Memo

※ 新しいgoogle siteへの変換によりレイアウトが崩れております.

2021/03/13 AIプロジェクト振り返り

分担したプロジェクト(力石新道路:道路政策の質の向上に資する技術研究開発 "AI技術に基づく短期交通予測手法と総合的な交通需要マネジメントの研究開発")が無事3年終わりました。実働と言える感じではありませんでしたが、、薄く関わりました(薄く継続的というか,時折集中的にでした)。当初はGraph Convolutionのアルゴリズムも出始めくらいだったのが、3年の間に当たり前という雰囲気になり、交通分野でも数えるほどしか論文がなかったのが、国際学会では数件に一件は適用研究があるというように大きく変わりました。依然として、古典モデルの現象説明能力か、深層学習モデルの精度かという議論は残っているようにも見えますが、深層学習の精度の良さがはっきりしている以上、ある程度、目を向けて、取り組んでいかなければならない(特にサービス展開や予測など実務的な課題であるほど)と言えるでしょう。同時に、データ駆動である現実を前に学習アプローチも限界がある(特異現象は単にデータを集め続けるだけでは説明しきれない)ことが詳らかになってきており、古典と新進を融合したアプローチがそれぞれの分野/適用に求められるようになりそうです。このあたり,需要予測研究の従前からの課題と一致する部分でもあります。

とはいっても、サービス/ビジネス分野で有用そうであることで、人とお金が集まり、新しいアルゴリズムの開発/適用のスピード感はすさまじく、比例関係による予測を、非線形変換による予測に変えたことで、ある程度の現象の予測精度は格段に向上した(できる)ことは確かかと思います。

(というあたりが、三年間勉強した感想です。さて、これをどう活かすか。)

2020/12/26 土木学会誌2021年4月号❷

10/29の記事で宣伝した土木学会誌4月号にあわせて行った若手シンポジウムですが,無事終了しました.アンケートも300人超の方から回答があり,大変ありがたいです.ただいま,特集掲載に向けた執筆・編集作業の真っ只中です.

30代シンポジウムでは,「30代の今」と「2050への足掛かり」という二つのセッションを行い,僕は「2050への足掛かり」のセッションの進行を行いました.国交省,都市設計,建築家と,社会基盤,都市,建築と分野横断型の登壇者に登場してもらって議論しました.シンドボク2050というタイトルをシンポジウムにつけました.これは,必ずしも今までの土木ではない,これからの土木を考えたいということで“ドボク”としました.僕自身も都市工出身で流動しているということもありますが,地域や都市を作るのに,都市だけ,建築だけ,土木だけ,ということはなく,その間を行き来しながら,形成されていくことは多くの人に認識されつつあると思います.より良い場所を形創っていくためには,分野に縛られずにやっていかなくてはならない,そういう思いです.

セッションは「2050への足掛かり」と未来志向のセッションだったのですが,“今”が大事という話が記憶に残りました.30年後というと遠く思えるが,今はじめた都市・土木の大規模プロジェクトが形になるのは30年先である,また今壊した構造物は絶対に2050には残っていない.歴史性はそこまで高くなく保全の対象とはなっていなくとも,当時の粋を尽くした建築物でまだ使える(現代オフィスビルほどの使いやすさはないが),そういった建築物・構造物をリノベーションするか,壊して建て替えるのか.それを決断した“今”の先が未来に繋がっている,という話でした.維持管理と言ってしまうとやや並行線・停滞感を覚えますが,リノベーションというと前向きな意味合いも含み,これからどんどん老朽建築物・構造物が増える中で,必要な取り組みと思います.“今”の話以外には,不確実な未来,変わっていく技術・考え方を受け入れてやっていかなければならないという話もありました.今もまさに感染症流行による不確実性を身をもって体験しているわけですが,変化はおきるものでその中で常に対応していこうという心持が我々の年代は強いかもしれません(他の年代のことはわかりませんが(汗)).ただ,受け入れるだけでなく,能動的に受け入れる余地を残していこうという話や,長い年月かかる・使われる構造物を作っているからこその楽しさがあるという話も出ました.やる前は不安でしたが,有意義なシンポジウムだったと思います.

4月号特集全体として,3つのトピックで構成しております.未来の話以外に,今の働き方に着目し,30代ならではの働きづらさやその解消のための工夫についての記事もあります.もう一つのトピックは公共性としました.30代の土木とは直接的な関係は薄く感じるかもしれません.が,土木のやりがいがなんであるかと,土木の人材離れが懸念されていることを考えた中で,現代における公共性とはなにかを示し,なぜ大事なのかを定義することができれば,土木で働く30代の方の思いを代弁し,また勇気づけることができるのではないかと思い,設定しました.期待を煽っています(?)が,良いものになるようにもう少し頑張ります.

2020/11/14 第62回土木計画学研究発表会

IP62で企画セッション「行動モデルの展開 -理論と応用-」を行い,11件の発表をしていただきました.いわゆる離散選択モデルの発展的な内容,アンケート調査やパッシブビッグデータを用いて知られていない行動パターンに迫ろうとする内容,配分計算をベースとしてモデル予測精度向上を試みた内容など,バラエティに富んだ内容となりました.

秋大会は,質疑は5分程度でなかなか直接的な質疑以外を話す時間をとるのは難しいのですが,covid-19の話や地域交通の話などは,狙いをどう設定するのかが非常に悩ましいなと思いました.これらの話題は,行動モデルの応用との関わりが濃く,施策・政策と結びついたモデル分析・予測が求められやすいです.ただ単にデータにフィットするモデルを作ればいいわけではありませんし、行動パターンの解明に特化するわけにもいきません。予測として活用するために、ベースとなる行動仮説と対象となる施策の両方を取り込んだモデル構築が求められます。もう一つ悩ましいのは、モデルの予測精度をどこまで高めるべきか、高められるか、でしょうか。精度評価にあたっては、評価単位も大きく影響します。1日の交通量を当てるのと、5分の交通量を当てるのでは、大きく違うということです。この評価単位は、やはり施策と大きく絡んでおり、なにに使おうとしているのかを考えながら、単位と目標精度を設定する必要があると思います。非常に多くの量・種類のデータを使いながらCVなどを行なっている場合以外は、"精度が高ければ高いほど良い"と一概には言えないかなと感じています。

モデル開発・構築自体はよりどんどん進化していますし、チャレンジする価値があると思います。シンプルなモデルであることも大事ですが,行動原理をより表現した工夫やモデルの深い理解も必要です.一方で、人の行動を評価するにあたり,(既存研究としてある)異質性とかクラスの話が根っこには存在して、開発したモデルを実装するときには,こうした根っこの部分を取り込むことが必要になるのだろうとは思っています.そのため,新しいモデルの開発・工夫にあたり,(推定や配分の)計算アルゴリズムと組み合わせた開発が欠かせない状況になっているのかなと思っています。

2020/10/29 土木学会誌2021年4月号❶

6月から土木学会誌の編集委員を務めていて、2021年4月号の特集にむけて、準備中です。土木の未来というテーマで、30代を中心に今と30年後の土木を考えるという挑戦的(?)な企画です。

今、という点でいえば、30代になると、仕事では上司もいて、部下もいて、という挟まれた環境となり、人を育てながらメインで働くという新たな段階に突入している人が多いでしょう。テクノロジーや働き方の変化にまず直面している世代かもしれません。また、世の中はどんどん単視眼的になり、短期の成果に追われているかもしれません。同時に、プライベートでは、結婚してたりしてなかったり、子供がいたりいなかったり、子供の年齢によって色んな段階があったり、と様々です。(子供の成長にあわせて)プライベートの変化に直面しているケースも多いでしょう。立場やプライベートが多様になるほどに、バックボーンに差が産まれた(20代の頃からの)同僚や友人も増えていきがちです。

未来、という点でいえば、2050年に起きていることを主体的に考えられるのは、まず30代なのではないか、と思います。(今の困難さに四苦八苦はしているものの)勝手に素晴らしい未来はやってこず、未来は今の地続きでしかない、と思います。地方、都市、テクノロジー、環境、災害、どう変わっていくのだろうか。いや、どう変えていくのか。土木や都市は一人では作れず、一方で、惰性で進むだけでは次の未来はやってこない。そんな中、なにを紡ぐことができるのか。

こうした背景の中で、自分たちの足元と道筋を見据えて、次の一歩を議論する。そのような号にしたいと思います。 そのために、通常の編集とは異なり、若手シンポジウムと30代アンケートを開催します。シンポジウムでは特集の座談会の延長的な位置づけとして、聴講者にも入ってもらい、未来とはなにか、都市・土木はなにに向けて誰とどう取り組むのか、をドラスティックに展開したいと思います。アンケートでは、30代の個人個人の働き方、やりがい、未来を答えてもらい、特集の中に載せたいと思います。30代の置かれた状況やナラティブを集めることで、声・想いを上下の世代に伝える記事にしたいと思います。

ドラッカーは、初期の著書「産業人の未来」の中で、『われわれは、未来を語る前に今の現実を知らなければならない。なぜならば、常に現実からスタートすることが不可欠だからである。しかもわれわれは、すでに手にしているものによって初めて必要とするものを作り上げることができる。手にしていたいものを発明することからスタートすることはできない。』と言っています。30代の今と未来、ドボクの今と未来、果たして、なにを見つめ、どこに届くのでしょうか。

2020/09/21 機会.

