松野直行 イレーナ・スルダノヴィッチ
クロアチア
ユライ・ドブリラ大学プーラ
海外において日本語に興味を持ち学習したいという時期、理由はそれぞれ異なる。情報技術の発達により、興味を持つ機会が増えるとともに、多様な学習環境へのアクセスも簡単になってきている。入学時点でばらつきがある場合、いかにフレキシブルな対応ができるかが課題となる。
プーラ大学では、自立学習を積極的に推奨し、アドバンテージをいかせるコース設計を目指している 。その中心となるのが「日本語・日本文化学習支援のオンラインリソース」の講義で1年次前期に週1回設定している。この講義の目的は、学習者に学習を支援するオンラインリソースを紹介し、それらを活用した学習・自律学習の可能性を示し・身に付けさせることである。また、今年度から、「課外授業」をプログラムに取り入れ、学生たちが目的・興味・能力などに合った内容の選択ができ、その結果、単位を取れるようになっている。
成果としては、授業が広く自立学習リソースの情報交換の場となり、必要に応じた情報に接触できることが学習への意欲向上につながっている。課題としては、自分の不得手部分や、何が適当なリソースなのか判断できない場合、どのような形でフォローすべきかなど学習者に適応したリソース選択方法があげられる 。
Andreea SION (シオン・アンドレア)
ルーマニア
Hyperion University (ヒペリオン大学)
インターネットへのアクセスが益々容易になっている現在の時代では、外国語を自律的に習得することも容易になっているが、学習のプロセスをスピードダウンしてしまう、「危険」な要因も存在している。
本発表では、ヒペリオン大学の日本語学科に所属している1・2・3年生の学生の教室内・教室外の活動を観察し、学習オートノミーに関わる活動を取り上げ、効果的及び効果的でないと考えられる側面を分析する。
また、ヒペリオン大学の学生たちから得られたデータ(アンケート、ディスカッション)に基づき、「学習者本人」と「学習オートノミー」との(本人が思う)関係に注目し、本人がどの程度、どのように自律的な学習の意識を持って折るかを考察する。
最後に、学習者の学習オートノミーを上達させるために、教師側からどのタイプの指導が必要なのかを考える。
Katarina Sukelj
クロアチア
Enbe language school and University of Zagreb, Faculty of Humanities and Social Sciences
学習者オートノミーの育成と教師の役割を中心に、私立語学学校で担当してる日本語コースの反省について発表します。まず、担当している日本語コースについて(機関、期間、設備など)と学習者の特性(年齢、職業、期間、ニーズ、学習目標など)について説明します。次に、学習者の自律性を育成しようとする具体的な教室活動を挙げ、限界と問題点を述べます。最後に、私立語学学校のため適切な学習者オートノミー育成改善例を具体的に提示したいと思っています。
ゲオルゲ・アレクサンドラ・マリナ
ルーマニア
ブカレスト大学
この研究テーマは、ブカレスト大学における日本語教育の教授法を歴史的な紹介してから、第二次世界大戦後の主な日本語の教授法を中心します。ルーマニアの大学で日本語教育が導入されたのは1970年代でした。短い間で少なくとも、ここで作られた教科書を大学の授業で使いました。そのとき、非常に少ない日本語学習者のオートノミーを見ると日本文学の翻訳であったということもわかります。現在社会を見るとコミュニケーションが一番大事な傾向が盛んになってきたということもわかります。ですので、日本語学習者のオートノミーの種類も多くなってきました。ブカレスト大学の大学生と修士一年生のアンケートの結果を見て、それがよくわかりますが、日本語教師と学生の役割分担が変わってきたようです。結論として70年代と90年代の間の先生と弟子の人間関係と地位が変わってきたのは現在の平等の概念の影響が強くなってきたからだそうですが、どのように1970年代から現在までそのオートノミーが変わってきたか、この研究の主な目的です。
竹内智美、栗原幸子
ルーマニア
国際交流基金ブカレスト大学派遣
本発表では、学習者の日本語力の差が大きいクラスの授業について考える。
発表者が担当しているブカレスト大学での授業では、入学までの日本語学習経験が様々な一年生と、留学経験者と未経験者が混在する三年生で、特に顕著な日本語力の差が見られる。このようなクラスの場合、真ん中あたりを対象に授業を行うというのは一般的に言われていることであるが、カリキュラム上、一年生のクラスではゼロ初級を対象にした授業が中心となり、クラスサイズも大きく、既習者への対応が難しい。三年生のクラスでは、留学経験者と未経験者の日本語力の差が大きいため、一斉授業で真ん中あたりを目指すと、経験者にはつまらなく、未経験者には難しすぎるという、どちらにも不満足な形に終わってしまう可能性が高い。このような学習環境で、個々の学習者の力を伸ばしていくためには、学習者のオートノミーを、教師がどのようにサポートしていけるかがキーになるのではと考える。
