この文章は、内閣府男女共同参画局推進課 理工チャレンジに寄稿したものを一部改変したものです。
本来は女子高校生・女子学生に向けて書かれたものですが、内容自体は性別を問わず、農学系(特に森林)進路を考えている受験生、全てに向けたものです。
田中が農学系を選択した時期・理由
農学部、中でも森林関係を選択したのは、子供時代を田舎で過ごしたことが影響しているかもしれません。裏山に倒木を利用して秘密基地を作ってはそこで本を読み、落葉を集め(ただもう大量に集める、それだけ)、急に思い立って用水路を上流へさかのぼり、取水口にたどり着いて妙に納得する、そんな子供でした。高校時代は化学が好きで、受験直前まで理学部化学科を志望していましたが、ある日突然、自分が身近な自然について何も知らない、知ろうとしてこなかったことに気づきました。教科としての生物はあまり得意ではありませんでしたが、何も知らない方がかえって色々吸収できて面白いのではないか、という極めて漠然とした理由で林学がある農学部を選びました。そんな自分でも森林に関わるたくさんの知識、そして根本的な森林観を得られたのは、入学した大学・大学院、そこで出会った先生方の懐の広さ故でしょう。本当に色々なことを教えてもらいました。
現在の仕事(研究)の魅力やおもしろさ
森林の地下部、特に根の周囲(根圏といいます)にいる微生物の研究をしています。
森林には沢山の樹木と草本植物、動物や昆虫などの多様な生き物が生息していますが、目には見えない小さな生き物、菌類や細菌類などの微生物もまた、森林には無数に存在しています。そして有機物を分解したり(腐生菌)、樹木と共生して栄養を樹木に受け渡したり(共生菌)、そうかと思えば樹木に寄生して殺したり(寄生菌)もします。大きな樹木、そして森林全体を構成する物質の循環はこうした微生物の働きがあってはじめて成り立つものです。
私達が何気なく森林にいるときは全くその気配を感じられない(まず感じることはありません)彼ら微生物が、どのような多様性を持つのか、樹木や他の生物、森林環境にどのように影響するのか、それを調べるだけでも十分にわくわくする研究なのですが、得られた知見が森林環境の保全や荒廃地の緑化など、応用的な仕事にも直接つながるため森林を保全したい、身近な緑を守りたいといった目標を持つ方にはさらにやりがいを感じることができる研究ともいえるでしょう。
女子高校生・女子学生の皆さんへのメッセージ
性別により何かが変わるということは学問の世界にはありません。
興味を持ったこと、自分のやりたいことをやるのが一番なのは男性も女性も同じことです。
もしも、女子だから、というただそれだけの理由で理系進学をためらっているのであれば、一度「何故自分はそう思ったのか」をじっくり考えてみることをお勧めします。
もしかしたら、それは誰かに言われてそう思っているだけかもしれないし、あるいは自分がそう思いたいだけなのかもしれません。それは何故でしょう。
自分の生き方を決めるのは他でもない自分自身です。他人に決めさせてはいけません。他人に決めてもらってもいけません。
自分で決めましょう。その方がきっとたのしいですよ。