鈴木研究室では社会的認知とエイジングをキーワードに研究を進めています。
社会的認知とは人間の社会行動を支える心の働きの総称です。例えば、他者の感情・思考や性格の推測、自己の行為のコストベネフィット評価や道徳性の判断、相手を信頼して協力するか否かの意思決定など、さまざまな心理過程が含まれます。中でも当研究室で最近詳しく検討しているのは、限られた情報(顔つきなど)から他者の第一印象がどのように形成されるのか、その印象が種々の手がかりを統合することでどのように精緻化されるのかといった問題です。また、表情からの感情の読み取り(表情認知)についても長く研究を続けています。
エイジングはagingのカタカナ表記で、つまり「年をとること」です。「近頃、年のせいで…」というぼやきもあれば、「年の功」という言葉もあるように、心の働きには年齢とともに低下する側面も向上する側面もあります。中でも当研究室は社会的認知のエイジングについて検討することで、世代間交流や高齢者の社会参画を促進するヒントが得られないかと考えています。
Suzuki, A. (2018). Persistent reliance on facial appearance among older adults when judging someone's trustworthiness. Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 73 (4), 573–583. Abstract
私たち人間は、顔から他人の信頼性を判断する傾向がありますが、そうした判断はあまり当てになりません。人を信頼するか否かを決める際には、顔の見た目ではなく、その人の過去の行為(自分に協力してくれたか,裏切ったかなど)に基づいて判断しないと、「羊の皮を被った狼」に騙され続けます。本研究では、高齢者と若年者を参加者とする心理実験をおこない、人の信頼性を判断する際に顔の見た目と過去の行為から影響を受ける程度を調べました。その結果、若年者とは異なり、高齢者は見た目で人を信頼し続ける傾向があること、つまり、過去に自分を幾度となく裏切った人であっても信頼できる顔であれば信頼してしまうことが分かりました。日本語による詳しい解説はこちらをご覧ください。
Suzuki, A., Tsukamoto, S., & Takahashi, Y. (2019). Faces tell everything in a just and biologically determined world: Lay theories behind face reading. Social Psychological and Personality Science, 10 (1), 62-72. Abstract
この研究は「顔から人の様々な性格を判断できる」という信念を人相学的信念(physiognomic belief)と名付け、日本とアメリカ合衆国でその個人差を調べたものです。どちらの国でも、人相学的信念は性格の生物学的決定論を信じている程度や公正世界信念(世の中は公正な場所である[因果応報が存在する]と信じている程度)と正の相関を示すことが明らかになりました。この結果は、一般の人々が「顔も性格も生物学的本質の現れであり、かつ、世の中は公正で人はその人に見合った顔を授かるものだから、顔から性格を判断できる」という風に人相学的信念を正当化していることを示唆します。
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