教育方法論
2022年度向け
2022年度向け
新型コロナウィルス対策(Covid-19)を契機に、活発化したオンライン授業とアクティブラーニングの経験について執筆します。わかりやすさのために、授業運営に関する情報に特化し、教材自体は授業資料サイトで提供しています。
2020年度に続いて、2021年度の私の担当する学部授業は、1年次導入科目「自主創造の基礎」と専門科目「公共経済学」(同一2コマ開講)、ゼミナール、卒業論文を担当予定です。ゼミナールと卒業論文は小規模(40人以下)で、従来から使用してきたGoogleドライブがシステム変更で利用に適さなくなったため、OneDriveでファイル共有を進める予定です。1年次導入科目はオンデマンド教材とWeb会議型同時双方授業、さらに対面授業を併用するブレンディッドラーニングを実施する予定です。専門科目「公共経済学」については2020年度から、「学修者自らが学んで身に付けたことを社会に対し説明し納得が得られる」よう、「主体的に考える力を育成する」観点から、いわゆるアクティブラーニングを導入しました。2020年度の経験を踏まえて、授業内容の変更に着手しPDCAでの授業改善を実施ししています。2020年9月より本学もZoomが利用可能となり、大規模授業でも意見交換や議論が可能となりました。しかしながら、文部科学省の指導により、対面中心での授業実施が求められるようにあったことから、2021年度は対面での学生間の議論や教員との意見交換などを実施する予定です。この点については、オンラインのメリットが封じられる点が、大きな懸念です。
専門科目「公共経済学」は事前学習、授業(講義と学生・教員間議論)、事後学習で構成されます。事前学習と事後学習の確認は、所属大学が使用しているWebClass(本学部ではEcoLinkとよぶ)を活用して、管理しています。学生が持っている大学発行のGmailアカウントからは学生番号が一意に把握できないため、学生の代返リスクを考えるとGoogle Classは現在は良い活用方法が見いだせていません。
2020年度はオンデマンド資料(Googleスライド)、リアルタイム質疑(Google Hangouts Meet、途中Zoomへ移動、音声のみ)による授業時間での質疑応答、WebClassでの課題提出で実施しました。オンデマンド資料については、ファイル容量や学内アクセスに制限する観点から、学内のGoogleドライブでの提供としました。授業時間での質疑応答については当初は全学生に対してGoogle Hangouts Meetを適用して実施した上で、学年で授業時間を2等分して実施しました。しかし、Zoomの導入により、最大500名の学生を受け入れ可能となったため、Zoom導入後は一クラスで実施可能となりました。なお、質疑についてはGoogle Hangouts Meetがオーナーによる録画ができるのですが、管理者が教員に固定できないため、使用を控えました。Zoomでは管理者が固定できるので、そちらでは録音したものを後日提供することで、時差受講を可能としました。時差受講は学生にも好評で、様々な事情の学生が柔軟に受講できる機会を提供できました。WebClassでの課題提出は選択問題や論述問題で従来も使ってきた方法ですが、選択問題はランダム出題、論述問題は剽窃チェックで対応することで、一定の不正行為を抑止できていると思います。
学生に対しては2020年度は議論に慣れていなかったため、まずは自主的な考察に主眼をおいてもらい、事前学習の段階で、事前課題の際の考察、オンデマンド資料での考察機会の準備、リアルタイム質疑での他の学生からの質問や教員の応答などから触発される気づき機会の準備、最後に事後学習の段階で考察を深め、自分の考えをまとめるという活動を通じて、与えられたテーマに対して、考察、取りまとめ、再考察といった循環を作りました。
2021年度は授業の積極的な議論参加が成績に結びつくよう配点を見直したことで、積極的な意見が出るようになりました。ただ、同じ学生の発言に偏るため、発言の評価回数に制限を設けたところ、発言する学生数が増えるというメリットは得られたものの、授業録画もあわせて行っているため、受講生の減少という問題が生じてしまいました。できるだけ多くの学生に発言を促しつつ、活発な議論に結びつけるのに、課題があると思いました。