先週は,オンラインでの集中講義×2に参加しました.一つは,価値と哲学を考える会で,もう一つは行動データを使ってモデルと政策を考える会で,どちらも毎年9月恒例です.Covid-19でどちらもオンラインに移行して実施したわけですが,教育が提供する機会を考える機会になりました.同級生や仲間と議論しろ,議論を通じて考えが深まる,というのはよく言いますが,向かい合って議論できるような気の置けない相手と相対することはなかなか難しく,成長の機会を逃しがちです.ただでさえ,covid-19で話をする機会が減少している中で,価値・哲学・モデル・政策といった難しい話を話題にあげることは,浅い関係性では難しいでしょう.今回は,こうした難しく・深い話題を対象とした場を提供することで,議論が続けられました.その中で,議論すること・言語化することの意義を認識したもらえたのではないかと思います.言語化するためには考えることが必要で,考えを持っていれば語れるわけではなく,議論する中で伝えるために考えを持つことができるようになっていく.普段何となく思っていることを,“伝える”というのは物凄く難しいことです.相手に揚げ足をとる意図がなかったとしても,語尾の選び方一つで大きく伝えられた側の印象は変わってしまいます.そのために,考えを練って,言語化する必要があり,その過程自体がより物事を深く考える機会になっているということだと思います.大学教育は専門知識を授ける場だけの場ではなく,工学的/知的成長を促すための場と捉えれば,幅広く将来にわたって価値を持つ考える機会をいかに提供することができるのかには,頭を悩ませていくべきなのでしょう.

その他雑感としては,7日間PC半径1m以内に日中座りっぱなしは体(内臓)に悪い,オンサイトには余韻と間という良さがあって,1秒で生活に戻れるのは利点でもあるが,この二つを失う欠点も大変大きい.集中講義における夜の懇親会は学生へのストレス緩和効果として働いていたようだ,オンライン飲み会はちゃんと飲むことが大切な気がする,あたりが残りました.

2020/05/17 アナーバー生活IV(2月~5月)

3月からCOVID-19で自宅待機生活に入り,結局,自宅待機が終わらないまま,バタバタと帰国(5/17)となりました.3/11に州内で陽性患者が発生し,翌週からは授業はオンライン化,翌々週には自宅待機令とあっという間に進みました.検査背景は違うとはいえ,ミシガン州と東京では数字の0の数が一つ違うので,帰国すると,(感染が少ないなという)安心感があります.ミシガン州内はデトロイトの貧困層における感染拡大が顕著でした.エッセンシャルワーカーとして非リモートワークに従事していたり,水道が使えない(州令で貧困世帯も水が使えるように対応)等の事情があるようです.アメリカの大都市は同様の原因を抱えているのだろうと思います.現地にいて感じたのは,大学からの積極的な発信が早期にあったことが印象的でした.Flattened curveのための自宅待機であることを説明し,論理的に理解し,行動してもらうよう,促していました.学生への援助の表明やオンライン化の対応も早かったと思います.

州内では4月後半からは感染者数が小康状態に入ったことや同じ州内でも感染者数が全く違うこと,共和党と民主党の政治問題(Swing Stateで現知事は民主党)があり,自宅待機令を解除すべきかどうかという議論が巻き起こっていました.知事は粘り強く,自宅待機令を続け,帰国後の6月後半からは感染者は100人程度(最大2000人)に落ち着いてきて,小規模の集会やプールなどもOKになったようです.そうはいっても,感染を完全に断つことはできませんので,医療現場の対応可能な範囲内の小さな波に抑えることを念頭に政治的な対応をしつつ,市民は新しい生活様式に慣れていくということになるのでしょう.

研究活動として,一年を通して,Ride Sourcing(Ride Hailing Service: RHS)の研究に取り組みました.研究室も半分くらいの学生はRHSの研究を行っており,最先端の研究に触れながら,自分でも考えることができたので良かったです.(COVID-19で状況は不透明になりつつありますが)次世代交通システムの中でも,RHSはどの都市でも導入しやすく,スマホアプリを介した配車することで使いやすいといった利点があり,非車生活者の多い中規模・大規模の都市では有効なサービスだと思います.また,アメリカでは,こうしたUberやLyftもそうですし,他の様々な次世代システムも受容され,どんどん生活に取り入れられています.新しいことを取り入れる感度・俎上があり,それが実際に世の中の生産性を上げているのではないかと強く感じました.この速度感は,何に起因しているのでしょうかね.また,新しい研究を始める中で,2週間に1度程度,打合せをしてもらえる環境もありがたかったです.また,研究のフレームワークの議論もフラットに行っているという印象で,論文のチェックが丁寧なことも印象的でした.

新しい研究のきっかけ,少ないながらも新たなネットワークや研究スタイル,アメリカの大学・社会文化といった学びを得た一年だったなと思います.

2020/02/18 ポスト京プロジェクト振り返り

(まだ少しありますが)ポスト京プロジェクト3@神戸大も三月末で終わりということで,その取りまとめとして開かれたDTA(&Control) WSに参加してきました.Mike Smith, Chris Tampère, Jack Haddad, Gunnar Flötteröd, David Watling, Richard Mounseといったヨーロッパの研究者などが集い,ヨーロッパにおけるDTA & Controlの最先端研究の議論を和気藹々と,という雰囲気でした.個人的には、Gunnarの抽象度の高いシミュレータの均衡計算方法の話は,彼の過去の論文も含めて,興味深いので,なんとか自分の研究に取り込みたいなと感じています.同時に,そのような抽象度の高い研究もあるのでMATSimの改良が長く続いているのだろうなと感じます.ミクロシミュレーションで行動表現の精緻化のみを進めても,研究的な面白さや計算の確からしさは保てないので,理論的な議論は必要かなと思います.WSのDiscussionでは,パラメータを増やしつづけるABMと理論的観点から少数パラメータで理解を深めるDTAと,それでも実務適用への展開は必要だがどうするか,みたいな話でした.FastDUEでもそうですが,DTA配分がパラメータ種別が限定的といっても,実適用には多数のリンクパラメータが必要になります.また,再現モデルの粗密は政策・アプリと表裏にありますし,交通問題が社会に近い立場にある以上,常に意識せざるおえない観点だと思います.一方で,仮想空間の完全捕捉状態であればより細かなモデル・パラメータを取り入れ、捕捉が疎になるほどそれを補うアソビ/原理を持てるかが重要になると思います.あとは,交通の問題に加え,都市・土地が入ってきた時どうするのか,とかも考えたりします.

ポスト京プロジェクトの五年(後半2年は遠隔参加ですが ^^;)を振り返ると,交通流や計算機の話をよく勉強したなと思います.この機会がなければ,縁遠いままであったろう分野ですが,(まだまだ"出来る"には程遠いですが)新しい自分の色になるようなことにチャレンジできてよかったです.あとは,神戸に着任して早々に起こった熊本地震を対象とした研究がやっと実を結びつつあります.現地に行き,話を聞き,持ち帰って考え,様々なデータを集め,大阪北部地震や西日本豪雨災害後に起きたことも調べ,モデルフレームを整え,計算しながらモデルを直し,データと照らし,直してとコツコツしてました.3年間取り組んでくれた佐々木くんにも感謝です.一旦の区切りで,まだまだ発展の余地ありですので,もう少しやり続けないと思います.

思い返すと,IHPCSS@Boulderにも行き,少し世界が広がりました.

2020/02/04 アナーバー生活III(2019/11~2020/1)

秋も深まり,生活や研究も安定してきたところに,11月はじめにまさかの大雪.平年は12月頃から降り始めるそうで,雪国なはずなのに大混乱でした.街中の道路は渋滞しており,坂道では滑っている車も多かったようです.ものすごく渋滞しているラウンドアバウトをみていると,左側優先のラウンドアバウトにおいて,雪によってサービスレベル(車の加減速)が落ちた状態で,左側から一定の間隔で車がやってくると,うまく交差点に進入できず,渋滞列が長引いたようです.混雑側の道路のほうが需要は多いが信号がないために調整機能が働かず,普段なら入れる程度の車両間隔でも加減速が難しい雪道では入り込めない,ラウンドアバウト内の車両速度も落ちているので捌ける台数も減ってしまう,そのような感じで,どんどん渋滞列が伸びていっているようでした.数日経つと,渋滞道路を避け,優先側の道路側に迂回して該当交差点に進入している車も見受けられました.結局,今のところ(2/4現在),一番雪が積もったのがこの時期でした.どうも今年は日本同様に暖冬のようで雪が降る回数も少なく,5℃くらいまで気温が上がる日も週に1度くらいはあるので融けてしまうようでした.よかったような,やや拍子抜けのような.

