研究内容(準備中)

長期間の観察や飼育を通じて、海鳥や小型哺乳類の生態、行動、生理を明らかにし、それらの動物が生態系の中で担っている役割を明らかにしたいと考えています。

【最近の調査地】 北海道北部(利尻町・枝幸町・稚内市)、埼玉県(所沢キャンパス周辺および秩父地域)、千葉県(銚子)、愛知県(安城市・鵜の山)など

【最近の調査対象種】 ウミネコ、オオセグロカモメ、モグラ、コウモリ、カワネズミ、リシリコンブ、アライグマ、オジロワシ、トガリネズミ類 など

※早稲田大学、野生動物生態学研究室では、上記の調査地・動物以外の研究も行っています。上記の地域・動物種しか研究できないわけではありません。

最近の研究内容は以下の通りです。

1. ウミネコの個性と集団繁殖

2. カモメ類の個体間相互作用

3. カモメ類の生活史

4. 海鳥の生態系サービス

5. 海洋生態系の保全(洋上風力発電)

6. 地域の自然史研究

1. 個体の行動特性(個性)の集団繁殖における機能

生物個体は、一般的に環境や状況の変化に応じて自身の行動を短期的に可塑的に変化させると考えられています。しかし、いくつかの生物種では、生理的な制約あるいは何らかの生態学的な適応の結果、個体が環境や状況の変化によらず一貫した行動傾向を示す(例えば一貫して高い攻撃性を示す)事例が報告されています。また、こうした個体の行動傾向が複数の行動にまたがって表れる事例(例えば攻撃性の高い個体ほど採餌行動を活発に行う)も報告されています(Kazama et al. 2012a)。こうした個体の行動傾向は「行動特性」あるいは「行動シンドローム」と呼ばれ、その生態学的意義に注目が集まっています。

私は、ウミネコにおいて、個体の行動特性がどのような要因によって生じるのか、個体の行動特性が集団の中でどのように機能するのかを調べています。多くの個体が密集して繁殖する本種では、自分自身のふるまい方(行動特性)だけでなく、隣接個体の行動特性も適応度(自分の子供をどれほど残せるか)に影響してくると予想されます。

これまでに、ウミネコには卵捕食者であるハシブトガラスに対して攻撃的で積極的な防衛を行う“攻撃的個体”(写真左)と、決してそのような防衛に出ない“非攻撃的個体”(写真右)がいることがわかりました(Kazama and Watanuki 2010、Kazama et al. 2011b)。また、個体の血中成分の分析やホルモン移植実験等により、この個体変異は血中テストステロン濃度によって制御されていることが明らかになりました(Kazama et al. 2011a、b)。さらに、攻撃的個体は積極的な防衛により自身の卵捕食リスクだけでなく、隣接個体の卵捕食リスクも減少させられることがわかりました(Kazama and Watanuki 2010)。

現在、こうしたウミネコの個体特性がもつ生態学的・進化学的な意義を解明するため、行動特性が個体の繁殖成績にどのように影響するのかを調べています。さらに、個体の行動特性によって生じる捕食リスクの空間的変異(攻撃的個体の周辺は安全)が巣場所の選択や集団の動態に影響しうるかについても研究しています。

キーワード: 行動シンドローム(Behavioral Syndrome)、集団繁殖、集団防衛、テストステロン


2.カモメ類における同種個体間相互作用の意義

カモメ類は多くの個体(数百から数十万)が密集して繁殖します。数週から数カ月も続く繁殖期間中、隣接する個体同士は様々な個体間相互作用を絶えず経験します。そうした相互作用の中には、捕食者に対して隣接個体同士が共同で警戒や防衛を行ったり隣接個体の雛を自分の巣に受け入れて世話をするといった一見“協力的”なものもあれば、つがい相手以外のメスへの強制的な交尾(写真左)、あるいは他個体の卵の破壊や雛への襲撃(写真右)、餌の略奪などといった“妨害的”なものもあります。