2022年度からは文部科学省の指導により、対面授業主体を求められるようになりました。オンラインで顔を出さないことで積極的に意見できていた学生たちが、顔を出して多くの受講生の前で発言できるかどうか、この点が大変心配です。気軽な発言ができるという、オンラインのメリットが封じられて、どこまで議論型授業を活性化できるかが焦点になると思います。
2020年度の最も重要な事項は、ギガ不足に代表される学生の受講環境への配慮でした。しかし、2021年度に入り、本学ではPC必携、自宅でのネットワーク利用必須化によって問題は解消されました。そこで、2020年度に続いて、オンデマンド資料を動画化した上で、Googleスライド(後にMicrosoft Powerpointにした上でOneDriveへ引っ越し)やYouTubeを使ってゆくことにしました。学生が大学発行のGoogleアカウントを持っていることが前提とできること、ウェブでの直接閲覧や無料アプリのダウンロードだけで実行できること、パワーポイントなどのエクスポートができること、音声とアニメーション、画像・数式表示が利用可能というのが主な理由です。授業資料の配布は従来のWebClassや各教員のホームページで行ってきましたが、学生とのコミュニケーションを拡大するためにGoogle Classroomを活用しました。
2021年度までは順調にオンライン教材が提供できていましたが、2022年度に急遽大学のGoogleサービスの変更がなされたため、対応を大きく変更せざるを得なくなりました。この点については、次の項で説明します。
2021年度はGoogleドライブにGoogleスライド資料を載せて使っていました。ダウンロード許可など管理が有益だと考えたためでした。しかし、年度末に突然、本学のドメインが授業用アカウントの廃止と研究校務用のアカウントへの統合が宣言されました。さらにドメインまたぎで所有権が移せないという痛恨の状態で、結局スライド資料を一旦ダウンロードした上で、再びアップロードすることになりました。とはいえ、ダウンロードしてしまうと、マイクロソフト社のパワーポイントにファイルが変換されてしまうため、今後もシステムが変更される可能性に備えて、パワーポイントで教材を作り直すこととなってしまいました。
ただ、不幸中の幸いは業務用のOneDriveは2TBまで保存可能なうえ、閲覧に限定して、印刷やダウンロードを禁止することもできることがわかりました。そこで、動画や音声付きの資料は印刷とダウンロードを不可にして、PDF化した資料のみダウンロードを可能としました。Google Classroomは大変使いやすいサービスでしたが、今回のドメインをまたぐ際に全てのサービスが利用不可能となることがわかりました。そのため、Classroomの利用は諦め、教材はすべて一般公開化、学生との連絡はWebClassに限定して行うこととしました。
2022年度は教材をGoogleサイトで一般公開し、学生とのコミュニケーションをGoogleフォームを利用しながら、電子メールやLMSに移行するなど、代替手段を検討しています。対面授業主体を求められるようになったことで、大学の設備との整合性などが極めて心配な状態ですが、現場で修正してゆくことになりそうです。
授業のマイクロソフト・パワーポイントをmp4でナレーション付きで配布される先生もおられますし、デスクトップを録画して、配布される先生もおいでです。また、その際に問題になるのは通信量です。それらについて、フリーソフトの範囲で、述べてゆきたいと思います。まず、デスクトップの録画についてはAG-デスクトップレコーダーを利用しています。音量調整はMP3GainがMP4にも対応できるので、それを利用できます。動画の圧縮についてはFree Video CompressorやHandBrakeというもので圧縮できます。なお、授業用のビデオであれば、動きが少ないと思われることから、30%程度まで容量を抑え込むことができます。また、秘匿すべきものがウィンドウに移ることがありますが、その際にはAviUtilにMP4を作成できるプラグインを組み込むことで、モザイク処理も可能です。
Zoomによる授業録画は再生速度の変更も可能なので、効率的な受講が可能です。ただ、Zoomは公開期間が固定されているので、長期的に公表する必要がある場合には、YouTubeでの公表が必要です。YouTubeはリンクが漏れた場合には容易に他者が閲覧が可能なことに注意が必要ですが、再生速度の変更も可能なので、各自の必要に合わせて受講時間を節約できるメリットがあります。