本発表では、それぞれのクラスの背景を説明したうえで、村上吉文氏がブログで提案されている方法を実践し、報告する。発表の最後の部分では、青木先生、会場の参加者の皆様から、このようなクラスにおける授業のアドバイスや、アイディアなどをいただければと思っている。
参考URL http://mongolia.seesaa.net/article/398383943.html
大室 文
ハンガリー
国際交流基金ブダペスト日本文化センター
国際交流基金ブダペスト日本文化センターで開講している日本語講座(JF講座)では2011年度より総合日本語クラスにおいてポートフォリオを利用している。ポートフォリオを導入している目的の一つは、学習者の自律的学習能力を養成するためである。現在のJF講座のポートフォリオは、「日本語学習の目的」「自己評価表」「言語・文化体験の記録」「まとめとふりかえり」の各シートと成果物等を入れる袋で構成されている。受講生がポートフォリオに取り組んでくれるよう、これまでもコーディネーターを中心に見直し、試行が繰り替えされてきたが、うまく利用できているとは言い難い状況である。そこで、よりよい運用に向けて改善点を探るべく、受講生および担当講師がJF講座のポートフォリオの取り組みをどのように捉えているのか、今年度前期終了時に両者に対してアンケートを実施する。
本発表では、まずJF講座におけるポートフォリオのこれまで取り組みを振り返る。そして受講生および担当講師へのアンケート調査結果をもとに、自律的学習能力の養成に向けた、今後のポートフォリオ実践について考察する。
三森 優
ブルガリア
‟聖クリメント・オフリドスキ”ソフィア大学
現在、ブルガリア、ソフィア大学では学部卒業時までにC1レベル到達を目標としてコース運営を行っている。ここ数年、日本への留学機会も増え、第4年次に在籍する学生たちは、ほぼ日本での1年間の留学を終え帰国後復学した学生たちである。なかには既に日本語能力試験N1に合格している学生もいる。しかしながら、これまで大学ではC1レベルの卒業生輩出のために具体的な最終年次の授業内容は吟味してこなかった。このような状況を踏まえ、私は2014年度の赴任時より、第4学年の卒業時にはA4用紙8枚から10枚程度の日本語による修了レポートとそれにかかわる口頭発表を卒業試験時に課することとした。これをこなすことがCEFRのCレベルに直結するわけではないが、内容はC1の能力記述文を意識している。また、近年の日本語教育は異文化理解能力の獲得も意識されており、上記のレベルと異文化理解能力育成を踏まえた日本語教育の一試案として、4年次の授業に日本文学を取り入れることを考えた。本発表は現在のこの試みの経過報告である。
内川かずみ
ハンガリー
エトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)
本発表は、日本語授業の中に学習者の卒業論文作成のサポートを自律学習支援的に取り入れることを提案するものである。まず、自律学習の意義に関する発表者の意見を述べる。次に、日本語授業で卒業論文作成のサポートをする理由を説明する。最後にその方法を提案する。
卒業論文の作成はもともと自律的に取り組むものだと考えられる。学習者ごとにテーマが違うため、自分で計画を立て、資料を集め、研究を進めなければならないからである。しかし、ボローニャ・プロセスにより他の多くの大学同様、弊学でも学生はそれまでの5年間から3年間で卒業論文を執筆しなければならないようになり、多くの学生は時間に追われてよい研究が目指せず、締切に間に合わせるのが精一杯というのが現状である。
青木(2010)では自律学習を助けるための条件として①学習の計画・実行をサポートするツール(例:日本語ポートフォリオ)、②学習者が学び方を学ぶためのサポートをするアドバイジング、③学習に必要なリソースに自由にアクセスできる場 を挙げている。発表者はそれを卒業論文執筆のサポートに応用しつつ、日本語能力も伸ばしたいと考えた。例えば『日本語ポートフォリオ 改訂版』(青木2006)を参考に日本語授業で使うための卒業論文ポートフォリオを作成したので、発表で紹介したい。
若井誠二
ハンガリー
カーロリ大学
中田(2011)は教師が自分の置かれている立場や自分自身について知り、自分自身が納得するやり方やペースで、学習者オートノミーを促進する仕掛けや支援を工夫しつづけることを「教師オートノミー」と定義している。その上で、日本の英語教師は学習者オートノミーの重要さについて理解はしているものの、教師オートノミーが持つ①学習者がどうなればいいのか理解できる、②自分自身に何が足りないのか知り、それを克服するため他者と議論ができる、③十分な英語能力、という3つの特徴が備わっていないと指摘している。中田はこの現状を変える手立てとして「同僚性の構築」の重要性を主張している。本発表ではまず中田の主張する教師オートノミーと同僚性の関係、同僚性構築のためのアプローチについて説明する。次に中田の定義する「学習者オートノミー」を参考に、学習者オートノミーを育てるためには教師オートノミー同様「学習者のクラスメートとの同僚性構築」が効果的手立てとなる点を指摘する。最後に「学習者の同僚性構築」における教師の立ち位置について触れる。