Research & Social Activities
専門分野(Specialties)
認知心理学,知覚心理学,消費者心理学,社会的認知
研究テーマ(Research Topics)
注意,オブジェクト認知 (perception, attention, object perception):時間的・空間的な広がりを持つ環境の中で,人間の目や耳などの感覚器には絶えず膨大な情報が入力されています。しかし,脳の処理能力には限りがあるため,人間は入力されるすべての情報を(意識的に)認識することができません。したがって,脳は行動に必要な情報を効率的に選択し,不必要な情報を排除しなければなりません。日常生活の多くの場面では,この選択・排除が自動的に行われてオブジェクト認知(意識)が成立します。本研究室では,視覚意識の基盤となる,脳における情報の取捨選択過程およびその結果生まれる心的表象について調べています。
Sound-free SMARC effect:音はそれ自体が空間的な属性を持っているわけではありませんが,物理的に振動数の大きな音は「高い」,小さな音は「低い」と表現されます。なぜ,音の高低は空間位置を表す形容詞で表現されるのでしょうか。実際,ピッチの高い音に対して空間的に高い位置にあるキーで反応すると,低いキーで反応する時よりも反応が速いことが知られています(SMARC: spatial-musical association of response codes)。そしてこの現象は,聴覚刺激が入力されなくても,音の表象が活性化されるだけで生じます。したがって,音の心的表象は空間的であり,その結果,音は空間的に表現されると考えられます。
Jiang, Q., & Ariga, A. (2020). The sound-free SMARC effect: The spatial–musical association of response codes using only sound imagery. Psychonomic Bulletin & Review, 27, 974-980.
Ariga, A., & Saito, S. (2019). Spatial-musical association of response codes without sound. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 72, 2288-2301.
消費者行動 (consumer behavior):消費者の選好や意思決定は人間の認知プロセスそのものです。なんとなく決まっているように感じる人間の「好き」の背景には,様々な知覚的・認知的要因が潜んでいます。本研究室では,消費者の商品選択や魅力評価,購買意思決定などに注目し,現実場面で消費者の行動を規定する様々な要因について,心理学およびマーケティングの視点から検討を行っています(日本認知心理学会の下部組織である消費者行動研究部会を運営しています)。
感覚間転移:ある感覚が別の感覚に影響を与えることがあります。例えば,容器の色や形が,飲料の味覚評価に影響を与えることが報告されてきました。しかし,容器の色や形といった視覚情報は,飲む瞬間においては入力されません。飲む瞬間において確実に入力があるのは,手や唇に入力される容器からの触覚情報です。実際,飲み口の厚いグラスで緑茶を飲むと甘味評価が高まり,薄いグラスで緑茶を飲むと苦味評価が高まることがわかりました。味覚評価は様々な感覚情報の影響を受けていると考えられます。
Ichimura, F., Motoki, K., Matsushita, K., & Ariga, A. (2023). The tactile thickness of the lip and weight of a glass can modulate sensory perception of tea beverage. Food and Humanity, 1, 180-187. [プレスリリース] [デザチューブ朝日新聞社]
陳列効果:欧米で行われたこれまでの研究では,ショッピングモールなどの売り場において垂直よりも水平方向に陳列された商品は,消費者の購買を促進することが一貫して報告されてきました。しかし,この水平陳列の優位性は普遍的な現象ではなく,欧米人の文字の文化(横書き・横読みの習慣)に依存していると考えられます。さらに,縦読みと横読みの両方の習慣を持つ日本人では,垂直・水平陳列の優位性はどちらも存在し,それらは外的に操作可能であると考えられます。
社会的認知 (social cognition):人間の心は環境に対する適応機能としてとらえることができます。そうであれば,個人の認知行動スタイルは,文化や社会規範に応じて柔軟に変容するはずです。本研究室では,他者の表情・視線の認知,顔の魅力評価など,社会的認知場面における心の働きおよびその柔軟性に注目し,人間の社会性を支える心の基本的メカニズムを多角的に調べています。
後姿バイアス:他者の後姿から正面の顔の魅力度を予測するとき,過剰に魅力的に評価されることが知られています。このバイアスは特に男性が女性を評価するときに顕著に見られます。生殖コストの低い男性は,女性に対して期待を込めた過剰評価を行い,より多くの生殖機会を得ようとしていると考えられます。一方,女性は生殖コストが高いため,男性に対して過剰評価をせず,慎重な判断をしていると考えられます。つまり,異性の顔の魅力評価を行うとき,男女で基準が異なると考えられます。
マスクバイアス:同様のことは,マスクを着用した顔の魅力評価においても生じます。
Sugai, M., Yonemitsu, F., & Ariga, A. (2024). Romantic bias in judging the attractiveness of faces wearing masks. i-Perception, 15(5).
Ichimura, F., Moriwaki, M., & Ariga, A. (2021). Romantic bias in judging the attractiveness of faces from the back. Journal of Nonverbal Behavior, 45, 339-350.
