KSPとは

KSPとはいったいどんな研究会なのか? それを雄弁に物語る日本社会心理学会会報第178号(2008.6.20発行)に寄稿されたエッセイをご覧ください.第199号(2013.9.25発行)にも木下先生によるエッセイが掲載されています.

古くて新しいKSP

(財)国際高等研究所 木下冨雄

(1)発足の経緯

KSPが発足したのは1974年のことである。当時の若手であった金児暁嗣、高木修、田尾雅夫などを中心に、「若さで楽しく一暴れ」を趣旨として結成された。KSPとは、KansaiSocialPsychology(ないしPsychologist)の略である。主として関西ゆかりの研究者が、出身や所属を超えて緩やかに結集している。

第1回の研究会は、関西学院大で佐々木薫が担当して行われた。それから35年、今年の7月の例会は田尾雅夫が担当して開かれるが、それがちょうど切りの良い350回である。長いといえば長いが、あっという間の35年間であった。

(2)活動の中味

月1回の例会(8月を除く)が、研究活動のほとんどすべてである。発表担当者の役割はベテラン教授であれ若手の院生であれ全く同じであり、発表準備は当然として案内文の発送、会場の設営、懇親会の企画(学割付き)などをすべて自分で取りしきる。

例会は平均2,.3時間の持ち時間で行われるが、司会者もなく、質問は何時でも誰でも自由となっていて、時には発表途上で議論が弾み、肝心の発表が終わらぬことすらある。例会の特別版として、第100回、200回、300回の記念例会は宿泊付きで行われた。

時たまこの会を利用して講座本や翻訳を出そうと提案する人が現れるが、誰もイエスと言わない。この会の趣旨はそんなところにない、というのが皆の本音であるようだ。それに対してこの会では、懇親会の席を利用して被調査者の貸し借り、非常勤講師の斡旋、はたまた結婚式の司会者やスピーチの依頼などが行われたりする。この時間帯は研究会の顔が失われて、居酒屋でのサロンに変身すると言えようか。

(3)研究対象としてのKSP?

KSPは社会心理学的に見て不思議なグループである。35年も続いているのだから明確な組織構造があると思われるかもしれないが、それが全くといってもよいほどない。

まず会員名簿がない、会則がない、会費もない、代表者もいないというわけで、社会心理学でいう集団の構成要件がすべて欠けている。集団のバウンダリーが不明確だから見知らぬ人が入っているときがあるし、長期欠席しても敷居は少しも高くならない。地位役割の分化もないから、誰でも大きな顔をして発言できる。

では集団の要件が欠けているのにKSPが長く継続できたのはなぜか。その原因が組織の頑健さに基づくのでないとすれば、残る理由はエネルギーしかない。つまりKSPは組織体ではなくて運動体なのである。そのエネルギーの中味は多分、楽しもう、面白がろうという「遊び規範」である。

このエネルギーが枯渇してKSPが融解するのが何時なのか、誰も知らない。