これらの個体間相互作用が生じる理由やそれが個体の繁殖を成功させる上でどのような影響をおよぼすのかについては不明な点が多くあります。私はそれを解明するため、ウミネコの繁殖行動を長時間観察し、隣接個体間相互作用の発生パターンを調べ、そうした相互作用を通じて個体の繁殖成績がどのように変動するのかを調べています(Kazama et al. 2012b)。婚外交尾の成功率や隣接個体間の血縁関係を調べるために、DNA分析も行っています。

キーワード: 同種内子殺し、婚外交尾、他巣雛の受け入れ、血縁度、マイクロサテライトDNA分析


3.カモメ類の生活史

ウミネコやオオセグロカモメは国内で繁殖する代表的な海鳥の一種ですが、その行動・生態、分布・移動、個体数増減のメカニズムなどには不明な点が多くあります。私はカモメ類の繁殖生態を長期間継続的に調査し、水温や海流、餌の資源量、気象条件などの環境変動が、本種の繁殖行動や繁殖成績にどのような影響を及ぼすのかを調べています。これまでに、カモメ類の繁殖個体数や繁殖成績は繁殖地周辺の海水温に応じて変動すること、その変動はイカナゴやカタクチイワシなど餌となる魚類の資源量に関連することが明らかとなっています(Kazama et al. 2008、Kazama et al. 2016)。

また、繁殖を終えたカモメ類は、日本周辺海域を広く移動すると考えられていますが、その詳細は明らかではありません。私は、小型の位置記録計をカモメ類に装着し、繁殖を終えたカモメが翌年再び繁殖地に戻ってくるまでの移動経路の詳細を調べています。これまでの調査では、北海道沿岸で夏に繁殖を終えたウミネコは、秋までは北海道にとどまり、その後九州付近まで南下して越冬することがわかりました。その移動距離は数千kmにも及びます(下図、Kazama et al. 2013c)。

ウミネコの非繁殖期(7月~翌年4月)の移動経路。数字は月を表す。星は繁殖地の利尻島。

キーワード: 生活史、個体数変動、季節移動、繁殖スキップ


4.海鳥が生態系において果たす役割

地球上のあらゆる生物は、生命活動や種内・種間の相互作用を通じて周辺の環境や他の生物種に対して様々な影響を及ぼします。これら生物が生態系の中で果たす役割は「生態系機能」と呼ばれます。多様な生物種の存在は、それ自体が人間にとって大きな価値を有するだけでなく、それら生物種が担う生態系機能もまた、人間生活を維持するために不可欠であったり、人間生活に福利を与えたりします。生物が担う生態系機能のうち、人間がその恩恵に浴しているもの、あるいは利益として人間にその価値が認識さているものは“生態系サービス”と呼ばれます。生態系サービスは主に基盤、調整、供給、文化の4つに大別されますが、他の生物種同様、鳥類もそれら全ての生態系サービスを人間に提供します(風間 2015、下図)。

魚食性の海鳥は、その生活の大部分を河川・湖沼や海洋上で過ごしますが、繁殖期になると陸上に多くの個体が密集して営巣します。数週間から数カ月続く繁殖期の間、海鳥は外洋域で採取した魚介類等の餌を絶え間なく陸上の営巣地や周辺の沿岸域に運び、それを大量の糞として排出します。これらの糞に含まれる窒素等の化学物質が営巣地の陸上生態系(動植物の多様性や生物量)に強く影響することはよく知られています。

しかしながら、海鳥類の営巣地に隣接した農耕地において、それら鳥類が供給する窒素分が農作物を含む農耕地植生に与える影響はこれまで検証されたことがありません。海鳥の糞はかつて“グアノ肥料”として盛んに利用されていた時代もありました。海鳥の糞が農耕地に適度に供給されれば、農作物の生産性は高まると思われます。この可能性を確かめるために、私は東海地方にあるカワウ営巣地に隣接した水田において、カワウの糞由来の窒素がイネを含む水田植物の生産性におよぼす影響を調べています。

窒素には質量数の異なる安定同位体(14Nと15N)が存在します。海鳥の糞に由来する窒素は、通常、陸上生物に含有される窒素に比べて同位体比(15N/14N)が明確に高いという特徴があります。そのため、同位体分析を用いることで水田に供給された海鳥糞由来の窒素を原子レベルで識別でき、その動態を追跡することができます(下図)。

