Research topics

樹木葉の不均一な気孔開閉メカニズムとガス交換に与える影響の解明

植物と大気の間では、葉の気孔を通じて、光合成の基質となるCO2やH2Oなどのガス交換を行っています。

葉の光合成速度や気孔開度の測定は、外部環境に対する植物の生理的応答や生長応答を明らかにする上で不可欠であり、植物生理学分野で研究が進んできました。現在、葉の光合成速度や気孔開度を推定するために広く用いられているモデルは、葉1 mm2あたり数十~数百個存在する気孔が、常に同調して(均一に)開閉するという仮定の上に成り立っています。

しかし、近年の研究から、葉の内部の「維管束鞘延長部」という構造の有無によって、気孔開閉特性に違いがあることが分かってきました。維管束鞘延長部のある「異圧葉 "heterobaric leaves"」を持つ種では、水分ストレス下で、一枚の葉の中で非同調的(不均一)な気孔の開閉が、不均一な光合成と同時に起こります。一方、維管束鞘延長部のない「等圧葉 "homobaric leaves"」を持つ種では、常に均一な気孔開閉が起こります (eg. Mott and Buckly Trends Plant Sci. 2000, Terashima Photosynth. Res. 1992)。

植物の分布調査から、異圧葉を持つ葉は温暖・乾燥地域に、等圧葉を持つ葉は高温・湿潤地域に多く存在すると言われています (Wylie Am. J. Bot. 1952)。

私達が、一枚の葉の中で起こる「不均一な気孔の開閉」に注目した理由は、自然条件下の森林においてもこの現象が起こっており、またそれが群落スケールのCO2ガス交換量に影響を与える可能性が高いと考えられるからです。

熱帯や冷温帯の森林の林冠を構成する樹木では、強光下にもかかわらず日中に光合成が低下する、「光合成日中低下」がよく見られます。この光合成低下は、光強度の増加に伴って、大気飽差(葉‐大気間の水蒸気圧差)の上昇や葉の水分不足が起こり、気孔が閉じることによって起こります。

私達の研究から、森林内では、この光合成日中低下と同時に、不均一な気孔の開閉が起こっていることが明らかになりました (Takanashi et al. Tree Physiol. 2006, Kosugi et al. Tree Physiol. 2009, Kamakura et al. Tree Physiol. 2011, Kamakura et al. J. Plant Res. in press)。すなわち、不均一に気孔を閉鎖することで、乾燥や水分ストレスといったシグナルに対して、素早く応答しているのではないかと考えています。

現在は、不均一な気孔の開閉がどの程度の範囲で、どのようなメカニズムで生じ、また森林群落全体のCO2ガス交換量にどの程度影響を与えているのかを解明すべく、研究を行っています。

森林群落のCO2ガス交換量の把握は、その森林がCO2の吸収源となるのか、放出源となるのかを見極める上で重要です。そのため私達は、不均一な気孔の開閉が群落全体のガス交換量に与える影響を定量的に明らかにすることによって、森林のガス交換機能のより正確な理解に繋げたいと考えています。

<調査地の紹介>

・マレーシア パソ(Pasoh)森林保護区 ▶参加研究プロジェクトのHPはこちら

・岐阜大学 高山試験地 ▶試験地のHPはこちら