研究内容

1. カキ類の自然個体群における繁殖生態の解明

日本では現在、マガキCrassostrea gigasが全国各地で養殖され、一般的に食用とされています。

市場で売られているマガキ

マガキは古くからオスからメスへ性転換していることが知られていましたが、養殖されているため、自然個体群での繁殖生態はあまり明らかにされていませんでした。

そこで、マガキの自然個体群で調査をしてみると、他個体の存在が性転換に影響することが分かりました。

マガキは他個体と接着して集団でいる際には、オスからメスへの性転換が抑制され、オスのままでいやすくなっていました。

また、メスからオスへの性転換や、繁殖期内での性転換も観察され、マガキの性は状況に応じて変化することが示唆されました。


マガキが生息する様子

一方で、日本で食用とされないカキ類の繁殖生態はほとんど研究が進んでいません。

そこで、岩礁潮間帯に生息するケガキSaccostrea kegakiとオハグロガキS. mordaxの繁殖生態を調べてみました。

するとマガキと同様に、ケガキとオハグロガキでもオスからメスへの性転換と、メスからオスへの性転換が起こることが分かりました。

ケガキ

オハグロガキ

参考文献

Yasuoka N, Yusa Y (2016) Effects of size and gregariousness on individual sex in a natural population of the Pacific oyster Crassostrea gigas

Journal of Molluscan Studies, Oxford University Press, 82 (4):485-491.

Yasuoka N, Yusa Y (2017a) Direct evidence of bi-directional sex change in natural populations of the oysters Saccostrea kegaki and S. mordax

Plankton and Benthos Research, The Plankton Society of Japan, The Japanese Association of Benthology, 12 (1): 78-81.

2. 日本に生息するカキ類の寄生虫についての研究

カキ類には原虫や吸虫、カイアシ類、十脚類(いわゆるカクレガニ類)など、様々な寄生虫がいます。

卵巣肥大症など、マガキに病気を引き起こすような寄生虫については研究が進められていますが、その他の寄生虫に関してはほとんど研究が進んでいません。

そこで、日本に生息するカキ類の寄生虫についての文献調査を現在進めています。

マガキに寄生するオオシロピンノ(カクレガニ)

火が通って色が変わっています

3. 超寄生者が宿主に間接的に与える影響の解明

寄生性の生物にさらに寄生する「超寄生(ハイパー・パラシティズム)」という現象があります。

例えば、カキに寄生するカクレガニに寄生する等脚類など、様々な超寄生者が海洋生態系では報告されています。

ケガキに寄生するクロピンノに寄生するエビヤドリムシの一種(赤く膨れている部分)

超寄生者は寄生者の繁殖に悪影響を与える場合が多いので、寄生者に負の影響を与えることで宿主に間接的に正の影響を与えると考えられてきました。

敵の敵は味方、という考え方です。

そこで、ケガキークロピンノーヤドリムシという系で調査してみると

・ケガキに寄生するクロピンノはほとんどがメスであるが、ヤドリムシの寄生率はオスのクロピンノで高い

・クロピンノはメスの方が大きく、オスは小さくて歩脚に泳ぐための遊泳毛がある

・ヤドリムシに寄生されたクロピンノのメスは抱卵が阻害される

・ヤドリムシに寄生されたクロピンノのオスはメスのように巨大化して遊泳毛を失う

・ヤドリムシに寄生されていてもいなくてもクロピンノはケガキの繁殖や身入りに悪影響を与える

ということが分かりました。

つまり

・ヤドリムシはメスのクロピンノの抱卵を阻害することで次世代の子どもの数を減少させ、ケガキに正の影響を与える

・ヤドリムシはオスのクロピンノの形態を変化させてケガキに留まらせ、ケガキへの負の影響を与える

という、超寄生者が宿主に正と負の両方の間接効果を与える、ということが示唆されました。

敵の敵は味方とは限らず、さらに敵だった、という感じでしょうか。

超寄生者ー寄生者ー宿主という系は海洋・陸上問わず、様々な分類群においても見られる系です。

寄生率の問題で生態学的な研究が進めにくい、という問題点はありますが、今後も研究を発展させていく予定です。

参考文献

Yasuoka N, Yusa Y (2017b) Effects of a crustacean parasite and hyperparasite on the Japanese spiny oyster Saccostrea kegaki,

Marine Biology, Springer, 164:217.

4. カクレガニの飼育方法

カクレガニは基本的に宿主内にいることが多いため、宿主ごと飼育する方法しか飼育方法がありませんでした。

しかしながら、宿主の飼育(特に二枚貝類)が止水水槽では難しく、宿主の中でカクレガニがどのように生活しているのかは観察しにくいという問題点がありました。

そこで、宿主外でも飼育できるかを、クロピンノを材料として、飼育観察を行いました。

以下の飼育環境においては、約5ヵ月間は飼育可能だと分かりました。

・宿主から取り出したカクレガニは1個体ずつ容器に入れる

・人工海水(Gex株式会社)

・水温は25℃

・餌は週に1度、テトラミン(テトラ社)を適量与える

・水替えは2週間に1回

宿主外での飼育観察と野外調査を併用することで、カクレガニの新しい生態学的な知見が得られると期待しています。

参考文献

安岡法子 (2014) クロピンノ(カクレガニ科)の宿主外での飼育観察

Nature Study,60 (7): 5–6.