1月は初の米国内出張でTRBとPhoenixに行ってきました.初のTRB参加でした.思っていたよりもテーマが幅広く,舗装や街路計画に当然new mobilityまであり,刺激になりました.今回の自分が選んだ会場の好みもあると思いますが,OR的な要素はやや薄く,プランニングやデザインの話をきけて,社会的な意識(例えばミレニアル世代は運転しないとか)にむけて複数の交通データを使って分析するといった理解のための問題設定も多く,総合交通学会らしい豊かさを感じました.公共交通の研究はミシガンのcivilにはないのですが,都市の交通問題を考える際には必須であり,その際にはアメリカではequityが重要な視点になっていると感じました.あとは,温暖化対策も意識の一つとしてあるというのも違いを感じます.ラボの学生さんには,手法的にとんがった研究が少ないのがやや不満そうではありました.その点はinformsの方が刺激的でしょう.あとは避難関連研究のポスター・オーラルで情報収集をしてきました.一度に災害関連研究をやっているアメリカの研究者のトレンドを見えるので,ありがたかったです.ego-centric networkで他者の避難有無を調査して,評価している研究がいくつかあり,調査内容が進化していることを感じました.

Phoenixでは,ミシガンで10月に偶然再開したアリゾナ州立大のProf. Pituに呼ばれ,研究発表とディスカッションをしてきました.ディスカッションで勉強したことは詳しくはすで↓に書きました.セミナーはZoomを使って誰でも参加可能(チェコからも参加者がいたとか),終わった後は動画も公開と知識のオープン化に貢献しており,すごいなと思いました.きちんとマイクやカメラ,ネット環境を揃えればオンライン参加も不便は少ないですし,ITSスタッフが準備する態勢でしたので,手際もよかったです.日本人のレクチャラーの研究者と話したり(オンラインゲーム上の個人観測の話しが面白かったです),なかなかアメリカでも予算の選択と集中が進んでいそうだなと感じたり,校舎がダウンタウンの再開発ビルだったので入っているのがコンピュータサイエンス学科ということで時代を感じたり,完全グリッドの都市構造に開拓の歴史を感じたりしました.夏は暑すぎるようですが,基本は爽快な気候で,グランドキャニオンなどがあるエリアまで車で4時間ですし,アメリカの非都市部を感じるにはなかなかオススメのエリアです.

年末年始はミシガン州の西の方を少し観光してきました.どこの都市にいっても思うのですが,libraryとchild museumが子供の遊ぶ・成長する空間を提供していて,非常にありがたいです(旅行先でもアナーバーでも).特に大きめの都市のchild museumはハイハイできる子から小学生まで楽しめます.アメリカから日本にきたら,その違いに驚くのではないかと思ってしまいます.日本も季節がよく,公園で遊べる時期は徐々に短くなってきているように思いますし,屋内の空間を公共ベースで充実させる施設があってもいいのだろうなと思います.

自分の研究は引き続きRHSをやっていますが,こうした研究は未来の問題を考えていることをひしひしと感じ,これはアカデミックの役割の一つであると感じています.あと,出張などで外の人と話すと,というかアメリカにいると,Assistant Professorは研究室は基本独立しており,立場は日本の助教より高いので,自分自身も(日本の助教ですが)内面的に自律へと意識がむきます.

2020/01/28 (勉強中)アメリカにおける災害対策

TRB2020やASUに行ったり,日々の生活で得られる勉強を足掛かりに,アメリカでの災害対策を少し勉強してます.まず,日本ではなじみの薄い湖による浸食被害についてですが,温暖化の影響で湖面が上昇する中で徐々に被害が出てきている.護岸すれば砂浜が失われてしまいますが,砂を運搬して,入れる対策だけではキリがない.そんな中,Urban PlanningやLocal Communityも協力して,建物位置を動かしながらの対策も進めていこうとしているようです(参考).関わっている組織も非常に複合的であり,興味深いです.

ハリケーン避難では,アリゾナ州立大でハリケーン避難の研究をしているProf. MachandaniとMs. Ketutに色々と教えてもらいました.警報類はCounty(郡)ごとに出され,ハザードマップや避難所案内,災害後の調査等もCounty単位です.Pinellas Countyのサイトの中に,Evacuation Route Mapがありますが,これは日本のHazard mapに相当する内容に加えて,避難時に使うべき道路リンクも記載されています(驚き).サイトには,これ以外にもハリケーンのsimulation動画やどの避難所に逃げるべきか(公的な避難所は日本と同様に学校や体育館のようです.ホテルや知人宅に避難する場合もあります)等も細かく記載されています.何より,こうした避難の情報は郡のサイト内(の上の方に)に常設されており,重要な情報と位置づけらえれていることがわかります.また,彼らは,避難の際にガソリンが大量に使われ不足するので,その対策のためにガソリンの運び方の最適化の研究もしています.ハリケーンのカテゴリーに依りますが,10~25%前後の人はフロリダ州外へ避難するそうです.近所の避難所に移動する人もいますが,同County内や州内での避難も含めて,Countyレベルでの大規模避難になれば,大きな道路混雑が生まれることは想像に難くないです(普段の朝ピークでも混雑してますからね..).一定レベルの雨量・風になった時点で自動的に道路を封鎖するとのことですし,避難時の道路混雑の問題が一番の課題のようです.

州内のハリケーンの災害復旧では,交通関連はおそらくDOT(Department of Transportation,例えばフロリダはFDOT)が中心になるだろうということでした.実際に,Emergency Support Functionの#1のTransportationではFDOTがLeading Agencyとなっています(参考).事前からの準備の話はこちらなどにありますが,車社会なので,道路上のdebrisの除去や電気の再供給と予算・補助金の話がメインのようです.なお,ハリケーンの被害は,フロリダ州・テキサス州・ルイジアナ州がトップ3だそうです.

また,水害関連では,自宅購入時は立地場所による洪水保険加入が義務付けられています.そのためのflood mapをFEMAが提供しています(こちら).一度作成された後も,周辺環境の変化によって,再作成のプロセスがあるそうです(参考).インフラ,河川,過去の履歴などを元に検討した上で,communityも含めて更新・作成の必要性を確認して,Flood mapの作成を完成させていくそうです.住宅保険に関わることなので,地元住民を巻き込んでやっていくフェーズが必要で,その中で実リスクを認識してもらうことができるのでしょう.作成された地図は,上述のサイトに住所を打ち込むことで確認できます.同様に,災害対策を踏まえて,最低限満たすべき建築コードを示すサイトもあります.元々,街中での火事対策から始まったとのことですが,洪水も含めた様々な災害や健康維持のためのcodeが提供されています.※どうやら,日本も住宅購入時に水害リスクを説明することを義務付ける流れのようです(参考).

津波のリスクが高いのは,オレゴン州になります.こちらのサイトに "When they understand the vulnerabilities, they can look for ways to improve evacuation, and implement land use strategies to improve community resilience."とあるように,教育・避難と土地利用の両面からの対策が基本となっています.ハザードマップは,避難リンクや方向,避難所を示した上で,地震発生時にいた場所に応じてどのくらいの速度で走ればいいのかを色で表しています.津波が来るまでの時間がわかっても地震からの経過時間はわからなくなりやすいです(普段の生活でもあっという間なので).「地震が起きたら,この速さ以上で走れ」を示すのは,わかりやすいかもしれません.上記のサイトの3番目は"Tsunami land use resilience measures"です.避難とLand Useを組み合わせて対策することを志向しています.

ハザード・避難の示し方,土地利用との連携,住宅への関わり方等,参考になりそうです.

2019/10/25 アナーバー生活II(9月~10月)

9月に新年度が始まり,週に1回,授業としてDr. Yinが企画運営しているNGTSセミナー聴講しています.基本的には学内の研究者(Civil Engineering以外にも交通心理学やOR系の学科があるので候補者はたくさんいます)や博士学生,近くの大学の研究者が1時間弱のトークをしています.加えて,1セメスターの中で2人(今セミスターはProf. Ouyang, Prof. Mirchandani)はDistinguished Lectureとして,遠方から招待して,Lectureをしてもらっています.また,せっかくから遠くから来ているのでということで,Dr.陣やPh.D candidate陣でその日は入れ替わり立ち替わり,Discussionやら雑談やらをする時間を設けてもらって,充実した内容でした.また,来週はProf. Osorioが別のセミナーで来る(学会の打合せと兼ねて?)ようで,学内にいてもなかなか刺激的です.交通系以外も同様に定期的な研究セミナー(学生向け)が多く,修士や学部から研究と見聞きする機会を創出しようとしているように感じます.(一方で実務家の人のセミナーシリーズもあります).

