デザイナーズ・ノート

要するに「あとがき」です。

テノス・スクエアは当時気になっていたストリームスというゲームを、トランプにアレンジできないかなという発想から生まれたゲームです。頭の中にあった、基本の動きはこうです。山札からカードをめくる、自分の場に配置する、次の人の番。徐々にめくられるカードから残りのカードの確率を計算して、どのあたりに配置するか悩むようなゲームです。まず、手札をどこに置いたかが分かりやすくしなければなりません。最初に配置したカードは1枚しか無く、それが全体のどの位置なのかは配置を示す仕組みが無いと明示できないことにすぐ気づきました。では、予めカードを伏せて配置しておき、このカードをめくればいいのではないかと思い至りました。ところで、当時面白いなと思ったゲームの動きで「勝利と名声と」というカードゲームがありました。これは次手番を決めるのが配置したカードの位置というもので、ほぼそのままアイディアをいただきました。やりたかったのは、ここに出したいけれど出すと相手が上がってしまう!というシチュエーションです。こどもたちと早速遊んでみましたが「たこやきみたーい」と言われて、全く意識していませんでしたが指摘されると確かにそのままだとビックリしました。さて、ちょうど時期を同じくしてゲームストア・バネストでも TENNOSルール公募がおこなわれ、そこに乗っかるべく 6スートトランプ用に 4人ルールも考えてみました。ペア戦です。

その後、こどもたちとのプレイを通じて手札を3枚から2枚へ減らし、手札の交換ができるよう場札を用意しました。場札との交換は手詰まり(と思う)ペアへ必要なカードを送る仕組みとして考えました。最後には山札のトップカードも交換対象にできるような改変を経て完成しました。ゲームのタイトルは二乗を意味するスクエア、一意性を持たせるためにテノスの名を冠してテノス・スクエアとしました。

練馬おやこボードゲームの会の悪い大人同士でテストプレイをした際には、個人戦でいいんじゃないの、とも意見をもらいましたが、作者はキングメイクの存在を無視できずペア戦にした経緯があります。3人戦で、右隣も左隣もどちらも1枚配置したらゲーム終了という状況下、手番プレイヤーがどちらかを選ぶことで勝者を決めるシチュエーションが実際に、テストプレイ時にあったのです。このため、3人戦向けの追加ルールとしてスプリット・パートナーシップを加えました。これはパーレットのタントニーというトリックテイキングゲーム(とても面白いです!)の追加ルールをこれもまた拝借してきたものです。

出来上がったゲームは悪くも無ければ特段印象に残るようなゲームでも無いのですが、私自身は「始めてゲームらしいゲームに仕上がった!」と大満足です。こどもたちと、時々思い出したように遊べればいいなと思っています。

「ひつじヶ丘ふれあいどうぶつえん」は、私が大好きなカードゲームのひとつ「ヤギ戦争」を汎用トランプで遊べるようアレンジしている中で偶然出来上がったゲームです。こどもたちと遊ぶ 3人は 4スートトランプで事足りたのですが、TrickTakingPartyのゲーム賞へ応募するにあたり 4人でも遊べるよう見直して 6スートトランプの TENNOSで遊ぶゲームに至りました。有り体に言うと「ヤギ戦争」の、カード毎のポイントをトリック数に、バーストをエリアマジョリティに置き換えたもの、というのが大雑把な「ひつじヶ丘ふれあいどうぶつえん」のルールです。こうまとめると、両方のルールを知る人は「なるほど」と思うのでは無いでしょうか。根幹となるトリックテイキングのルールは、とにかく分かりやすくしたかったのでマストフォロー、ノートランプとしました。下の子(当時7歳)でも混乱せず遊べる見通しの良さが欲しかったのです。

最初からカードは 39枚でした。3人で 1人13枚、13トリックのやりとりです。ラストトリックで柵を建てるのも決まっていました。ヤギ戦争そのままです。柵として選ぶカードはラストトリックで出たカードから選ぶようにしました。6~10、そして番狂わせの 1。これもそれなりに納得感があります。

最初は本当にヤギ戦争の様に、数ディールでバーストの境界値を定めるゲームで考えていました。ただ、元にあるようなポイントトリックテイキングとしてやるにはトランプは煩雑になり過ぎる点が、いつまで経っても解決出来ずにいました。

転機はディール毎に都度ひつじを配置するという発想です。ここでエリアマジョリティというアイディアが入ってきました。配置順番も、一捻りして取得トリック数の少ない者から、としました。これで他者のトリック数も意識しながらプレイせざるを得ません。偶然とはいえ我ながら良い結果につながったと感心しました。これによって、トランプ(と幾つかのマーカー)で遊べるシンプルなルールになったのです。

私はビッド(本来のオークション的な意味合いでは無く「獲得トリック数の宣言」程度の意)を要するトリックテイキングゲームが苦手で、しかしビッドの面白さも知っているので、このようなゆるふわな後付けビッディングのゲームになりました。他者との関係を見ながら流動的に必要なトリック数を目指さなければならないゲームです。