オンラインの評価において、所属大学ではWebClassというサービスを用いています。その際、テストの際に、数式を使いたい場合があると思います。マニュアルもありますが、必ずしも親切ではありません。一応、問題文に数式やグラフを載せいたい場合には、Microsoft Wordで、1ページに数式やグラフを収めることで問題文は作成できますが、選択肢に数式を入れることが困難です。そこで、いろいろ試行錯誤した結果、選択肢にも数式を埋め込めることを確認しました。まず、WebClassはMathML対応ということですが、MathJaxを介して数式の表示を行います。したがって、
<script async src="https://cdnjs.cloudflare.com/ajax/libs/mathjax/2.7.2/MathJax.js?config=TeX-MML-AM_CHTML"></script>
というコマンドを選択肢のいずれか一つの冒頭に入れておく必要があります。一つ入れれば、あとの選択肢に入れる必要がありません。なお、問題文の「手入力」の欄でMathMLを使う場合にも上記のスクリプトを冒頭に入れておく必要があります。また、問題文に入れても、選択肢に数式を使う場合にはやはり、選択肢の一つの冒頭に入れる必要があります。
次に、MathMLですが、Latexで数式を使うのが当たり前な場合は不慣れです。そこで、Inftyeditor で数式を書いて、MathMLでエクスポート、テキストファイルで開いて、<math>~</math>をコピー、それをそのまま選択肢に貼り付けます。その際、選択肢の文字数に限界があるため、装飾に使う細かなコマンドを削除してから使うのが望ましいです。ただ、何度も削除するのは大変なので、テキストエディタの秀丸のマクロファイルで一括処理することを考えました(fontsizeを1.5emに少しだけ拡大してもいます)。こちらに秀丸用マクロファイルを準備しましたので、ダウンロードして活用してみてください。Inftyeditor も秀丸もシェアウェアではありますが、試用もできますので確認してみてください。
作図や数式は特に公共経済学では多用しますが、できるだけコストを押さえつつ、きれいな作図、数式をしたいと考えました。そこで、LibreOfficeというMicrosoft Officeの代替無料アプリを用いて、作図や数式を作成した上で、それをMicrosoft Officeに貼り付けて使うなどしています。LibreOfficeにはTexMathという拡張機能があるため、そちらを使うことで、LaTeXを使ってそのまま数式を書くことができ、更にきれいに書くこともできます。もちろん修正も可能なので、LibreOfficeで作った数式やグラフをベースとして使いつつ、投影用にMicrosoft Powerpointを使うなどしています。また、Microsoft Powerpointには録画機能があります。これを使うことで、アニメーション化したスライド資料を動画として解説を加えて作成して、Microsoft Powerpointに貼り付けることで、(少々古い表現ですが)マルチメディア教材として、利用できるようにもなりました。ここまでスライド教材の準備が進むと学生が自分で教材を学べる段階まで来ました。授業では反転学習主体で進めてきましたが、本格的にすべての授業で反転学習化できる段階になったと思います。
2020年度の経験を踏まえて、2021年度は動画による授業実施を行いました。プライバシーの問題に対しては原則顔を出さない授業実施(教員は顔を出します)により、対応をしました。結果として、発言時の心理的負担を軽減でき、活発な議論に結びつけることもできました。2022年は対面主体との指導ですので、必要に応じてオンライン授業を導入したいとも考えています。
リアルタイム授業自体はとても便利なものですが、経験上、以下のような課題を感じています。
学生の顔や部屋(特に女子学生や自宅環境)が映ることへのプラバシーへの配慮
生活音(同居者や自宅事業)が入り込むことによる学生自身の発言への躊躇
通信環境(PC不所持、WiFi環境なし)の制限やその不安定性
