心理学の信頼性改革について


はじめに

心理学は再現性の危機と呼ばれる状況に入っています (ここではSimine Vazire氏の「信頼性改革」という前向きな表現を「再現性危機」とほぼ同義で使用しています)。そんななか,山田は心理学における信頼性向上に関係しそうなオープンサイエンス系のことをたまに,本業の傍ら (通勤,就寝前,雪隠等) 考えたり公表したりしています。一定量の公表物が溜まって来たので,ここではそれらについて,私のサブ活動の具体例とともに紹介しておきます。

私がこのような話に携わることになったきっかけとしては,2015年9月に企画された心理学評論特集号へ寄稿したことが一番大きいです (山田, 2016)。もともと"Voodoo Correlations in Social Neuroscience",Bem騒動,ScienceのOSC論文などで (このへんは認知科学の野島賞コメントで触れています: 山田, 2020) 悶々と溜め込んでいた切実なる想いがあったわけですが,それを具体的な形として外に出したのはこれが初めてでした。煩悶を吐き出しただけなので当然ながら話は全然整理されておらず,読みづらいし,未成熟な部分が非常に多くて正直忸怩たる思いなのですが (その証左として,反響が皆無),自分の中での意義は大きかったです。当該特集号ご担当の先生方には稀有な機会をいただき本当にありがたく思っています。

しかし今後については私自身,あまり明確な道筋が見えていません。オープンサイエンス界隈の世界的潮流としては,ただ単に再現性が低いぞ!とかプレレジせよ!とかガチャガチャ言うだけのフェーズはもう通過していて,コミュニティや組織や機関が具体的にどう動くか,あるいは上記のガチャガチャが心理学の理論構築や一般化可能性とどう関係するのか,という話に向かっています。心理学自体の将来について私はやや悲観的ですが… (山田, 2021) きっと何か想像もしてないことが起こるはずさと自分に言い聞かせてます。今後もこのページは適宜更新していきますが,どこかできっと更新は止まると思います。それが,この信頼性改革が首尾よく完了したからなのか,絶望し諦めたからなのかは分かりませんが,願わくは前者であってくれと思いますね。

とりあえず,このページにあるような情報を全てまとめた本を出しました (山田, 2024)。2023年くらいまでの情報ならまずはこれで一眸できますので,少しでも気になったらそちらをぜひ。


References

山田祐樹 (2016). 認知心理学における再現可能性の認知心理学 心理学評論, 59(1), 15-29.

山田祐樹 (2020). ぼくたちは再現可能な研究ができない 認知科学, 27(4), 438-439.

山田祐樹 (2021).「心理学の将来」の将来から見る心理学の将来 認知科学, 28(3), 419-423.

山田祐樹 (2024). 心理学を遊撃する──再現性問題は恥だが役に立つ── ちとせプレス


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