ミシガン大の研究室は大講座型で,Prof. Yinの主催する研究室は,博士学生4.5人+中国からの交換博士学生1人+ポスドク1人と小規模です.基本には,奨学金型がほとんどというよりも,プロジェクトに紐づいた研究が博士学生には多そうです.このあたりは日本に近いように思います.共同指導のシステムがあったり,OR系の学科との連帯が強かったり,1年後に博士学生が来ることが既に決まっていたり,お金の使い方が緩やかだったり,というのは,やりやすいようなシステムになっているかなと思います(RAをしている学生もいて,その場合は忙しそう). アカデミアへの就活はなかなか大変そうです.博士最終学年やポスドクの人は,それにほとんど時間を割かれている感じもします.ポスドクの同僚は,博士学生がこの10年くらいでどんどん増えてきている一方で,アカデミアのポストはそれほど増えていないせいではないかと言っていました.ただし,日本と全く異なる点は,実務側も博士人材を求めている点でしょうか.新しい物事を次々と取り入れていく社会になるためには,新しいことが(技術的にも)できる人材・ロジカルに考えられる人材を大学から社会に送り出すためには有用に思います.競争社会で厳しくもありますが..(アカデミアに残ってもtenure-trackの昇進条件も厳格ですし)

また,9月にUMTRIが中心となって,運用しているM Cityを見学しました.自動運転車を走らせる教習所規模の施設が学内にあるという感じです.他に自動運転車自体は近くのHighwayを中心に走らせた走行実験をしているようです.自動運転車の開発は当然自動車会社中心なので,開発自体を大学がやろうというわけではありません.ただし,単に自動運転の技術があるだけでは社会に実装されていかない,実際に実装されるときにどういった問題が起こりうるのか,社会実装に耐えられる法律・制限はどうあるべきなのか,を政府だけでなく,研究的なアプローチで考えていくために,というスタンスがあるように感じます.それが,例えば,自動運転社会・システムの中でHuman Factorがどう働くのかといった研究に繋がっているようです.

M cityのような機会や上記のセミナーや研究室のゼミなどで感じるのは,新しいTechnology (Ride sourcing, Drone, Automated Vehicle, Platooning etc.)を導入することに躊躇いがないということです.それは社会もそうなのだろうし,もちろん大学もそうです.日本ですと,様々な問題がまず頭に持ち上がり,それを潰していく又はなかなか変わらないという感じになってしまいがちです.一方で,アメリカは,おそらくTechnologyが社会を豊かにするということを起点としていて,研究側は,そのTechnologyをどううまく社会システムの中に組み込めるかを肯定的に検討しているという印象です.実際にUberもAirbnbも体験すれば,その便利さ(=今までの苦労をTechnologyで埋めているという感覚)を実感するわけで,確かにTechnologyで豊かになっているのだろうなと思います.(日本が渋滞対策のための料金の柔軟な変更の法令準備さえまだ出来ていないということを考えると,学も民も官も変わっていかなければと思います)

※10月もそろそろ終わりますが,秋も後半といった様子で,木々も色づいてきています.コート必須です.

(M CityのAV車と紅葉)

2019/9/30 Software2.0

n月刊ラムダノート vol. 1 No. 2の#2 計算機科学から見たディープラーニング(今井健男)を読みました.Software 2.0のアイディアは,「テスラのAI部門の責任者(Director of AI)であるAndrej Karpathyによるブログ」が発端で,広がっているそうです.DNNのようにモデルの柔軟性をできる限り高めたモデルを使ったうえで,データにフィットさせる結果を得るというフレームワークは,これまでモデルを扱ってきた人に(下手するとデータを扱ってきた人にさえ)腑に落ちづらい形でした.しかし,Software2.0の考え方(詳しくは↑の記事かブログ)に照らすと腑に落ちる部分は多々あります.大量のデータがここまで出てきている中で,”予測精度を向上させるため”に,モデルの形を"事前に"与えることは足枷であり,モデル自体を探すアプローチをディープラーニングが採用していると捉えられるということでしょう.先日のWSでも,モデル式自体をフォローすれば予測が当たるかというとそんなことはなく,理論は制約程度に使っているという話がありました.このあたりは実務に携わっているからこそ出てくる考え方かなと思います.(DL/AI系こそまさにそうですが,実務的にどんどん進んでいるからこそ,学術的にも面白い工夫が出てくるのだろうなと感じます)

こうしたフレームを理解した上で,なにをデータとして与えることで,なにを予測できるのかを考えていく時代になりつつあるのかなと思います.

2019/9/20 交通短期予測と次世代交通マネジメントに関する国際WS@立命館

力石先生,塩見先生による交通短期予測と次世代交通マネジメントに関する国際セミナー@立命館大学衣笠キャンパスに参加・協力しました.

    • 短期予測とマネジメントの組合せを目標に,力石CARTは活動しており、CART自体も研究から実務への現実的な繋がりを想定したファンドであり,今回はオランダでFileradarのChris van Hinsbergen共同CEOとtudelftと兼任でフィレダーダにpart-timeで参加しているAdam Pel准教授にオランダからはるばる来てもらい,WSを行いました.
    • Fileradarでは,ロッテルダム都市圏の道路マネジメントやトンネルの混雑緩和@Maastunnel, Rotterdam,ストリートスケールの信号制御@'t Goylaan st., Utrecht などの実務を展開しており,その具体の話が聞けたので,なかなか面白かったです.都市圏レベルのマネジメントではループディテクターなどの種々の交通観測にTwitterなどのメタデータを加え,履歴データを管理しmその履歴データを元に交通状態予測(主に混雑下や事故後)を行なっているそうです.紆余曲折あったようですが,現在は類似状況のみの履歴データを取り出し,ディシジョンツリーを構築し,理論的にありえない状態を除外した上で,交通状態の確率的予測を算出するという仕組みだそうです.
    • ChrisがPh.Dを取った後に同時期に学位をとった同級生と会社を興し,10年経っており,基本的にはこのシステム・ソフトウェアを売るという営業形態とのことです.他にもダウンタウン周辺の交通渋滞が激しいリンクの改善のため,レーダーによる車両観測をベースに,10sec単位で信号を制御するというマネジメントの話も聞かせてもらいました.Chrisは,「研究上は,ほらできるよね、こうすると改善するよね」といったことと,本当の実務への展開との乖離に疑問をもち,会社を始めたそうです.実際に観測データの最大限活用した信号制御や類似データのみによる決定木による交通マネジメントのアプローチは,実務に特化することで出来上がった形のように感じました.国内ではなかなか聞けない実務の話で,論文にも当然書かれてこない話ですので,非常に貴重だったなと思います.
    • また,京都での開催でしたが,色々な方面から聞きに来ていただけて,ありがたかったです.
    • 翌日に伏見稲荷に行きましたが,自転車での移動を希望され,やはりオランダ人は自転車が好きということを実感しました.

2019/9/1 アナーバー生活I(6月~8月)

アナーバーに来てから,3ヶ月経ちました.最初の頃は日々新しいことの連続で苦労もありましたが,だいぶ落ち着いてきました.おかげさまで,毎日研究をしています.

