Research Topics

Last updated: September 25, 2023

はじめに

私の専門は何か?と問われれば「応用数理学」と答えています。バリバリの数学者から見ればお叱りを受けるかもしれませんが、自分のことは(一応)数学者だと思っています。

私の基本的な研究スタンスは、産業界をはじめとする一般社会の諸問題や数学以外の他の学問分野での困りごとを背景とする諸課題を、数学理論(含む、統計理論)を直接応用したり、場合によっては数学理論(統計理論)を拡張した後に適用することで、解決していくというものです。ただし私のモットーとしては、ただ解ければというわけではなく、数学的・統計学的な厳密性にはこだわっています。

しかしながら、上で述べた背景を持つ諸課題は得てして複雑です。そのため、それらを完全に解決しているのか?と言われると、残念ながら力不足でその境地には至っていません。元々の問題に適当な仮定を置いたりすることで単純化し、まずは、その単純化したケースを扱って研究を進めてきています。そういう意味では、バリバリの応用分野の専門家や工学の専門家からもお叱りを受けるかもしれません。

現在の主な研究トピック

化学物質・医薬品の毒性予測手法の研究

化学物質や医薬品等の化合物の毒性評価は、通常実験動物を用いた毒性試験の結果に基いて行われます。しかし、費用・期間・動物愛護の観点から、実験動物に頼らない毒性評価方法の社会的ニーズが高まっています。たとえば、化学物質審査法で要求されているラット28日反復投与毒性試験では1物質あたり約1000万円かかると言われています。また、28日間反復投与毒性試験はあくまでもスクリーン試験であり、化合物の毒性を調べるには(究極的には)ラット2年間反復投与毒性試験が必要となります。

そこで私は、化合物の物理化学的特徴などを表す分子記述子(インシリコデータ)や、試験内で実施可能な簡単な実験や細胞を用いた実験から得られる化合物の特徴量(インビトロデータ)を用いて、化合物のラットにおける毒性を統計的に予測する手法の研究を行っています。

この研究トピックは主に静岡県立大学と共同で実施しています。

インビボ試験データの統計的測定精度に関する研究

上で述べたように化合物の毒性評価は、実験動物を用いた毒性試験に頼っています。さらに動物実験によるデータといっても、基本的には国際的な化学物質管理の調和等をリードしているOECD(経済開発協力機構)に認められているOECDテストガイドラインに則り、またGLP(Good Laboratory Practice)準拠である実験動物で得られたデータであることがしばしば要求されます。しかし、このようないわゆる質の高い動物実験はそう簡単には実施できないのが現状です。そのために、より簡易・迅速に実施可能な新たな試験方法の開発も行われています。このような背景で新たに試験方法が開発された場合、その精度がきっちりしているのか、また精度はどの程度であるのか、ということが重要になってきます。

そこで私は、比較的新しい試験方法を複数のラボで同時に実施された実験データを利用し、その試験方法の精度を定量化する手法の研究をしています。また、このような統計手法について国際標準の規格であるISOで議論されており、既存の手法もすでにあります。そのため、統計的手法に関する規格を議論し発行しているISO/TC69の国際委員会エキスパートや国内委員会の委員としての活動も行っています。

この研究トピックは主に東京理科大学と共同で実施しています。

リスク科学研究に必要となる(と思われる)数学理論(組合せ最適化、確率過程、ゲーム理論等)の研究

リスクが関わる社会問題を扱う場合ならではの数学的な理論に興味を持ち研究を行っています。

電力ネットワーク網、水道ネットワーク網など社会インフラはグラフ理論のグラフとして表現できるため、社会インフラのリスク解析はグラフ上の信頼性理論の問題に帰着されます。さらに信頼性理論の研究には、組合せ最適化及び確率過程それぞれの知識が必要となるため、グラフ理論・組合せ最適化・確率過程を組み合わせた研究になります。また、リスク管理に必要なコストや集団全体で被るリスクを平等に分配したりすることを考えると、ゲーム理論の問題に帰着されます。このようにリスク科学分野は、数学理論の研究が必要となるトピックがたくさんあります。

そこで私は、いろいろなリスク科学研究で必要だけれども、数学的にはあまり研究されていないトピックに着目し、いわゆる数学の研究も継続しています。

この研究トピックは主に早稲田大学と共同で実施しています。

過去の主な研究トピック

下記に述べる研究トピックについては、後日、簡単な説明を加える予定です。

離散不動点定理の研究とそのゲーム理論への応用に関する研究

変分的手法による楕円形方程式(系)の研究