Part.20

反応拡散方程式の数値解法

反応拡散方程式

次のような問題を考えます。

(RD)は反応拡散方程式(Reaction Diffusion Equation)と呼ばれ、自然界の現象を数理モデルとして表現した際によく現れる方程式です(化学反応、動物の表皮パターン、生物の生息域の拡大、伝染病の伝播等)。この形の方程式を計算機で解いてもらうわけですが、その為には離散化が必要となります。手順はこれまで通りで、時間方向の刻み幅をΔt、空間方向の刻み幅を h とすると、次のようになります。

書きかえると、

となります。但し、

とおきました。つまり、熱方程式の解法プログラムに

の部分を加えるだけです。但し、計算が破綻しないためには、熱方程式同様 α≦1/2である必要があります(安定性条件)

(RD)を解く為には境界条件が必要となります。これまでは

といった境界条件を扱ってきましたが、ここでは

となっています(もちろん反応拡散方程式においても、前者の境界条件を用いることがあります)。熱方程式でいえば、前者は棒の両端を氷で冷やしている状況をあらわしているのに対し、後者は棒の両端を断熱材を当てている状況に対応します(熱の出入りが無い状況)。この様な境界条件を、ノイマン境界条件、反射壁境界条件等と呼びます。

後者の境界条件をもって、(RD)を数値シミュレーションする場合はどうしたらよいでしょうか?

をこれまでやってきたように離散化すると、

となりますから、単に、

とすればよいことはすぐわかります。(右端も同様)

バクテリアの増殖モデル

ここでは、バクテリアの増殖モデルを扱います。

養分を入れた寒天培養器内でバクテリアを養殖すると、バクテリアは養分を摂取して、成長・分裂をすることで増殖し、コロニーを形成する。次の写真は、そのようにして培養したバクテリアのコロニー(左上)と、バクテリアモデルの数値シミュレーション結果(右下)です。

ある適当な条件でバクテリアを培養するとこの様な複雑なパターンがあらわれます。

バクテリアはランダムウォーク(でたらめに動いている)とし、養分は拡散性であるとすると、バクテリアの増殖モデルは次のような反応拡散方程式となります。

空間2次元バクテリア増殖モデル

ここで、u, v はそれぞれ養分濃度およびバクテリア密度、Ωは有界領域、Du, Dv は養分、バクテリアそれぞれの拡散率、k(u) は摂取率であり、 k(0)=0 を満たす u の単調増大関数。簡単な例としては、

k(u) = ku (k:正定数)

ωは転換係数。

適当な k(u) や Du, Dv, ω といったパラメータを与えると、先ほどの写真のような複雑なコロニーパターンを得ることができます。今回は、この最も簡単な例として、次の空間1次元モデルを考え、それの数値計算から、バクテリアの増殖について考察してみましょう。

空間1次元バクテリア増殖モデル

これは、先の2次元モデルの空間次元を1次元とし、さらに k(u) = ku で k=1,ω=1 とした場合になっています。初期値および境界条件は

とします。

演習課題1

長さ L=5 の1次元容器(実際には考えにくいが)で、両端は反射壁境界条件とする。このとき、初期値・境界値問題を数値計算にて解き、バクテリアの密度分布がどのように時間とともに変化するかをアニメーションにて観察せよ。拡散率は Du=Dv=0.1 とする。

演習課題2

演習課題1にてコロニーパターンが拡がっていくことが観察されるが、その平均速度をはかりたい。どのようにすればよいか考え、実際にはかって見よ。

演習課題3

適当な時間間隔で、コロニーパターンの拡がる速度を測り、それらが時間とともにどのように変化するか(または変化しないか)調べよ。