    • こちらで参加させてもらっている研究プロジェクトに,Ride-hailing serviceを対象とした研究があります.システム全体の分析として,供給量と需要量に応じたサービスレベルの推移のモデル構築とDiDiの実データによる実証分析が大きな柱かと思います.メインは,この需要と供給のカーブの話.加えて,単純な客とドライバーの量の評価だけでなく,ドライバー行動や客の予測を改善することで,"キャパシティ"を増やせないかということに繋がる実証分析を行っています.僕が関わっているのはドライバーの行動予測のパートです.UberもDiDiもドライバーは(ほぼ)プロ化していますが,個人事業主なので,どう動き,どう拾うかは個人に委ねられています.一方で,Ride-hailing serviceの空走による都市内混雑は社会問題になっており,効率的なドライバー供給は考えなくてはなりません.これは自動運転時代になっても変わりません.まだ,ドライバーの行動分析をしている途中ですが,ドライバーの行動予測をベースに変化を促すことで,より効率的なシステムとするためのミクロスコピックな手法の構築を目指します.
    • 力石先生がやっている新道路プロジェクトに参加しており,ICMC@Kobeでの発表にむけ,単純な時系列データのTensorflowを使った交通需要予測を行いました.このを勉強しながら,ちょっと改良し,というかなり基礎的な内容です.DLはかなりブームですが,フィッティング・当てることに関して特化しており,ビジネスにも繋がるため,多くのエンジニアが取り組んでおり,そのライブラリ・アルゴリズム改良のスピード感は目覚ましいものがあります.適用分野・対象は次々と拡大しており,,,交通分野として,公共的な施策・介入を考える上では,単なる予測では事足りず,いかに適用可能にしていくのかを考える必要はあるでしょう.
    • あとは,以前に行ったIL-JP-WS@Tokyoで指摘された課題も反映等を行いつつ,世帯間インタラクションの影響を考慮した避難開始選択とインタラクション形成モデルのペーパーもほぼまとまりつつあります.細かな設定や結果の確認(説明変数の有意性)などを潰していくと,時間がどうしてもかかってしまうのが課題.もともと,潰し切った結果を持っていればいいのですが..
    • ということで,なんだかんだで時間のかかる計算に取り組むことが多く,高性能サーバマシンに頼ることも多くなってきました.導入・設定となかなか時間がかかりますが,運用を開始してしまえば,思っている範囲内では実行でき,20job同時計算できたり,Laptopへの発熱ダメージの心配もしなくていいので,便利です.
    • このように計算が多い中で,いつも悩みのタネだった,C++での最適化計算時の歯車の再設計問題を克服するため,ライブラリ導入にも取り組みつつあります(今度は諦めずにうまくいかせたい).とはいっても,微分は自分で与える必要があるライブラリなので,どのくらい有効かわかりませんが,探索はスムーズに色々な手法を試せそうです.こうなってくると自動微分したいとも思います.

6月にアナーバーに引っ越して,3ヶ月経ちました.最初の1ヶ月は,AirBnB住まいで,やや子供を遊ばせづらく&(子供の)時差ボケ,また家探し,住民登録,車の購入とバタバタでした.車と新居が同時に6月末に手に入ってからはだいぶ落ち着き始めました.クレジットカードや車免許など,全てでhistoryが重視され,それにより料金や信用がかわる国ですので,最初は日本人コミュニティに頼って,色々↑入手しました.同じ国ということで信用されるというのは,日本にいては感じることのない不思議な感覚です.車を手に入れるまでは,買い物や手続きにもUberで移動でした.アプリで呼べるので,素直に便利です.いちいち電話して,乗る場所を伝えて,さらに行き先を伝えて,,というのは大きな手間です.また,AirBnBでキッチン付きを事前に借りられたり,他にもBusの到着時刻,アプリでの駐車料金支払い(epark),キックボードのシェア(spin)など,さまざまな場面での交通ICT活用により,だいぶサービスレベルがあがっています.管理コストや乗せる側の手間,移動の(非可視的)障壁の軽減といった多くの波及効果がありそうです.豊かさを主観的な見立てで比べることは難しいですが,こうした便利さが豊かさに繋がるだろうといえるだろうし,少なくともアメリカの便利さが進んでいることは間違いなさそうです.

2019/5/13-14 スマート・プランニング実践セミナー@金沢・富山・福井

    • 5/13-14と富山市、福井市、金沢市で行われたスマート・プランニング実践セミナーに参加してきました。北陸新幹線の整備をきっかけに街への活力が生まれ、ダイナミックに展開している様子やその展開にあたってきめ細かな仕掛けをもつ空間ができている様子がよくわかり、大変勉強になりました。
    • 新幹線整備にあわせた駅の再開発にあたり、事業者間への屋根の整備、地元木材を利用した待合広場、駅から広場の見え等、細かな設計が施されていました。 また、駅と昔からの市街地の関係性で都市の骨格が規定される中で、商店街と集える広場の整備、プラスワンの大規模施設をうまく繋ぐことでいかに回遊性を担保していけるのかは興味深い問題と思いました。
    • 一方で、通勤地や居住地などの生活を担う周縁へいかに浸み出して連携・向上させていくのか、都心回帰ともいえるマンション・ホテルの高度利用をいかにうまく適応できるのか等、考えることは現場では尽きません。
    • 福井は初めてでしたが,非常にコンパクトな街にdeepな商店街があったりと,面白そうな街でした.今後はもう少し長く滞在してみたいです.

2019/3/18 シンプルな理論の展開と若手研究者・博士学生 (Ann Arbor付録)

    • 理論はよりシンプルにシンプルにしたほうが価値があるというのは交通分野の研究でも息づいているわけですが、一方で、(若手が)現象の理解を深めつつ、悩みながら取り組んでいると、あれよこれよと色んな肉付けがされてしまいます。それを客観的にみる共著者(ボス)が歯止めをかけてシンプルに戻すことのせめぎ合いで、進んでいく研究は多いと思います。
    • とはいっても、2020年も近づこうという昨今、シンプルな式だけで研究が完了することはきわめて稀で、一見シンプルな式を解くことを目的としたアルゴリズムであっても、労力はすごかったりして、そのために若手は苦闘するといった構図も同時に存在しているのではないでしょうか。 そうでもないのかな。日本ではもうちょい博士学生は自由でしょうか.

2019/3/17 計算技術による適用可能性の拡大と創造性

    • 神戸大在籍時はポスト京プロジェクトに参加していて、大規模計算、高速計算の世界に少し顔を覗かせました。博士研究の中で、計算の高速化のためにC++を自己流でやっていただけでしたが、それを起点に色々と学ばせてもらいました(links)。高速計算のためにはOpenMPやMPIといった並列技術の話が一歩目となりますが、いくら計算機が頑張っても、結局は良いアルゴリズムを作れるかどうかかと思います。とはいっても、なぜ遅いのか早いのかの原因がわかっていなければ、良いアルゴリズムも作れないわけで、そのためにはやはり計算科学・計算機科学の知識や技術が欠かせないということになります。最適化計算だって、非線形になった途端に微分/Particalをどうするのかが実装面では避けられず、そのための技術や知識(ヒューリスティクス)をコツコツと蓄積していく必要があります(とはいってもそれを乗り越える数学が現れたりもします)。
    • 僕の心にとどまっている話に、“キックの技術がなければ凄いパスが出せないのでなく、そもそもその凄いパスを思いつかない”という話があります(たしか、中村俊輔とオシムに絡んだ話だったと思いますが)。計算に当てはめると、要するに、計算する技術を持ち合わせていなければ、(効率的・高度な)アルゴリズムを思いつきえないという事かと思います。これはおそらく正しくて、よいアルゴリズムや速い計算コードを書くためには、少しずつ自分で練習(だいたいOJT)して、工夫を覚えていくことやよりよいコードをみて学んでいくことが必要です。
    • 一方で、交通系の研究者の人と話すと、(交通系の計算であっても)計算を早くする仕事はComputational Scientistの範疇ではないか、Matlabで書いて解ければいいのではないかという議論にもなります。これは微妙なところで、やはり現実的に適用を行う大規模実装ではそうした専門家の参入を望みたいところですが、一方で、研究上でのアルゴリズム開発に関しては、上に書いたように、それなりの知識は必要なのかなと思います。(もちろん、アルゴリズム開発の知識が単純にコードを書きつづけることで身につくわけではありませんが。)

2019/3/16 @ Ann Arbor

    • 助教というと、日本でいうと助手の名前が変わっただけというイメージで、ボスを補助するという印象でしたが、蘭もそうですが、アメリカはより自立的な立場です。どんどん博士取得者が増えている中で、Assistant Professorの倍率が高くなり(100倍以上という話も、)、そのようにみられます。日本の場合は大学によって、小講座だったり、大講座だったり、と状況は違いますが、Dr.をとったあとに(グローバルにみて)どうみられるか、求められるか、なにをするべきは、実はあまり変わらないかもしれません。
    • というのも、ポスドクの人が、assistant professorのインタビューの練習に参加して、色々とダメ出しを受けていて、、今までtransport safetyをやっていたがやりたくないので新しいテーマの話をしたものの、そもそもどんな研究がやりたいかを長く話しても仕方ない。departmentにいかに貢献できるかを今までの研究とこれからの研究で示し、さらに研究そのもの以外の側面での貢献を説明しなくてはならないということを議論しました。faculty memberの一員として何ができるのかは確かに一つのポジションを得るにあたって大事であると同時に、そのためのoverviewを持っていかなくてはならないんだろうなと思いました。
    • あと、ちょうど滞在中はph.Dのリクルーティングウィークに少しかぶっていました。博士志望の学部四年生がいくつかの大学をまわって、興味ある大学を選ぶそうです。一旦入ると五年ほどはいることになるので、たしかに街、大学、学部、研究室の人と十分話せる機会は必要かもしれません。

2019/2/23 @ Ann Arbor

    • 多くの方の厚意あり,University of MichiganのLIMOSに1か月滞在しています.慣れない場所で,あっという間に過ぎてしまうと思いますが,濃密に頑張ります.今日は研究室ゼミで,2件の発表あり,一つはPosDocの方のJob Interview (40min talk) のリハーサルでした.といっても,わりとresearch fund向けのプレゼンのようになり,要再構築というコメントが多かったのでしたが,,土木学科の人たちに向けて何を話すべきか(そんなに研究詳細を伝えるような細かいことをやっても仕方ない)を考えたときに,自分がこれから何をやろうとしているのかを伝え,中や外の人とどんなコミュニケーション・コラボレーションをとって何を学科にもたらすのかを伝えなければいけないという議論が主でした.個別の(研究)課題に陥りがちで,受け身になりがちな自分としては,今の場所の甘んじることなく,先を見据えてやっていかなければと考えさせられました.
    • 金曜の夜は21時を過ぎるとぐっと静かです.

