時間生物学研究室は2003年4月に富岡憲治名誉教授の岡山大学への着任により発足しました。
2021年に富岡教授が退官後は、吉井が研究室を引継ぎ今に至っています。
私たち地球上の生物は、24時間周期の環境変化の中で生きています。繰り返し起こる24時間の変化に適応するために、多くの生物は体内時計(概日時計)を持っています。夜寝て、昼には活動するという一般的な私たちの行動は、古くはバクテリアから続く生命の根本的な活動です。そのリズムは、体内時計によって生み出されています。
当研究室の研究テーマは、その「体内時計の謎に迫る」ことです。
キイロショウジョウバエの脳と時計細胞
(Image credit: Nils Reinhard)
遺伝学のモデル生物として有名なキイロショウジョウバエは、体内時計の研究において非常に有用な実験動物です。2017年には、キイロショウジョウバエを用いた体内時計の研究がノーベル生理学・医学賞を受賞しています。キイロショウジョウバエの脳には体内時計を制御する神経細胞群があります。約240個の神経細胞群が“時計細胞”つまりリズムを生みだす神経細胞群であると言われています。
私の疑問は,キイロショウジョウバエのように比較的単純な動物でさえ,なぜ脳内にそれほど多くの時計細胞が必要なのかということです。
2009年の論文で私たちは,光に強く同調する細胞と,温度に強く同調する時計細胞群があることを報告しています(Yoshii et al., 2009, J Biol Rhythms)。また,雌雄の相互作用に影響を受ける時計細胞も発見しました(Hanafusa et al., 2013)。さらに、時差ボケの回復に重要な時計細胞を同定しています(Yoshii et al., 2015, J Neurosci)。つまり,それぞれの時計細胞は別々の役割を持っており,240個の時計細胞達が互いに影響し合って,環境に適応したリズムを生みだしているのではないかということが考えられます。脳の中で24時間のリズムがどのように生み出されるのでしょうか?まだまだ解明することができない難問です。
私たちは、キイロショウジョウバエの高度な遺伝学的手法を用いて,現在様々な角度から時計細胞の神経ネットワークを研究しています。近年では、時計細胞とシナプス結合する神経細胞をすべて同定することに成功しました(Reinhard et al., 2024, Nat Commun)。
キイロショウジョウバエの脳は比較的少数の神経細胞より構成されています。このことから,神経ネットワークを研究する上で非常にすぐれた実験動物と言われています。わずか700μm程度の小さな脳が我々の大きな脳と同じように体内時計を持つのです。キイロショウジョウバエの脳を研究することで,より複雑な脳の解明にも貢献することができます。
2017年の紹介記事です。