動物生態学研究室|京都大学
Animal Ecology Lab. Kyoto University
研究について:フィールドからゲノムまで
動物生態学研究室では,水域および陸域にすむ,魚,鳥,昆虫などの多様な動物を対象に,それらの生態と進化について,分子生態学,個体群・群集生態学,行動生態学,生態形態学,古生態学といった,さまざまな階層・領域に及ぶ研究が展開されています.
本研究室では,フィールドでの生態観察を中心とした研究が行われてきました.現在も,教員・学生ともに,日本各地あるいは海外のフィールドへと出かけて,調査を行っています.皆,研究対象が野外で生きている姿を知っている,実験室に閉じこもらず,虫採り,魚採り,野鳥観察に熱中できる,それが,本研究室の良いところです.
また近年では,生態学の手法・領域が高度化・多様化するとともに,進化的側面への関心も高まってきたことから,飼育実験や分子生物学的実験など,実験室内で行われる研究の比重も増しています.
適応的多様化・種分化
動物の適応的な多様化,そしてそれに関連する種分化について,野外観察,室内実験,分子生態学的解析を通して研究しています.例えば,魚や昆虫における,餌や生息場所タイプに対応した形態の分化がどのような自然選択によって生じたのか,またその分化は,集団間の遺伝的分化や生殖隔離と結びついているかといった課題に取り組んでいます.
適応分化や種分化を遺伝子レベルで解明するために,QTL解析や発現遺伝子比較といった「エコゲノミクス」のアプローチによる研究を進めています.次世代シーケンサーが普及し,対象動物のゲノムから大量のシーケンスデータを得て,解析が行われています.
個体群生態学
種の分布と個体数を把握し,その成因を明らかにする個体群動態論は,歴史的に生態学の中核をなしており,現在も,個体群生態学の主要な一分野を占めています.個体群動態の把握は,種の保全においても,適応進化の理解にも重要です.本研究室では,絶滅が危惧されるネコギギについて,継続的な個体群調査が行われています.
種間関係・群集
動物の種間では,競争,捕食,植食,寄生・共生といった,多様な関係が見られます.これらの種間関係の様相を解明し,また,それが,適応進化,種分化・多様化といかに関連しているかを研究しています.資源をめぐる競争のほか,近縁種間の繁殖行動を介した干渉(繁殖干渉),植食性昆虫と寄主植物の相互の適応や昆虫と植物の共進化,捕食-被食関係における擬態,など,多岐にわたる種間関係が扱われています.
行動生態学や生態形態学といった観点から,動物の行動および形態の機能とその適応進化についての研究も行っています.
動物群集については,これまで,淡水魚,土壌無脊椎動物などの餌資源利用が,胃内容分析や安定同位体分析によって研究されてきました.
系統地理学・歴史生物地理学
動物の種の地理的分布,地理的な集団分化・種分化がどのような歴史的背景をもっているのか,また,それが気候変動や地史とどのように関係しているのかについて,分子系統学的手法を用いて研究しています.とくに日本の淡水魚や昆虫(オサムシ,シデムシ,ネクイハムシ)を主な研究対象としてきました.
古生態学
生物進化と生態系の変遷は,現生種(現在生きている生物種)のもつ情報からの推定と,化石種のもつ情報を組み合わせることによって復元されます.とくに動物の種多様性が著しい陸上生態系は,約4.7億年前,陸上植物の誕生とともに成立し,それ以来,植物の進化とともに大きく変貌を遂げてきました.植物化石から昆虫の食痕などの生痕を見つけ,共産する動物化石や古環境と併せた解析を行い,陸上生態系の変遷史を理解しようとする,古生態学的研究を行っています.
お知らせ
個体群生態学会発表賞の受賞
第39回個体群生態学会大会にて,当研究室D2の木村さんの発表が優秀発表賞を受賞しました(大会サイト).
○木村 楓・曽田 貞滋(京大院理)
#P-31 深層学習によるカエル群集のハイスループットな音響モニタリング:繁殖フェノロジーの予報に向けて
魚類学会発表賞の受賞
第57回日本魚類学会大会にて,当研究室の3件の発表が優秀発表賞を受賞しました.
優秀口頭発表賞
シマドジョウ問題:異質倍数化と生態適応のモデルとして
◯三内 悠吾(京大農)・田畑 諒一(琵琶博)・渡辺 勝敏(京大院理)
Spined loaches as a model system for the study of allopolyploidization and ecological adaptation
◯Yugo MIUCHI, Ryoichi TABATA and Katsutoshi WATANABE
優秀ポスター発表賞
環境DNA調査から明らかにされたモツゴ外来系統の侵入状況
◯小粥 淳史(京大院理)・辻 冴月(京大院情報)・渡辺 勝敏(京大院理)
Invasion of non-native populations of the topmouth gudgeon Pseudorasbora parva revealed by eDNA survey
◯Atsushi KOGAYU, Satsuki TSUJI and Katsutoshi WATANABE
ゲノムワードデータから推定された周伊勢湾域固有種ネコギギの集団形成史
◯大貫 渓介(京大院理)・田畑 諒一(琵琶博)・三品 達平(理研 BDR)・⻄田 睦 (琉大)・渡辺 勝敏(京大院理)
Population history of Pseudobagrus ichikawai: insights from genome-wide SNP data in the endemic species of the Ise Bay area
◯Keisuke ONUKI, Ryoichi TABATA, Tappei MISHINA, Mutsumi NISHIDA and Katsutoshi WATANABE
堀道雄名誉教授が日本動物学会学会賞を受賞しました
研究テーマ「魚類を主とする水生動物の左右性と群集における動態」での受賞です.誠におめでとうございます.
詳細は日本動物学会のサイトをご参照ください.
論文賞 Zoological Science Award を受賞しました
Nahid Sultana Luckyさんを第一著者とするコウイカとその餌であるエビの左右非対称性についての論文(下記)が,2023年度 Zoological Science Award(論文賞)を受賞しました.
詳細は日本動物学会のサイトをご参照ください.
Dynamics of Laterality in the Cuttlefish Sepia recurvirostra through Interactions with Prey Prawns.
Nahid Sultana Lucky, Kristine Joy L. Tandang, Michelle B. Tumilba, Ryo Ihara, Kosaku Yamaoka, Masaki Yasugi, Michio Hori
Zoological Science 39 (6): 545-553
過去のお知らせはこちら.
最近のプレスリリースはこちら (外部リンク).