2018/11/4~11/7 : Intelligent Transportation System Conference 2018 @ Maui

    • IEEE ITSC (Intelligent Transportation System Conference) 2018@Mauiに参加してきました。この学会には初参加で、かつ、災害や避難とついていないセッションでの国際学会での発表も初めてのような。。
    • DLV(Driverless Vehicle)の話が各地で話題に上っているご時世に合わせて、非常にDLV関連の発表が多かったです。計画的な視点よりも技術的な開発に寄与するという視点で、Connected VehicleやRoadsideからの観測、Motion Planingといった内容が注目を集めているようでした。特に、車線から外れた軌跡を車両が取るときの挙動についても着目されているようで、意外でした。どのようなことが研究課題かをインプットできるという点でなかなか貴重な機会でした。
    • Deep Learning(DL)やReinforcement learningもそこそこありました。このあたりの手法、特にDL、については、適用が中心なので、議論が深まるわけではないですが、丁寧な発表も多く、多くの場面で使われてきているようでした。データを使った予測の枠組みではDLがかなり表に出てきていますが、
    • 一方で、good understandingに向けたBigData & Data Miningは影が薄くなってきているようでした。なかなかこれという決め手は、データや事象ごとに取り組みが必要な内容であるため、出てこないためかなと思いました。パラメータ推定や最適化は変わらずやりつづけることですが、ITSCのような交通システムの議論からは少し離れているのかもしれません。

2018/2/27~3/16 : Workshop Series

    • ワークショップシリーズということで,2月末から3月中旬にかけて,2/27~3/2 イスラエル工科大ー東大羽藤研合同研究WS, 3/6 Prof. Bekhorのレクチャー, 3/7 Prof. Bar-Geraのレクチャーを含む科研S(代表:桑原教授)WS, 3/9 SIAM PP18でポスト京プロジェクトの企画セッション, 3/10 ポスト京の国際WS, 3/16 ポスト京の成果発表会に参加していました.
    • 合同研究WSは,主な参加者が羽藤研とTechnionチームに限られていたこともあり,少数で自由なゆったりとした議論が展開されました.また,初日に気仙沼と陸前高田へ現地見学したことがあり,避難行動で一体何が起こっていたのか,何が起こりえるのかといったことまで,共通認識を持った中で,議論することができ,とても良かったです.Haifaでも山火事による災害が最近起きたそうで,リスクの不確実性とその認知過程,pick-up行動をどうしたらいいのかという問題意識を持っているようでした.なお,期間中のパラメータ再推定も試みましたが,うまくt値が出ませんでした.
    • Prof. Bekhorの発表はわりと印象的で,いかにシンプルに交通ネットワークの現象を捉えられるのかを考えており,グラフ理論,均衡配分の近似,SOとUEの比較といった昔ながらの手法ながら興味深い内容でした.個人的には梅田で発表してもらった二段階計画問題で下位問題の均衡配分の結果を短時間で得るためにネットワーク形状を変えた配分結果から近似的に得るというのが面白かったです.厳密に計算できること,早く計算できることも重要ですが,シンプルに近似する,そしてどの程度の精度があるのかを知るというのは一つの道筋だと思いました(※ Haas & Bekhor(2017)).
    • Prof. Bar-Geraは,熊本大にもお世話になり,合計で10日間ほど滞在していただきました.研究の話をするととまらない,理論を細かく突き詰めている研究をやっているという感じで,印象的でした.exact FIFO(※ Bar-Gera & Carey (2017))の話を新幹線の中とホテルのロビーで2回聞きましたが,そこに着眼するのは,僕では絶対にないわけで,そういう話をじっくり聞くのもありがたい機会でした.一方で,メンテナンスの最適化やHigh-Occupancy VehicleのTel-Avivにおける実務化プロジェクトといった研究テーマもあり,どっちもできるのがこの分野の研究者のいいところだなと思います.Tel-Avivの海辺に住んでて,Negevにある大学まで1時間半くらいかかるそうで,週に2,3回は研究室に泊まっているという話を聞くだけで,充実して楽しそうなのがわかります.
    • ポスト京のWSでは,相変わらず,構造や地震,津波の人との合同国際WSは難しいなという印象を持ちました(英語だと特に).SIAM PP内の他のセッションもテーマの大きな隔たりはありながら,共通するのは計算手法だけという中でやっているそうで,手法や聞きどころがわかってくれば,もうちょい楽しめるかもしれません(このあたりは非常に細かいので説明しない研究発表も多いですが).成果発表会を聞いていても,計算手法や高速化の工夫,基本的な式展開が共通言語で展開されているのだとは思いますし,このあたりはだいぶ理解できるようになってきています.
    • 成果発表会ではパネルディスカッションに参加しました.フロアから質問が出ていたのでわりと盛り上がっていたようです.計算量を増やしていくなかで不確実性を捉えていくことができるのではないかという話に質問をもらえました.災害時の交通は交通工学の中ではまだ山とも海ともつかないもので,なかなか共通理解や研究の進展は薄いのですが,行動規範の理解・モデル化とともに,不確実性の被覆ができるようになると,なにか一歩先に進めるのではないかと思っています.
    • Prof. ToledoとTechnionからの学生さん含めて,イスラエルからのお客さんとご一緒していたわけですが,敬虔なユダヤ教徒(全体の20%くらい)とそうじゃない人では生活習慣・食べ物の差は大きくあるようです.Prof. Bar-Geraは日本だとなんでも食べられる(イスラエルだとレストランが敬虔な方を意識して出されるメニュー自体を自主規制する場合が多い)から,試しになんでも食べてみたいというタイプのようで,アナゴの天ぷらも試していました.串カツとしゃぶしゃぶがお好みだったようです.

2018/01/21 : 第57回土木計画学研究発表会(ip57)の企画論文セッション

6月に東工大で行われるip57の企画セッション「行動モデルの展開 -理論と応用-」を立てています.論文が集まれば開催される予定です.

今回は,土木計画学大会運営小委員会からの提案を受け,カジュアル・イブニングポスターセッションとなる予定です.ip57の新規の企画として,ざっくばらんに深くじっくりと議論できるようにという趣旨のもと,飲み物や軽食を交わしながらのややカジュアルな雰囲気の中でやろうというポスターセッションです.他の交通ネットワーク,交通流のセッションと並行して行われる予定です.どういう学会であれば面白いとかためになるとか色々とありますが,発表者や聴講者の方々がその研究をより研げる機会になるよう,やっていきたいと思います.

2017/12/13 : 坊ちゃんセミナー@松山

愛媛大で行われる坊ちゃんセミナー第5回で発表してきました.神戸にきてから,やっている内容です.コメントでももらいましたが,復旧期の交通の計算を目指しており,大きな問題であり,同時に基となる研究が少なく,悩みの多い研究です.観測が優れてきている時代の中で,災害・突発事象等の稀少事象を予測し,備えるためにどうしたらいいか.不確実な事象を幅を持った結果を得ることで抑えることができないかということを考えています.2018年に色々と収穫できるといいのですが..

あとは,若いうちはやり続け,それを年齢を重ねてもやりつづけること.質問にはきちんと折れずに答えること.というあたりを忘れずにやっていきたいと思います.

2017/11/07 : Dr. Pel セミナー@六甲

TU DelftのDr. Adam Pelを迎え,”Making route choice and traffic flow models more realistic, but not more complex”というタイトルの発表をいただきました.前回の2014年7月に発表をしてもらった際は,彼がD論から行っている避難関連の研究の話をしてもらいました.今回は,経路選択とDynamic Network Loading (DNL)について,基本的な内容から最近の研究の話までをしてもらいました.経路選択は,災害時は動的にネットワーク状態が変化するので逐次型の経路更新過程が必要になるが,経路変更のための労力が必要であり,こうした慣性効果のため,単なる効用を比較しただけでは再現できないという話でした.DNLでは,Capacity Dropを考慮したFundamental Diagram(FD)のモデルを紹介してもらいました.このモチベーションは,災害時は混雑が多く発生するが,線形のFDでは混雑の悪影響が過小評価されてしまうので,なるべく適正に評価したいというモノです.