これまでに、カワウの営巣地に隣接した水田では、カワウの糞由来の窒素が土壌中に豊富に含まれていること、それらの窒素は水田に育つ草本類の生育を向上させることがわかってきました(Kazama et al. 2013a、下図)。この発見により、海鳥による窒素供給が里山農耕地生態系の生物生産性や種多様性の維持に大きく貢献するという、新たな生態系サービスが明らかになりました。

また、私は海鳥の糞由来窒素が沿岸域の生態系におよぼす影響も調べています。上述のように、海鳥糞由来の窒素が陸域の生態系に与える影響については比較的よく知られています。しかし、海鳥の糞由来の窒素が沿岸域の生態系におよぼす影響についてはあまり知られていません。私はウミネコの糞由来窒素が営巣地直下の磯に生息する海藻類、植物プランクトン、および貝類などの固着生物におよぼす影響を調べています。これまでに、営巣地直下の磯に生息する生物は、糞由来の窒素を体内に豊富に取り込んでいることがわかってきました。今後は、取り込まれた窒素が磯の生物の成長、生残や繁殖におよぼす影響を調べていく予定です。

キーワード: 生態系サービス、生態系機能、窒素循環、安定同位体、グアノ


5.海鳥と海洋生態系の保全

私たち人類は、海洋においてこれまで漁業、鉱業、海運活動、海洋土木・建設、資源・エネルギー開発などの様々な経済活動を行ってきました。その結果、温暖化、油流出、漂流ゴミ、PCBやプラスチックなどによる海洋汚染や海洋環境の悪化、および大型魚類の資源減少といった問題が発生しています。こうした海洋環境の悪化は世界中の海洋生物の生息数減少の原因と指摘されています。

海洋生態系の持続可能な利用のためには、その変動のしくみを正しく理解しながら生態系の保全や管理を行う必要があります。海洋生態系の高次捕食者である海鳥の個体数、行動や繁殖成績は、海洋環境の変化やそれにともなう餌資源量の変動を迅速に反映します。そのため、海鳥の生態情報は、海洋生態系変動のしくみを理解するのに役立つだけでなく、私たちが海洋生態系の変動をいち早く察知するための生物指標として利用できます。こうした観点から、私は海鳥の繁殖行動を継続的に追跡することの重要性や、そこから得られた情報を生態系変動の指標として正しく効果的に利用する手法について解説しています(風間ら 2010、風間ら 2011)。

さらに、私は近年注目され始めている洋上風力発電(洋上風発)が海鳥をはじめとする海洋生物に与える影響について解説しています(風間 2012)。東日本大震災以降、国内では大規模な洋上風発の建設が進められています。洋上風発は、建設や運用面で多くの経済的利点を有している一方で、海洋生物へ様々な悪影響を及ぼします。建設時の騒音は魚類や鯨類の音声コミュニケーションを阻害します。建設後は周辺の環境が変化することで生態系が改変され、あらゆる海洋生物に影響が及ぶ可能性があります。それらの影響には、いまだ明らかになっていないものも含まれます。これらの悪影響を軽減するためには、鳥類や鯨類の渡り・回遊ルートや餌とり海域を避けた建設地の選定、騒音の発生を抑えた工法、動物に配慮した順応的な運用(繁殖や渡りの時期に風車を一時停止するなど)が求められています。

キーワード: 海洋生態系保全、海洋環境モニタリング、洋上風力発電、環境影響評価


6.地域の自然史研究

日本に生息する身近な生物種には、その生態が未解明なものが多く含まれています。とくに、夜行性であったり生息地が山間部や地中であったりする小型の哺乳類や鳥類は、人目につきにくいためその分布、個体数、繁殖様式などの基礎的な生態情報が不足しがちです。これらの生物の中には人知れず生息数を減らしているものもあり、その保全のためにも生態情報の収集は不可欠です。私は日本の様々な地域においてこれらの生物の基礎的調査を行っています。基礎生態解明のために飼育を行うこともあります。これまでに調査した動物種は以下の通りです。

コウベモグラ、カワネズミ、アカネズミ、ハタネズミ、モモジロコウモリ、オオアシトガリネズミ、ヒミズ、ヒメヒミズ、カワガラス