オキナワシロヘリハンミョウの巣穴閉鎖行動

オキナワシロヘリハンミョウの幼虫はどこに?

海に浸かる森であるマングローブ林にも地表性の昆虫たちが生息しています。京都大学で海辺に生息するハンミョウを研究していたこともあって、沖縄に来てまずマングローブ林で探したのは、オキナワシロヘリハンミョウ(以下、シロヘリ)でした。

しかし、なかなか見つかりません。一般にハンミョウ類の成虫は、地表面を走り回って小型の昆虫などを餌として捕まえます。一方幼虫は、地中に縦穴を掘って、入口で獲物を待ち構えます。大学院時代に鍛えたハンミョウ探索眼を皿のようにして、地表をじーっと見ながら探しましたが、カニの穴しかありませんでした。

何回目かの探索で、ふと横にある大きな土の塚の表面を見ると、小さな穴が開いており、その穴を掘ってみると、ポロッとハンミョウ幼虫が出てきたのでした!ビックリの大興奮です!

シロヘリに限らず、ハンミョウの巣穴はきれいな円形で、ふちの角がとれていて、目が慣れればカニ穴と区別することが出来ます。小さい穴が1齢、中間の穴が2齢、一番大きい穴が3齢です。

塚はオキナワアナジャコが作ったものであり、高さ1mくらいになります。どのマングローブ林に行っても、大小様々なオキナワアナジャコの塚を見ることができます。考えてみたら、マングローブ林の地表面は、柔らかい泥であり、幼虫が巣穴を維持できるようには思えません。一方で、オキナワアナジャコの塚は、土が適度に固くなっておりまた湿気もあって、幼虫にとってはもってこいの環境なのです。

穴の前で、しずかに待っていると、幼虫が顔を出してきます。

マングローブ林内でシロヘリ幼虫は見つけたのですが、今もって林内で成虫を見たことがありません。幼虫がいるということは、必ず産卵しに成虫が来ているはずなのですが。とっても不思議です。マングローブ林の外に広がる干潟や海岸では、簡単にシロヘリ成虫を見ることができます。

オキナワシロヘリハンミョウ幼虫の巣穴閉鎖行動

オキナワアナジャコの塚の表面にシロヘリ幼虫が巣穴を作っていることが分かったわけですが、まったく潮の影響を受けないというわけではありません。塚の下半分に作られた巣穴は、大潮の満潮時には水没してしまいます。

オキナワシロヘリハンミョウと同属近縁種であるヨドシロヘリハンミョウ(分布域は本州・九州)の幼虫も同じように干潟に巣穴を作っており、大潮の満潮時になると水没するのが観察されます。長崎県在住の桃下大さんの研究により、ヨドシロヘリ幼虫は満潮(水没)が始まる1時間ほど前になると巣穴を自ら塞ぎ、満潮後潮が引いて地表面が現れると、再び巣穴を開いて活動を始めることが明らかになりました。巣穴を泥で閉鎖することで、水没しても巣穴の中に空気が溜まった状態となるため、適応的な行動と考えられました。さらに、満潮は約12.4時間ごとにやってきますので、野外ではおよそ12.4時間ごとに閉鎖行動が見られるわけですが、この閉鎖行動のリズムは体内時計によって刻まれていることを共同研究で明らかにしました(Satoh, et al. 2006)。

そこで、オキナワシロヘリ幼虫でも閉鎖行動が見られるのではないかと思い、観察してみたところ、やはり満潮前に巣穴を閉鎖していました(Satoh and Hayaishi 2007)。

下が満潮前に閉鎖されている巣穴の写真です。真ん中あたりに2齢の小さめの巣穴と、その下に3齢の大きな巣穴があるのが分かるでしょうか。

そして、下が水没の後、さっそく巣穴を開いて活動を再開させている2齢幼虫の写真です。3齢幼虫はまだ水に浸かっています。

オキナワシロヘリハンミョウに関しては体内時計が関与しているかどうかはまだ調べていませんが、きっとヨドシロヘリ同様、潮汐リズムを刻む体内時計を持っていることでしょう。

多くの生物は、昼夜に対応した約24時間の体内時計(概日時計)を持っていますが、干満に対応した約12.4時間の体内時計を持つ生物は少なく、主にカニ類で研究されてきました。一方、昆虫ではほとんど知られておらず、シロヘリ類は昆虫における概潮汐時計の興味深い研究対象と言えます。