避難という現象を対象に研究すると,単なる適用になりがちですが,行動モデル,交通シミュレーション,最適制御と行ったりきたりする中で,こうした気づき,それを理論面での発展に繋がるという点は非常に面白いです.今回の来日の主目的は復興の現場の見学で,他には最近はHPCのプロジェクトも抱えていたり,リアルタイムマネジメントのベンチャー会社にも参加していたりと,多方面のことを学び考えながら,交通分野の中で色々なものを積み上げているということで,なかなか刺激的でした.

2017/11/03 : 土木計画学秋大会@盛岡

ip56で「災害時の交通行動」というセッションのオーガナイザーを行いました.国交省の松本氏から「道路の通行規制がネットワーク全体の自動車交通に及ぼす影響の定量的分析」,名古屋工業大の西田氏から「豪雨災害時におけるプローブデータとシミュレーションによる帰宅交通対策分析」,東京大のDharmarathna氏から「Unsteady Travel Behavior in Major and Minor Scale Disasters」という三件の発表をいただきました.

その場ではうまくまとめられませんでしたので,まとめとして考えたことを少しだけ書きます.まず,三件は「災害時の」交通行動と一括りとなり,特に車の経路選択や経路所要時間に着目した研究でした.ただし,災害時といっても,その内容は時間軸・ネットワーク密度という点で対象は異なっています. 時間軸は,豪雨中(または直後)の行動と,被災リンクが明らかになった被災からやや時間が経過した後の行動という違いがありました.後者は情報取得済みで被災リンクにより生じる迂回距離を議論の対象とし,前者は情報未取得により生じる経路選択(と混雑)を計算の対象としています.前者の研究にあたる西田氏は情報未取得者が通行止め区間と知らずに経路選択することで生じる混雑を指摘し,Dharmarathna氏は災害時混雑化のMyopicな経路選択行動の存在を実証しています.また,後者の研究発表を行った松本氏からは大雪時には通行止めの情報提供のタイミング(早期化)が重要であるという話題も提供いただきました.

こうまとめますと,災害時の経路選択の再現には情報取得状態の仮定が非常に重要であることをそれぞれの見方で示していただいた三件であると思います. しかし,情報取得が重要であることは明らかですが,その先に進むのはなかなか難しい問題です.個人的には,基本的には楽観的(混雑を想定しない)な経路選択者が多いのではないかと思いますが,この点についてはまず実証から必要なのでしょう(楽観を仮定して計算するとなぜ楽観なのかとすぐ突っ込まれてしますので).個人的には楽しいセッションでした.

2017/10/14 : 「災害と人の行動」セミナー@野田・運河

東京理科大の野田キャンパスに行って参りました.夏の学校の裏で,東京理科大学理工学研究科横断コース「防災リスク管理コース」第一回セミナー「災害と人の行動~避難に関わる数理モデルとシミュレーション~」で「避難開始選択の行動モデル -将来効用と他者の影響-」というタイトルで発表しました(博論の内容が中心です).学部間連携型のセミナーということで,数学科の方もおり,その視点からすると認知を取り込んだモデリングとその実証というのは,サイエンティフィックじゃないようなというコメントをいただいのが(ポジティブな意味で)印象的でした.理論モデルをベースに現象観察だけでは見えないものを追いかける先になにかがありそうと感じながら,僕らは日々研究をしているということなのでしょう.それは,数学家の目から見ると,現象依存であると見えるのかもしれません.

また,夏の学校では,参加9年目(くらい)にして,初のネットワークモデラー系の研究室が受賞となりました.おめでとうございます.

2017/07/01 : IHPCSS@Boulder

高地トレーニングで有名なコロラド・ボルダーでのIHPCSSに参加してきました.

参加者側での夏の学校への参加は久々でしたが,世界から見たHPCへの視点は,また日本とは少し違っており,勉強になりました.内容は,並列化の基礎コードの演習,HPC技術をうまく使うためのツール(プロファイル,可視化)の解説,応用分野や研究開発体制などのレクチャーでした.参加者のバックボーンとする分野は異なり,共通点はHPCであること,またPh.D/PostDocを対象としていることもあって導入的な内容が多かったです.Mentoringセッション等も含めて,最新のツールやC++/C/FortranやBigDataへの捉え方など,HPC分野の色々な話を聞けてよかったです.また,最先端の研究も大切ですが,ユーザビリティや最初の一歩の障壁を下げて,分野に関わる人を増やしていくことを大事にしているんだなと感じました.

自分の研究分野をtransportationと説明すると,何の?(quantum?)と聞かれる会でしたが,インタラクションの量や計算速度,グラフなどをうまく説明すれば,なんとなくわかってもらえるかもという印象も得られて,よかったです.ちなみに,夏の学校恒例(?)のcontestの評価対象は,当然ながら秒数のみでした.

紹介された主なソフト: 3D Visualization Paraview, Profiler VI-HPS & ParaProf & Cube, Documentation tool Doxygen

2017/06/15 : ip55@松山とiccs2017@zurich

プロジェクトの中では災害復旧期の交通需要モデルの構築を主に担っており,関連して次の2件の発表に主に関わりました.

1つ目は,OD分布をいかに構築するのか.観測が増え続ける現在では,観測断面交通量等を用いたGLSモデルによるOD分布の構築の精度が高まっています.しかし,そうした断面等の観測を前提としない状況では,伝統的な四段階推定法に則れば,発生集中交通量のみがインプットとなります.これは,古くはWilsonのエントロピーモデルから取り組まれている問題ですが,すぐに断面交通量で補正するというモデルがでてきてしまっており,発生集中交通量のみからOD分布を得るというモデルは,あまり研究されていません.しかし,将来予測や災害復旧期のことを想定するにあたり,そうした断面交通量などの観測結果を用いることはできません.と同時に,予測では,現在の目的地の魅力度や旅行コストからも一定の変動が生じうることを見込むことが必要でしょう.

そこで,目的地選択モデルの効用項として,旅行コストと目的地の魅力度と,出発地iと目的地jの間に生じる観測できない空間変動に因るコストを加えています.この空間変動コストは旅行コストの対数に比例する形とし,その比例係数は,(未観測変動なので)乱数から与えています.乱数で与えるためにはモンテカルロ法を用います.そのため,最終的にはOD分布の集合を得ることになります.OD分布の未知数は,各ODペアの交通量であり,ゾーン数×ゾーン数です.対して,インプットは発生集中交通量であり,ゾーン数×2です.この既知の数と未知の数の差を考えれば,一つの表のみで予測しようというのは明らかに困難であり,集合をもって,予測とするというのは理にかなったことではないでしょうか.

2つ目は,他者相関を考慮した選択モデルにおいて,いかにローディングするのかという研究です.他者相関を考慮したモデル(Local Interaction model)では,ローディングする際に選択確率を決定するにあたって,他者の選択確率(選択)を反映する必要があります.そのため,ネットワークでつながる全員分の選択確率を得るためには,全員の選択確率を同時に決定する必要があります.最尤な同時確率を得るためには,(各個人の選択肢数)の(全人数)乗のパターンを試すことが必要です.これは,NP-hardなので,都市スケールのシミュレーションでは不可能です.そのために,既存のミクロシミュレーションで他者相関が考えられているのは,せいぜい家族内のみです.この指数式時間の同時確率を多項式時間に減らすために,他者相関を近似的に評価するという式展開を行いました.

松山での学会からそのままZurichでComputational Scienceの学会に参加してきました.分野融合型の学会であり,手法も様々なため,発表の質にばらつきはありましたが,超多次元の時のTrust Regionの探索範囲は正規分布で与えてしまったほうがよいとか,Load imbalanceを改善するために計算コストに関するヒューリティクスによる最適化を用いていたりとか,Taboo listはshort memoryに乗せたほうがいいとか,deep learningのレイヤが深い理由とか,マニアックな話を聞いてきました.

2017/06/02 : ベクトルレジスタ

ARM社のHPC向けのCPUとして,ARM SVE(Scalable Vector Extensions)の話が出てきていますが,こちらの記事をみますと,ポスト京機で,現在の50倍の性能で,15倍の高効率(たぶん電力)を達成したいということだそうです. クロック数の進化は止まっていて,主記憶メモリの容量増大も頭打ちなので,2048bitまで対応できるベクトルレジスタを使うことで,一度に計算できる量を増やすというのが展望ということでしょう.