選択ルールの「めあてカード」は最後まで基本ルールとして入れるべきか悩んだルールです。結果的に、ゲームの本質(エリアマジョリティ)がぼやけそうになったので選択ルールとしました。これもまた後付けのビッディングみたいなものです(最初から Xトリック取るって決めてたし~、などと後出しで言い張る)。

最後に、タイトル。語句表記の揺らぎはありましたが、最初から使っていた「ひつじヶ丘ふれあいどうぶつえん」としました。「ひつじヶ丘」は、創作時期に訪れたゲーム会の最寄り駅が「つつじヶ丘」であったことに由来します。ヤギ戦争からの派生なので、羊をあてることに抵抗はありませんでした。

冗談でロゴも作りましたが、偶然「ひ」の文字が羊の顔に見えたことからロゴも見立ててみました(上の子に監修してもらいました)。

いろいろ思い出深い創作ゲームのひとつです。

同時期に作った「いたずら妖怪」の方がこどもたちには人気で、あまり遊んでもらえませんが、ビッドを要すトリックテイキングゲームの入り口になれば良いな、と作者は思っています。

我が家ではボードゲームよりもトランプ、トランプよりもドミノゲームがこどもたちに人気で、しかしドミノゲームで遊ぶのは「チキンフット」のみという、要するにチキンフットだけが爆発的に人気でした。そう、ドミノ牌はこのゲームを遊ぶための専用コンポーネントという位置づけだったのです。「いたずら妖怪」は「せっかくドミノ牌を持っているのに他の遊び方もしないのはもったいない」というモッタイナイ精神から制作に着手したゲームです。さて、どのようなゲームが我が家のこどもたちに好まれるか?同じドミノ牌でもメキシカントレインは「何もできない状態が続く」事が我慢できず娘に嫌われています。カンテットは計算が面倒……というより、末端のピップを数えるのがひたすら面倒くさいために不人気です。ボードゲームも準備がすぐにできる軽いゲームは好まれますが、準備に手間がかかるゲームは(チケットトゥライドですら!)、敬遠されます。

反面、こどもたちに評判がいいのは、すぐに遊び始めることができ、結果の勝敗だけならず、ゲーム中のちょっとした「してやった」「やられた」という小気味よいつばぜり合いの生まれるゲームでした。私や上の子が好むブラックレディの様な、押しつけのゲームもこれに分類されます。

というわけで、まずはブラックレディをベースに考えました。つまり、押しつけるゲームです。ゲーム中にワーワーキャーキャー騒げる少し珍しいタイプのトリックテイキングゲームにしたかったので、ボトルインプも参考にしました。つまり、来て欲しくない者がトリックごとにあっちへフラフラこっちへフラフラと行ったり来たりする動きです。ドミノ牌ならでは、というところではダブル牌に特別な意味を持たせ、これによって来て欲しくないものが動くトリガーにしました。ダブル牌のうち、特徴的な 0-0をその象徴とし、トランプなどではできない「牌を立てる」という要素も活かして「のっぺらぼう」に見立てました。この段階で、こどもたちにウケそうだなと調子に乗り始めました。

ここまででだいたい 5分くらいの思いつきです。いままでフワフワと脳内に漂っていた幾つかのアイディアが突然意味を持ってつながった瞬間でした。

しかしこれだけではディールの途中で動きが止まってしまい、最後まで緊張感が保たれません。そこで、こどもたちも大好きな「きゅうり」のようにラストトリックの見極めが重要になるよう、もう1種の妖怪を生み出しました。それが「ひとつ目小僧」です。得点はディールの途中で確定する「のっぺらぼう」を失点1、最後のトリックで確定する「のっぺらぼう」を失点2としました。3アウトでゲームセットとなるよう、失点合計5点を終了条件としました。

こうして出来上がったゲームが「いたずら妖怪」です。思ったとおり、0-0を「のっぺらぼう」と紹介した段階でこどもたちの目が輝き、1-0に至っては取り出した瞬間にこどもたちが「ひとつ目小僧だ!」と声に出すような、ルール説明のつかみもすばらしいゲームになりました。プレイしての評判も上々です。

こうして「いたずら妖怪」が完成しました。ドミノ牌ならではのトリックテイキングゲームとして、幅広い層に、長く遊んでもらえるゲームになったと自負しています。ぜひ、ご家族で遊んでみてください。

「いたずら妖怪」を作った時に、ドミノ牌で遊ぶトリックテイキングゲームが意外に少ないことに気づきました。手つかずの未開の領域! まさにやりたい放題! これはチャンスです!汎用コンポーネントのゲームを作るとき、常に不安としてつきまとうのが「既に誰かが全く同じルールのゲームを作って発表しているのでは無いか(不出来な二番煎じではないか)」というものですが、pagat.comを見る限りでもドミノ牌のゲーム自体があまり無さそうで、作れば新作、「まさにやりたい放題」なわけです。調子に乗った私は悪ノリし、所謂「言いたいだけ」ゲームのようなプレイ中、ただ楽しいだけのゲームを作ろうと思いました。

