研究内容

世界規模のサプライチェーンと環境分析

私たちの消費は、その製品・サービスが作られる過程で様々な環境負荷が排出されています。例えば、輸入された大豆はブラジルで森林を切り開かれて作られているものもあり、そこに住んでいる動植物を絶滅の危機に晒しています。サプライチェーンでの環境負荷は、人間活動が地球環境を踏みつけてきた足跡になぞらえて、環境フットプリントと呼ばれます。二酸化炭素はカーボンフットプリント、水はウォーターフットプリントなどと呼ばれます。このような様々な環境フットプリントを大規模なコンピュータによる計算で明らかにしようとしています。

どの製品がどのように各国間をまたいで作られるのかは、各国の産業連関表と呼ばれる経済統計と各国間の貿易統計から作る方法を用いています。そのデータベースはEora多地域間産業連関表として公開しています。企業などへのヒアリングなどから製品の生産過程を辿るライフサイクル・アセスメント(LCA) と呼ばれる方法もあります。

扱う環境問題は多岐に渡り、気候変動、大気汚染、生物多様性、森林伐採、資源、水、窒素汚染などに関する研究をこれまでに行ってきました。研究は様々な分野の研究者と共同で行うこともあります。例えば、大気化学輸送モデルの研究者と各国の消費がサプライチェーンを通じて引き起こす早期死亡者数を明らかにしました。

研究方法は主に大規模なコンピュータを使った数値計算プログラミングです。用途によって様々な言語を用いますが、行列を扱うのでJuliaやMatlabなどを主に使っています。

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GISとサプライチェーン分析

フットプリント分析は、各国間の貿易に伴う環境負荷を分析することが多いですが、国よりも細かな場所が重要となることも多々あります。例えば、インドネシアから日本への木材の輸出が生物多様性にとって悪いということが分かったとしても、日本はインドネシアからの木材の輸入をすべて停止するわけにはいきません。そこで、インドネシアのどこで伐採された木材が種を絶滅の危機に晒しているのかという地理情報をサプライチェーンと組み合わせる研究を行ってきました。

地理情報は絶滅危惧種だけでなく、様々な情報が現在利用可能です。例えば、CO2排出量、大気汚染物質、森林伐採などもサプライチェーン情報と組み合わせることで、各国の消費による環境影響を地図化することができます。この他にも、利用可能なGISデータや衛星データは急激に増加しており、今後も非常に大きな可能性があると考えています。

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家庭・都市の環境フットプリント分析

各国の環境フットプリントの内大きな割合を家庭の消費が占めています。つまり、ライフスタイルを変えたり、消費活動を変化させると環境負荷を大きく減らす可能性があります。また、いくつかの地球環境問題は各国間の環境負荷削減交渉が停滞しており、都市や企業などの自発的な行動の重要性が指摘されています。

そこで、各家庭がどのようなライフスタイルをしているのか、そしてどのような消費をしているのかという家庭単位のマイクロ消費データとサプライチェーンに伴う環境負荷のデータを使って、どのような家庭がなぜ大きな環境フットプリントを出しているのかを明らかにする研究を進めています。そして、少数の家庭のライフスタイルや消費活動が問題なのか、それとも多くの家庭のそれらが問題なのかといった疑問にも答えようとしています。

都市は消費活動の中心であり、都市の外側の生産活動に大きな依存をしています。例えば、大部分の電力や農作物が都市部の外で作られて、複雑なサプライチェーンを通じて都市の住民に消費されていることは想像がつくと思います。ただ、都市の環境フットプリントがどれだけで、どのように都市の環境フットプリントを減らせばよいのかは十分に分かっていません。そこで、各都市住民のマイクロ消費データとサプライチェーンに伴う環境負荷のデータから、都市の環境フットプリントを明らかにしようとしています。

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企業のサプライチェーン分析

企業はTCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース) やTNFD (自然関連財務情報開示タスクフォース) のもとで、サプライチェーンでの排出量の開示と削減に取り組んでいます。その際に、先に挙げた産業連関表やLCAデータベースなどを利用していますが、各データベースで排出源単位が大きく異なること、そして、システム境界が異なることから、各企業のスコープ3排出量を比較することが困難です。

そこで、産業連関表や貿易統計、国民経済計算等で得られた産業段階のサプライチェーンデータベースを、企業の有価証券報告書、船荷証券、取引先情報などによって分割することで、企業レベルのサプライチェーンデータベースを構築しています。そのデータベースと企業が報告しているスコープ1排出量をもとに、独自に、スコープ3排出量の推計を行っています。そして、企業が報告しているスコープ3排出量との比較分析などを実施しています。このデータベースは、これまでの多地域間産業連関表 (MRIO) を置き換え、今後、非常に大きな応用可能性があります。現在は、このデータベースの開発と様々な応用研究を進めています。

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サプライチェーンとネットワーク分析

サプライチェーンデータは製品を生産する産業をノード、産業間の取引をエッジとするグラフと考えることができます。そこで、ネットワーク理論の様々な解析方法を使って、サプライチェーンネットワークを分析する研究を進めています。具体的には、これまでにクラスター分析や媒介中心性をサプライチェーンネットワークに応用した研究を進めてきました。この分野は勉強中のため、理論計算機科学やオペレーションズリサーチなどを専門とする研究者などと共同で研究を進めています。

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