教材

初級クラスの教材としては拙著『アルス・グラエカ』(Ars Graeca,ギリシャ語の技法)を教室で配布します.古典ギリシャ語を学ぼうとするほどの人はやる気があるのは当然ですが,やる気と理解度は必ずしも正比例しないというのが実感です.「幼子のごとく」授業に出ていれば,自然と一定のレベルまで到達できるというメトーデが必要ではないかと常々痛感していました.学習者とギリシャの古典を最短距離で結ぶ学習の高速道路として構想したのが『アルス・グラエカ』です.

この入門書では内容を基本的な重要事項に限定することに留意しています.経済学のパレートの法則によると,全世界の富の八割は世界人口の二割に集中しているなど,世界は不均衡な構造になっています.この法則は古典ギリシャ語の学習にもあてはまります.ギリシャ語文法全体の各項目が均等に重要というわけではなく,その二割に頻出事項は集中しています.この二割の知識でギリシャ語の八割は読解できるのです.『アルス・グラエカ』ではこの二割に特化して説明するように配慮しています.

また執筆にあたり諸文献を参考にしたのはもちろんですが,それに劣らずギリシャ語読解にさいし自分の頭がどのように働いているのかを見つめながら執筆しました.ギリシャ語は屈折言語で個々の単語の変化によって意味を伝えていきます.そのため名詞,動詞ともに数多く変化していきます.この変化形を自分がどのように読み取っているのかというプロセスを,できるだけ反映させることにつとめました.

入門書は手段であるにすぎず,その学習自体が目的になってはなりません.手段を習得してしまえば入門書は役割を終えることになります.学習者のみなさんが『アルス・グラエカ』をゴミ箱に捨てる日が一日もはやくやって来ますように!