top > lecture > 科学技術論演習Ⅰ>科学技術論演習Ⅰ:第1回(11月29日)

初回はイントロダクション。

「間をつなぐデザインの分析」とか言うとカッコいい感じもしますね。ところで、小林(1998)にはこんな一節がありました。

「(従来は技術的説明も書かれていたが)…かくして、取扱説明書は論理的次元の説明に終始し、箱の中身に関してはほとんど説明しなくなる。箱はブラックボックスと化し、製品と使用者との関係は論理的な次元においてのみ成立するようになる」(小林 1998, 115)

この「論理的な次元」とは何でしょうか。

「なにかを隠したり、特定のものをピックアップしたり、抽象化して再提示(representation)したり、それをなんらかのルールに基いて並べたり、キャプションをつけたりして構成されている」インストラクションを読み手は読み解き、(たいていは)目的を達成することができるようになります。逆にいえば、読み手が読み解くことができるようにそのインストラクションは構成されているはずです。こういったインストラクションの構成がすなわち「論理的な次元」のことであるとここでは考えましょう。

ところで、私たち自身もそういうものを日常生活のなかで作ることがあります。たとえば道案内のときに即興で作る地図とか、クックパッドの料理のレシピとか(情報社会の到来は、こういう”いい加減な”媒介オブジェクトが量産されるようになった、という言い方もできるかもしれません)。ということは、実践的な目的におけるインストラクションの作り方の知識というものをすでにもっているような気もします。こういうのは専門的で高度な対象を初手から選ぶとしんどいので、身近でありふれた対象から考察を始めるとよさそうです。

というわけで、身近にあって、かつだいたいみんな触ったことがあるけど初手で失敗することが多い、取説の作りがいがある対象を探してみましょう。そして、取説を作ってみて、「二次元に落とし込む」「インストラクションする」という活動がいかなるものなのかを確認していきましょう。

そんな都合のいい道具どこにあるのか。教室にあります。ブラインドですね。というわけで、受講者と私ともどもブラインドをいじり倒し、お手製の取説を作ってみます。一人ひとつ。もちろん私も作ってみます。その前に、まずはブラインドの使い方について、実際に動かしてながらそこでやっていることをどんどん言葉に出してみましょう。意識的にいじってみて、私はブラインドの使い方を6割ぐらいの理解で、いつも失敗の不安を感じつつエイヤで使っていたこと(そして、たいていは初動で失敗すること)があらためてわかりました。もっとも、しっかり学習して覚えておかないと重大なリスクが生じるような道具でもないので、その辺がいつもエイヤでやってしまうことの根っこのような気もします。

みなでああだこうだ言いながらいじり倒すのはいろいろ面白かったんですが、個人的に一番ヒットしたのは、一番上まで上げたブラインドを再び下ろすには、およそ45度以上までヒモを持ち上げて、かつ「思ったよりも強く」引っ張る必要があるということです(上図)。これ、背が低い子どもは操作不可能ですね。僕はこれを知らなかったので、自分でいじっている最中に「壊してしまった!」と焦りましたが、この機能を先に発見していた学生さんに助けてもらいました。特に興味深いのは、「思ったよりも強く引くこと」ことです。そもそもブラインドを使う際の適切な力の量みたいなものがあるのでしょう。でも、この作業をする場合に限り、一時的にそのリミッターを外さねばいけません。この「一時的にリミッターを外す」ということに思いが至らなかった学生は、それ以外の操作はすべて合っていたのに「動かないよ~」と言っていました。「力加減」なんてふつう取説には書いていないけど、とても重要な要素だよね。なんで書いてないんだろう?はてさて。

次回はみんなが作ったブラインドの取説を見て、そのあたりについても議論してみたいと思います。そういえば、教室にあるブラインドの中身がどうなっているか知りたくて講義中に解体してみようとしましたが、素人にはどうすれば中身が見られるのか(そもそも窓からどうやって外すのか)がまったくわからず、筐体を前に完全に無力でした。ブラインドもまたブラックボックスということでしょうか。

そして、小林信一(1998)「ブラックボックス化の図像学」嶋田厚・柏木博・吉見俊哉編『情報社会の文化3――デザイン・テクノロジー・市場』東京大学出版会, pp.103-131.の前半部分のみ紹介。

「科学技術と社会を媒介するオブジェクトとして、科学実験のプロトコル、電子機器の取扱説明書、設計図などがある。これらは、誰しもが「一定の手続きのもと、同じ結果を導出する」ことを可能にする社会技術である。また、印刷技術や電子化の進展は、こうした社会技術の継承を容易にした。本講義ではこうしたオブジェクトの構成の論理を探求する。」これが講義概要になります。なかでも、取説やマニュアルを執拗に分析してみます。