先ずは多人数で遊んで楽しいことが前提です。ドミノならではのアイディアも必要です。どうせならトリテ警察が疑義をかけるようなゲームにしたい。

そうやって出来上がったのが「フリーライド」です。ドミノらしく「つなぐ」ことでフォローしていると言い張る厚かましさ。まさに楽しいだけのゲームです。どうやったら勝てるのか作者もよくわかりません。

マストフォロー、ノートランプというルールに、フリーライドという 1アイディアを加えただけのルール。

当初、フリーライドすることで獲得得点が少なくなる、あるいは自分の利になるよう得点を増やすようピップ数を基準に考えていたのですが、ピップ数をスコアに絡めると途端に「面倒くさい」ゲームと化してしまい、ものすごい勢いでこのスコアリングはお蔵入りしました。代わりに採用したのが最終版のルールです。

ただ牌の数を数えるだけだと後半のトリックであまり悔しさも出し抜く感じも無く、プレイヤーが単なる自動機械と化してしまいそうだったため、ここでもまたダブル牌に価値を持たせました。

歴史の中に長く生き延びるとは思えませんが、軽く遊べるドミノゲームの選択肢として、パーティに彩りを添えればと願っています。

略称「僕ワサ」は、何かのドミノゲーム(たぶんチキンフットだった)を遊んだ後の、片付けの時にきっかけが産まれたゲームです。ドミノ牌 2枚を重ねると「なんとなく鮨っぽい」というこの一点だけで作り始めました。重ねた上側がネタ、となると下側はシャリです。ネタのピップが美味しさ度を示すとするとシャリ側が示すのはワサビかな……重ねた牌のピップ数が見えているのを超えない様にルール化すれば見えないピップ数の目安になるかもな……ここでゲームの屋台骨ができました。難航したのはここからで、どこかのデザイナース・ノートにも書きましたが、ピップを数えるという行為はとにかく面倒の一言に尽きます。そう何度も数えたくありませんし、合っているかどうかのために数え直すなど本当にうんざりです。一番シンプルなスコア換算は、シャリのピップからネタのピップを減算した差分が純粋スコアなのですが、いちプレイヤーとしての自分は絶対やりたくありません。じゃぁとったトリック数が得点で、ワサビ最多の人だけ若干ペナルティーは?と、一方だけのピップ数を数えるのに妥協しましたが、この時点でネタ牌のピップから価値が失われました。

ドミノのゲームなので、やはり慣例?に従ってダブル牌には特別な価値を持たせたい、という謎のこだわりもあり、現在の(やや唐突な)リアルタイムアクションによるブロッキングゲームでスコア化する方法に至りました。

作者自身がネタゲー、ネタゲーと言っているので単なるワンアイディアのお笑いゲームに思われすぎているのではないかと少し心配になってきました。せっかくなのでちょっとゲームの指針を書きます。

トリックテイキングのマストスートフォローのため、トリックを取る場合同じスートの牌が人数枚集まります。スートと書くと伝わりにくいので同位牌と書き改めますが、これはつまりつながる牌のペアが2枚x2組み+1枚(5人の場合)集まるということです。この中にダブル牌があれば、この1トリックですべてがつながり 5点になります。連結時も迷うこと無く接続できるのでかなり強力です。ダブル牌を人に取られるくらいならシャリとして回す決断も必要です。逆に勝てるならダブル牌でトリックを取れると最高です!

一方でワサビについて、マストスートフォローですから人に取らせたいなら高ランクのエンドをスート扱いで出せば、おそらく皆が嬉々としてワサビを仕込みまくるはずです。一方、自分が取りたいのは低ランクスートのトリックになるでしょう。遊びなれた人ならトリックをとれないであろうミドルランクを、あるいは特定の人に渡ると連結が容易になるような重要な牌は、おそらくワサビとして仕込みます。

このゲームでは、獲得トリックで得た牌すべてが得点化されるわけではありません。1ディールでの得点を最大化するには連結させるための充分な時間が必要です。そのためには全員がある程度トリックをとっていないといいけません。例えばゼロトリックの人が一人でも居ると即座のカウントダウンで時間にして 3秒くらいしか猶予がもらえません。おそらくできるのは 3~4枚の連結がせいぜいでしょう。

ネタゲーの分際で、プレイヤー間でバランス取りを強いるゲームなのです。

なんてことをプレイヤー全員が理解してプレイするとまた違ったプレイングになるんじゃないかと期待しますが、たぶんルール聞いてみんな「バカゲーだ!(笑)」ってなるので、やっぱり難しいかな(笑)