この記事も詳しいですが,必ずしもベクトルレジスタを目一杯使わなくても計算できるようになっているというのがARMアーキテクチャのウリだそうで,すが,当然早い計算を行うためには目一杯まで使ったほうがいいのでしょう.ベクトルレジスタに乗せる乗せないとのはC言語レベルでは書ききれないわけで,コンパイラ頑張って!..という簡単な問題ではなく,そもそも長いベクトル計算を持つアルゴリズムにすることが求められるということです.「ARMの64ビットのライセンス供与先企業は全て、SVE技術を使用することができる。」(出典)ということで,一般向けのサーバでもSVE関連を意識すると早くなる時代が来るのでしょうか.

先の記事では,もう一つ,プレディケートレジスタというあまり耳にしない単語が出てきますが,「制御ループに関するさまざまな判断を管理するために使われる」そうです.このレジスタの存在は電力効率と関連するのでしょうか(?).ベクトルレジスタとの組合せで必要なのでしょう(??).

2017/05/21 : 並列計算

一口に並列化といっても,様々なスケールのものがあります.基本的には,パイプライン処理による時間並列とパラレル処理による空間並列の二つに分けられます.現在では,計算にあたっては,どちらもコンピュータの力で図られています.そうした中で,MIMD(Multiple Instruction stream, Multiple Data Stream)の計算を行うことができるマルチコンピュータ(プロセッサ)を使うということが主流になっています.

時間並列では,一つのプロセッサで処理を少しずつずらして,時間的に分割して計算をすることで高速化を図ります.時間並列を進めるため,パイプラインの段階数を増やすことで速度向上も見込めますが,その際にはレジスタを効率的に使う,または数を増やすことが必要になります.単に,パイプラインの段階を増やすだけでなく,1命令で多数の要素の計算を行うことができるようにするのがベクトルコンピュータ(ベクトルレジスタ)です.一度に計算する要素数を増やすことで(ベクトルの計算をする),ループの回数を少なくします.思った通りの高速化のためには,ベクトルレジスタの長さにあった計算を行えることやデータへのアクセスがスムーズに行える必要があります.計算対象のベクトルが長いほど,ベクトルコンピュータの有利性は増します.

空間並列の話は,OpenMPやGPGPUをイメージするとわかりやすいですが,複数のプロセッサで計算を分けることで,高速化を図ります.GPGPUはこうした空間並列の計算で性能を発揮します.計算対象データの依存関係がなければ空間並列性の高い計算をすることができ,要素プロセッサの多いGPUには有利です.ただし,主記憶とGPUが同一基盤であるためメモリ容量が限られる点や,Graphics Processing Unitであり,計算結果を戻す方向のデータ転送がネックとなりうる点が課題です.

そうした中,命令レベル並列(コンピュータ・コンパイラの機能を生かした並列化)のためのトランジスタや周波数の増大(に伴う電力や熱の増大)やパイプライン処理による性能向上の限界のため,陽にプログラミング上で並列化を行うことで高速化を行うマルチプロセッサ(コンピュータ)の時代になっています.すべてのプロセッサ間で共有するメモリはなく,ノードコンピュータ間でデータ通信・同期を行うことを前提としており,高並列が行いやすいコンピュータであるといえます.そのデータ通信・同期のための標準規格がMPIです.MIMDコンピュータでの効率的な実行のためには,マルチコアでの計算を可能とするアルゴリズムの開発と,上述したような高速化と組み合わせた計算コードが必要となります.

あまり,うまく整理できませんが,,とりあえず,進んできた流れは分かった気がします.(参考:コンピュータ・アーキテクチャ

2017/04/30 : 計算と交通工学

2013年に,柳沼さん斉藤さんとこういう発表をしたことがあったのですが,いまやっていることとけっこう関連しています.

前半はProbit modelと計算機科学の話. Probit model再来は計算機性能の向上とアルゴリズム改良が大きく寄与しているとまとめられています(ただし,時代は移り,CPU性能の頭打ちから並列化時代へといったタイミングから,主記憶メモリの容量増大の頭打ちからポストムーアを見据えてという現在になっており,キャッチアップはより難しくなっているように感じます). こうした交通分野と計算(機)科学の密接な結び付きは,後半の観測と予測の話からも暗に示されています. 予測精度の向上と計算量の増大,現実的な求解のための(近似)計算アルゴリズムは,切り離せない関係にあります. また,Sundaram et al. (2011)をみると,DTAと常時観測データが相性がよいことは明らかです. ただし,パッシブデータをいかに工学・予測に載せていくのかというのは,昨今の情勢をみると一筋縄ではいかないようで,いかに個々のモデリングをきちんと組み込んでいけるのかが大事であることは間違いありません.

もちろん,交通分野では,シミュレーション自体が,どれだけあっているのか,ダミー変数だらけではないのか,といった懐疑的な目を向けられているのは承知ですが,研究を工学(実務)に近づこうとするほど,大きな範囲をカバーできる計算がないと役立てられないというのは一つの事実なので,価値があるのではないでしょうか.

2017/04/16 : メモリウォール

コンピュータ・アーキテクチャと高速化の話について,最近勉強を始めたところなので,メモ.

計算の高速化にあたって,わりと始めのほうに問題となるのが,命令コードの局所性,メモリの時間的空間的局所性です. 記憶システムの階層構成の図(例えばここのC)のように,レジスタ・キャッシュ・主記憶・半導体ディスク(SSD)・二次記憶・周辺記憶の順に,高速・小容量の記憶システムから低速・大容量の記憶システムに移っていきます. 主記憶(たいてい,メモリと呼ばれる)までが内部記憶で,この本では,レジスタへのアクセス速度は0.25~3ns,キャッシュは1~10ns,主記憶は40~100nsとされています.容量は,0.1~1KB, 16KB~4MB, 1~256GBと1000倍以上の違いがあるわけです. アクセス速度はデータ転送の速度との関わりが深く,一定量の計算にかかる時間に直接的に高速化には効いてくる.もちろん,キャッシュ上のデータ容量が増えれば,アクセスしやすくなるので高速化に影響するわけですが,容量の差は,ものすごく違う(ここのp17)わけで,高速化にあたっては,いかにキャッシュに載せるのか,いかにキャッシュにあるデータのみにアクセスするのかが大事ということです. ちなみに,メモリからの呼び出しにかかる時間が遅いという弱点を,ノイマンボトルネックやメモリウォールといいます.

ハードのアーキテクチャの方に目をむけると,データ転送というのは物理現象であり,オンチップキャッシュやキャッシュの階層化という工夫は既に行われています. そもそも,ムーアの法則で言われているように,"トランジスタの面積を小さくすると,同じ面積で作れるトランジスタの数が増える.これにより,同じサイズでも製造コストは同じで,性能は高まり,消費電力はそのまま",という集積回路の開発技術の向上によって,メモリウォールを改善し,コンピュータの計算性能は右肩上がりを続けてきたわけです. しかし,このムーアの法則が終わりに近づき,ポストムーアの時代への準備が始まっています(参考1参考2).始まっているといっても,ムーアの時代のようにハードによる計算高速化の明確な方向があるわけではなく,まだ議論している,試している段階のようです(初学者的感想). しばらくは,容量がどんどん大きくなっていくメモリに対して,計算に使う部分をいかにキャッシュに持ってくる・維持するのかという工夫がソフトウェア側には求められそうです.

2017/04/01

博士課程の頃は,わりと外に目が向いていて,ちょこちょこと少し離れたことを勉強をしていて,それが面白く,また,そういうことが大事という印象が強かったのですが,ふと,この1年は,なにをしたのだろうという疑問が最近はわいてきていました.が,とある若手の勉強会に参加したところ,この一年,並列化とコンピュータの勉強をしていたのだなと実感.研究のための道具として直結しすぎて,あまり勉強という印象はなかったのですが,よくよく振り返るとマニュアルやらブログやらで情報かき集め続けていました.まだまだ,定着しておらず,また整理されていない内容が多いですが,この半年でよくかみ砕いていきたいと思います.

2017/02/16

もう2月ですが,四月からこちらの3番のプロジェクトの特命で神戸にて働いてます. スパコンで使うに値するシミュレーションを構築するというプロジェクトです. フラッグシップ(FS)プロジェクトという大仰な名前がついていますが,交通分野(社会経済分野ではと言い換えてもいいかもしれません)ではスパコンを使うというのは世界的にみても稀であり、試行錯誤の真っ只中です.

FSといいつつも,他のプロジェクトをみてみると,このへんの人たちがやっているプロジェクトは,社会経済分野をカバーしており,旗はひとつではありません. 統計物理や物理工学からの流れであり,我々の分野からみるとどのくらい合っているのかというツッコミがよく入るわけですが,コト、計算という分野での比較になれば,サイズ・人数・早さはどうかと測りやすいものの話になります. さらに,こうしたものが10, 20年続くと果たしてどうなるのかというのは,よく考えるべきことです. 昨今のビッグデータの潮流を踏めばより合いやすくなることは確かなわけで,規模や早さがより重要性を増していくことは間違いなく,今後,どうなっていくのでしょうか.