1については、ディープフェイクやフェイススワップと呼ばれる不適切利用の危険もあるため、容易に顔を投影させることは望ましくないと考えています。そのため、動画使用時にはマスクやサングラスなどの着用を認めて、完全に自分の顔が出ないように配慮しています。教員としても、静止画であっても自分の顔を写真で出すのではなく、写真をもとにしたイラストにして出すことで、学生にもそのような利用を促そうとしています。現在はCoconalaを始めとしたサービスで2千円前後で写真をイラストにしてもらえるので、有益な手段だと考えています。背景に関してはZoom、Meetの双方で背景の利用が可能となったので、そちらを活用させられます。しかしながら、Zoomについては背景に一定のPCの能力が問われるため、必ずしも背景の差し替えが可能ではなく、その場合には音声に限定することになります。
2については、大変難しい点です。実際、学生で同居家族の生活音が出ることで発言に躊躇する事があり、チャットでの発言を認めるなどで対応しています。
授業実施の際にメッセージを利用していましたが、煩雑だといいうことを感じていました。そこで、Comment Screenの活用を行いました。学生にはとても好評で、匿名で自由な意見ができる点が有益でした。一般的に懸念される不適切発言も、他大学と同様にないと言っていいほどで、受講時の学生の誠実な取組が確認できました。授業中の意見交換には有益なツールです。対面授業でどう有効活用できるかが今後の課題です。
オンラインでの評価方法の一番のネックは代返や盗用です。本人が解答しているのかどうかの確認、資料の閲覧の有無、レポートの盗用などが考えられます。本人確認については、WebClassにログインしていることを持って、確認したとせざるを得ません。他者にアカウントを提供すること自体が本人にも情報流出のリスクを抱えるため、なかなか起こりにくいと考えるからです。資料閲覧を禁止した上で、レポートの解答をさせるという点については、実際的には不可能だと思います。まじめにそれを守った学生の評価が上がらず、嘘をついた学生が評価が上がる状況では、それを確認できない以上、テストとして成立しません。語学などの場合には、Google翻訳をそのまま使ってしまうことを考えると、翻訳も難しいと考えざるを得ません。レポートの盗用についてはWebClassではレポートの類似判定システムが有り、それを使って発見した場合には大減点を与えるというペナルティを使えば、ある程度抑止できます。ただ、この場合も、他のホームページからの盗用が回避できないという問題があります。学生の論旨がレベルが高すぎるなど不自然な場合に、任意の一文をGoogle検索にかけて、発見されれば、盗用とする方法もありますが、網羅的に見つけ出すことは無理だと思います。ただし、チェックをしていることと、相当のペナルティが存在することが、不正行為を試みる学生には一定の抑止効果を持つと思われます。
オンラインでの学習効果を確認する際に有効な手段は、いまのところ、レポート、選択問題だと考えています。選択問題についてはWebClassを使えば、出題の順序、選択肢の順序をランダムにすることができます。例えば、10問作っておいて、そのうち5問だけランダムに出題、選択肢順序もランダムとして、実行回数を1回のみ、さらに解答日数も限ると、不正行為を試みることが困難になります。これは穴埋め問題でも可能だと考えられます。
講義時間における出席確認は現状では行わない予定です。理由は、出席確認の代わりに事前学習、事後学習を組み込むことで学習効果を確認できること、大規模授業でもあるため、アクセス集中によるサーバーダウンを懸念し、代わりに語学など他の小規模授業の出席確認にWebClassを利用いただきたいためです。
授業が同時双方向で実施され、学生間議論や教員との問答で構成されます。そのため、従来の授業では理論の解説のみに絞られていましたが、現在は理論解説を踏まえた解釈と評価にまで議論を深められるようになりました。一方で、授業の説明を詳しくしてほしい場合などは授業内解説で実施します。更に詳説が必要であれば、教材スライドの修正で対応することにしました。また、雑談も授業中には行わず、別の動画としてYouTubeで提供することにしました。こうすることで、授業資料を学ぶモード、学生の必要に応じて詳細な理解を進めるモード、議論や問答を通じて理解を深めるモード、さらに雑談を通じて教員の個人的雑感から理解を深めるモードと、それぞれの教育目的に合わせて資料を提供できるようにしました。
関連動画はYouTubeチャンネルとして一般公開しています → 川出真清 学修チャンネル