認知制御,ヴィジランス,課題非関連思考 (cognitive control, vigilance, task-unrelated thought, mind wandering):車の運転などの長時間の認知課題を行うとき,人間のパフォーマンスは時間経過と共に低下します(ヴィジランスの低下)。私は,ヴィジランスの低下が認知機能の馴化によって生じると考えています。おそらく,人間は同じ課題を繰り返し行うことでその課題に対して馴化し,次第に課題とは関係のない別の事柄(夕食のメニュー,週末の予定など)を考え始めます(課題非関連思考)。本研究室では,このような認知機能の馴化や課題非関連思考がヴィジランスの低下を引き起こしていると考え(goal habituation model),認知制御の観点からヴィジランスの低下を効果的に防止する方法の開発を目指しています。
馴化モデル(goal habituation model):認知課題を行うとき,優先すべき課題目標(vigilance goal)の活性は時間経過とともに低下します(馴化)。課題目標の活性が低下すると課題非関連思考(task unrelated thought)が生じ,それが優先課題となります(mind wandering)。結果的に本来優先すべき認知課題のパフォーマンスは低下すると考えられます(ヴィジランスの低下)。
Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental "breaks" keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118, 439-443.
認知バイアス,消費者教育 (cognitive bias, consumer education):本研究室では,多様な消費者トラブルの背景にある消費者の心理的要因について分析し,トラブル予防および消費者教育に役立つ科学的知見を蓄積しています。
後知恵バイアス:我々はある出来事の結果を知った途端,その結果を以前から予測できていたと錯覚することがあります。この後知恵バイアスは,消費者教育における事例紹介でも生じると考えられます。つまり,既に起きたトラブルとして事例を読むことで,消費者は「私は最初から予測できていた!」「私は大丈夫!」と錯覚する恐れがあります。
Yonemitsu, F., Sumida, R., & Ariga, A. (2024.7). Hindsight bias in reading cases of frauds and consumer issues. The 33rd International Congress of Psychology, Prague, Czech Republic.
社会的活動(Social Activities)
消費者トラブルを心理学および行動経済学の視点から読み解き,その背景にあると考えられる心理プロセスについて講演を行っています。一般市民を対象とした消費者教育も行っています。また,伝わりやすい教材になるよう資料や動画の監修もしています。
委員等
消費者庁 解約料の実態に関する研究会(2023〜2024年)
消費者庁 キャンセル料に関する消費者の意識調査についての分析書(解約料の実態に関する研究会,2024年1月)
総務省 デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会:放送コンテンツの制作・流通の促進に関するWG(2022〜2024年)
消費者庁 消費者法に対する認知⼼理学的視点からの意⾒(消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会,2022年12月)
メディア等
雑誌寄稿(2024年11月)
SNS上の疑わしい情報に惑わされないための心理学(国民生活147号:11月号 国民生活センター)
ラジオ出演(2023年9月)
研究紹介(ちょうどいいラジオ FMヨコハマ)
テレビ出演,監修(2022年5月)
集中力(あしたが変わるトリセツショー NHK)
雑誌寄稿(2022年1月)
だまされない消費者になるための心理学(国民生活113号:1月号 国民生活センター)
雑誌寄稿(2022年1月)
認知心理学から考える 売り場での効果的な商品陳列(販促会議6月号 宣伝会議)
監修等
動画監修(2024年5月)
副業トラブル注意喚起動画(日本貸金業協会)
20歳代が狙われている!?遠隔操作アプリを悪用して借金をさせる副業や投資の勧誘に注意(国民生活センター関連記事)
監修(2023年3月)
リーフレット「くらしのご用心」:「だまされリスク」チェック(若者向け,高齢者向け)(国民生活センター)
講演等
講演(2025年1月)
~だまし広告・勧誘への備え~だまされないための心理学(令和6年度消費生活講座 兵庫県立消費生活総合センター 兵庫県神戸市)
講演(2025年1月)
だまされないための心理学(シンポジウム:高齢者が消費者被害に遭わない社会を目指して 長崎県弁護士会 長崎県長崎市)
講演(2025年1月)
解約料(消契法9条1項1号)の実態について(解約料(消契法9条1項1号)の実態に関する研修会 長崎県弁護士会 長崎県長崎市)
講演(2025年1月)
消費者被害の心理学的分析と消費者相談対応・消費者教育への応用(府内市町村相談員総括者研修(高度・専門研修) 関西消費者協会 大阪府)
講演(2024年12月)
だまされない消費者になるための心理学(消費者講座 あきる野市/東京都 東京都あきる野市)
講演(2024年9月)
だまされない消費者になるための心理学(消費生活特別講座 杉並区立消費者センター 東京都杉並区)
講演(2024年9月)
消費者はなぜだまされるのか?:心理学の視点から解き明かす(消費者セミナー 東播磨消費者センター 兵庫県加古川市)
講演(2024年8月)
