレーションによる研究も開始しました.

Ω研の観測的側面での特長は, 多波長のデータを本質的に用いる点です. 現在研究室のメンバーの多くが銀河の星形成や重元素合成に関する研究をしており, このため星形成活動に関連の深い紫外線や赤外線・サブミリ波のデータを中心に, 銀河を構成する星の質量を測定するために重要な視光および近赤外線のデータ, 超新星残骸の出す電波連続光(シンクロトロン放射), 分子ガスのトレーサーであるCO分子輝線, 中性水素ガス量を測定する電波輝線(21cm線)などのデータを用いています. 現在のところ高エネルギー現象に関する分野がやや手薄ですが, 今後そのような研究を希望する人が出てくれば, X線やγ線のデータを用いることになります. 名古屋大学には各波長域でそれぞれ重要な研究をしている実験開発系研究室がありますので, それらの研究室とも積極的に研究交流を行っています.

Ω研の研究で特筆すべきこととして, 紫外線探査衛星GALEXのデータを用いていることがまず挙げられます. 竹内は2004年以降GALEX衛星の研究チームに参加しており, 紫外線データの解析方法や専用ソフトウェアを開発してきました. GALEX衛星のデータ自体は多くが公開されていますが, にも関わらず我が国の天文学・宇宙物理学分野で, 現在紫外線データを本質的に用いている研究室はおそらく名古屋大学Ω研のみです.

さらに最近我々の研究室では, これらの知識を用いて銀河形成以前の極初期宇宙から宇宙暗黒時代の物理を解明する研究に着手しました. まず宇宙暗黒時代とは, 宇宙にまだ星が形成される以前, 可視光線で輝く星が存在しなかった時期(宇宙年齢38万年から20億年程度まで)を指します. この時代の物質の物理状態を観測的に検証する手段は極めて限られており, 電磁波を用いるほぼ唯一の手段として有望視されているのが, 中性水素の放射する振動数1.4GHz (波長21 cm)の電波です. 宇宙膨張による赤方偏移のため, この電波はこれよりもずっと低い振動数となって我々に届きますが, この振動数を観測できる究極の電波望遠鏡プロジェクトがSquare Kilometre Array (SKA)です. Ω研はSKA-Japanサイエンスワーキンググループに参加し, 銀河進化サブグループを牽引しています. これまでの研究を踏まえて銀河形成前夜から銀河進化までの統一的シナリオの構築を目指しています.

そして現在, ビッグバンから38万年後の物質が放射した電磁波である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を詳細に観測する衛星Planckのデータが公開となりました(2013年3月). CMBは波長1 mm程度にピークを持ちますが, この波長付近は我々の銀河系や系外銀河の積分光などの前景放射の混入を受けやすい波長域でもあります. CMBのゆらぎ, 特にその偏光のゆらぎの情報はビッグバン以前の宇宙の情報を保存していると考えられており, 銀河の元となる物質分布のゆらぎの生成の物理に肉薄できるほぼ唯一の観測量です. 我々は今後この問題に対して銀河進化の知識を総動員して前景放射の理論モデルを構築し, 純粋な宇宙論的情報を抽出するための研究も進めています.

銀河の星による重元素合成史は銀河進化理論の中心をなす重要な枠組みで, 化学進化と呼ばれています. 理論的には銀河の星形成史に応じて星間物質に供給される重元素も時代とともに変化してきたはずです. ところで, 星間物質中の重元素はその半分以上が固体の微粒子(星間ダスト)の状態になっており, この微粒子はその表面で様々な分子を形成して星形成を促進し, また電磁波を散乱吸収するため, ダストの進化を理解することは銀河進化の理論的理解のために不可欠です. Ω研では世界に先駆けて原始銀河のダスト供給史を化学進化と整合的に考慮したダスト放射モデルを構築し, その様々な発展に努めています.

現在の宇宙論的構造形成理論(ΛCDM: 宇宙項のある冷たいダークマターシナリオ)では, 小さな構造が初期に形成され, 衝突合体を経て銀河が成長してきたと理解されています(階層的構造形成). ダークマターは銀河の質量の大半を占めており, 重力を通じて力学的性質を支配していますので, 銀河合体はダークマターの作る塊(ダークハロー)という環境の中で生じます. この力学的な進化と化学進化を整合的に扱うためには化学力学進化(chemo-dynamical evolution)という取扱いが必要になります. 最近Ω研でもこの化学力学進化によるアプローチを始めました.


最近の天文学データは巨大化の一途を辿っています. それに伴って銀河形成・進化の知見を記述する理論も複雑化する一方です. 第一原理から出発して基礎理論を構築することは物理学の究極目標ではありますが, 21世紀に入り, このような旧き良き理論研究のイメージは変革を迫られています. 我々は巨大なデータ(巷でいうビッグデータのイメージ)自体にその性質を語らせる機械学習などのデータ科学の方法を開発し, それを元にして銀河進化理論の新しい表現方法を発展させています. 観測, 理論に加えてデータ科学的方法を第3の軸として明示的に推進していることも当研究室の特色です.

2.大学院でΩ研の受験を考えている人へ

このような研究を進めるため, Ω研では観測的・理論的を問わず, 銀河の形成進化を探求するために物理学のあらゆる知識を駆使します. もっと一般的に, 宇宙物理学という分野は基本的に学部で学修する物理学を全て用いるのが普通です. よって, 大学院入試でも学部レベルの物理4分野(力学, 古典電磁気学, 統計力学, 量子力学)を全てバランスよく習得していることが望まれます. 電磁波による観測データから天体で生じている物理過程を調べ, また観測と比較するための輻射理論を構築するのが研究の重要な部分を占めますので, 輻射過程(古典論, 量子論両方), 統計力学の知識は特に重要です.

Ω研では, 研究テーマはM1の最初からすぐに研究論文と直結するものを選んでいます. 博士前期(修士)課程では, 大学院講義の履修と並行して, 研究のための輪読型セミナーをいくつか進めながら興味ある研究対象を絞り込んでいくことになります. 基本的に一人につき一つ以上のテーマを研究してもらいつつ, 同時に研究室全体としての大型プロジェクトも並行して進めています. これら全てが世界の第一線での研究との競争ですので, 自分からどんどん積極的に研究を進めてもらえる人を期待します.

研究結果は国際会議で発表するのが普通ですので, 英語での議論能力は必須です. 特にΩ研は海外との共同研究も多く, 海外への短期・中期派遣や海外からのゲスト招聘も頻繁に行っています. さらにΩ研には外国人メンバー, 共同研究者も多いので, 今後研究室内でも英語会話は重要になる一方です. よってΩ研では(現時点での完成度は要求しませんが)語学への学習意欲を非常に重視しています.


銀河の物理を解明する意欲と情熱にあふれる人の応募を期待しています.


【お願い】 
大学院受験のため研究室訪問を計画している方は, 可能な限り初夏に開催される公式研究室訪問・大学院入試説明会に参加してください. 春季休暇中など, それより早い時期の訪問も事前にご連絡いただければ歓迎します.
自己推薦入試終了後, 一般入試までの期間に連絡を頂くことがありますが, この時期の訪問は例年非常に多忙になること, また研究室選びを十分に熟考していただける方を採用したいことから, 対応は基本的に受け付けられません. ご注意ください.