特定商取引法改正後も続く消費者被害(「定期購入」被害を中心に)の実態と対策(夏期研修 近畿弁護士連合会消費者問題委員会 京都府京都市)
講演(2024年8月)
だまされない消費者になるための心理学(消費生活教室 横浜市消費生活総合センター 神奈川県横浜市)
講演(2024年8月)
だまされない消費者になるための心理学:消費者教育を効果的にするために(公開講座(教員向け研修) 千葉県消費者センター 千葉県千葉市)
講演(2024年7月)
だまされない消費者になるための心理学(令和6年度消費生活リーダー養成講座 北海道消費者協会 北海道札幌市)
講演(2024年6月)
買いたい気持ちを科学する:認知心理学からのアプローチ(中央大学×大手町アカデミア 中央大学,読売調査研究機構 東京都千代田区) Youtube動画 講演要旨 トークセッション
講演(2024年2月)
出前講座で伝えたい被害防止のポイント(消費生活相談事例学習会・研修[専門] 兵庫県立消費生活総合センター/国民生活センター 兵庫県神戸市)
講演(2024年1月)
人間の意思決定過程における「認知バイアス」(消費者問題実務研究会 札幌弁護士会 北海道札幌市)
講演(2023年11月)
だまされない消費者になるための心理学(消費者講座 調布市/東京都 東京都調布市)
講演(2023年10月)
「買う」と「買わない」の境目の心理学(くらしフェスタ東京2023メインシンポジウム 東京都消費者月間実行委員会 東京都)
講演(2023年7月)
だまされない消費者になるための心理学(令和5年度消費生活リーダー養成講座 北海道消費者協会 北海道札幌市)
講演(2023年1月)
消費者被害の未然防止に役立てたい消費者心理プロセスについて(令和4年度地方消費者行政担い手育成事業「第2回全道研修(高度専門)」 北海道消費者協会 北海道札幌市)
講演(2022年11月)
だまされない消費者になるための心理学 〜人間の認知バイアスに注目して〜(令和4年度消費者のつどい 広島県・広島県消費者団体連絡協議会 広島県広島市)
講演(2022年11月)
消費者トラブルに陥る心理について(令和4年度研修会 名古屋市消費生活センター 愛知県名古屋市)
講演(2022年11月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因(より効果的な消費者教育のために)(令和4年度消費生活相談員パワーアップ研修 滋賀県消費生活センター /国民生活センター 滋賀県彦根市)
講演(2022年11月)
だまされない消費者になるための心理学~ポジティビティバイアス~(令和4年度くらしのセミナー 北海道立消費生活センター 北海道札幌市)
講演(2022年9月)
消費者被害に遭う心理的要因~高齢者の特性に注目して~(令和4年度啓発講座 消費者被害防止ネット長崎 長崎県長崎市)
講演(2022年6月)
だまされない消費者になるための心理学(第20回定時総会記念講演 消費者ネット広島 広島県広島市)
講演(2021年6月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(D-ラーニング 国民生活センター 東京都港区)
講演(2020年9月)
心理学から見た~人間の本性からの騙されやすい仕組と構造と発展的な克服~(NACS中国支部・岡山研究会共催勉強会 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会中国支部 岡山県岡山市)
講演(2020年9月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活相談員研修 長崎県長崎市)
講演(2020年8月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活セミナー 尼崎市危機管理安全局危機管理安全部生活安全課 兵庫県尼崎市)
講演(2020年2月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活相談員研修専門・事例講座 国民生活センター 神奈川県相模原市)
講演(2020年1月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活相談員研修専門・事例講座 国民生活センター 神奈川県相模原市)
講演(2019年12月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活相談員研修専門・事例講座 国民生活センター 神奈川県相模原市)
講演(2019年10月)
「私は大丈夫!」の危険!~消費者被害に遭う心理的要因~(消費生活問題コンファレンス 広島消費者協会 広島県広島市)
講演(2019年8月)
「私は大丈夫!」の危険!~消費者被害に遭う心理的要因~(令和元年度消費生活講座 岡山県消費生活センター 岡山県総合福祉・ボランティア・NPO会館 岡山県岡山市)
講演(2019年6月)
消費者被害の背景にある心理的要因(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(中国支部)講演会 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(中国支部) 広島県広島市)
講演(2018年11月)
若者が消費者トラブルに遭う心理的要因(消費生活相談員研修専門講座地域コース 国民生活センター 岡山県総合福祉・ボランティア・NPO会館 岡山県岡山市)
講演(2018年9月)
若者が消費者被害に遭う心理的要因について(消費生活相談員研修専門・事例講座 国民生活センター 相模原事務所研修施設 神奈川県相模原市)
講演(2015年10月)
生活の場での消費者心理学:だまされない消費者になるために(立正大学心理学部公開講座 東京都品川区)