2014-1-31 女子マラソン日本学生新記録
Post date: Jan 31, 2014 12:21:00 AM
-前田彩里選手(指導者:吉川潔監督)-
1月26日に第33回大阪国際女子マラソンにおいて、佛教大学4回生の前田彩里選手が従来の記録を5分上回る2時間26分46秒で4位入賞しました。※従来の記録は、1996年中央大学の松本こずえ選手が日本海マラソンで樹立した2時間31分46秒。
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2012年12月7日に大阪体育大学-足立研究室にて、彼女の最大酸素摂取量、血中乳酸濃度測定を行いました。
依頼を受けたのは、大学、大学院の先輩であり、現在は佛教大学陸上競技部監督の吉川潔監督。
吉川監督とは大学は入れ替わりで、私(足立)が大学3回生の時に、大学院修士課程が設立された折り、日産自動車陸上競技部を辞められ第1期生として本学に戻ってこられました。
修士課程の2年間は、豊岡示朗教授のもとで指導を受けられていました。また陸上競技部男子中長距離ブロックのコーチとして現場を指導されていました。当時、私はマネージャーであり、大学院進学を志望していたので、吉川監督の下で実験やデータ解析のお手伝い、陸上競技部ではコーチとマネージャーという立場で携わっていました。ちなみに私は大学院は3期生で、豊岡示朗教授のもとで2年間、修士課程で指導を受けました。
前田彩里選手は、2012年12月1日(土)開催の第228回日本体育大学長距離競技会にて女子5000m3組(16:00スタート)に出場し、15分32秒22の自己ベストで走りました。その1週間後の12月7日(金)に最大酸素摂取量と血中乳酸濃度測定を実施しました。
大阪体育大学総合実験室にて
すでにマスコミ報道されていますが、最大酸素摂取量は69.3ml/kg/分。
※最大酸素摂取量とは、1分間あたりにカラダへ取り込まれて消費される酸素の最大量のことを表しています。簡単ににいえば、最大酸素摂取量という数値が大きければ大きいほど、全身持久力に優れているということです。
血中乳酸濃度4.0mmol/Lに相当する速度、いわゆるOBLA(オブラ)スピードは、300m/分以上でした。※正確な数値は非公表。
ちなみに足立哲司、豊岡示朗(2013)※によると日本インカレ優勝者の最大酸素摂取量は60〜70ml/kg/分であり、OBLAスピードは300m/分以上が必須条件。これが学生トップレベルの数値です。※足立哲司、豊岡示朗(2013)大学女子中長距離選手の競技記録とVO2max/kg、vVO2max、OBLAスピードの関係.大阪体育大学紀要.44.1-10.
前田彩里選手は、すべてこれに当てはまっていた訳です。
もう一点、重要な因子があります。それは最大有酸素スピード(vVO2max)です。
これは、最大酸素摂取量が出現するときのスピードです。
長距離選手の最高速度ともいえます。具体的には2000mを全力で走り続けられる速度と考えて下さい(時間にして6分程度)。
100mは無酸素的スピードですが、2000mは有酸素的スピードになります。
前田彩里選手の最大有酸素スピードは340m/分。これは1キロ2分56秒のスピードです。
クルマで例えると、大きなエンジンを持っていても絶対的スピードが遅ければ、ただの燃費の悪い車になりますが、彼女は高性能エンジンということになりますね。
以上のように、日本学生記録の裏側には、生理学的データの裏付けがあります。
測定は誰でも出来ますが、その「数値を観て判断し、素質を見いだせ、指導に活かせるか!」は指導者の能力です。
吉川監督は、これらの生理学的な知識をお持ちで、自らもトップレベルの競技者として活躍してこられた経験、そして指導実績(=大阪体育大学、日本生命、ホクレン、大阪成蹊女子高校)があったからこそ成し得た育成・指導だったと思います。
当然、本学においても女子中長距離選手の測定は、年3〜4回行っています。
その結果を基に指導し、現在、実業団で活躍している選手は、2013年ダイハツに入社した岡小百合、2011年スターツに入社した徳田夕佳です。また、現在、在学中の学生で生理学的能力として、前田彩里選手、岡小百合選手に匹敵する数値を持っている選手がいます。指導者としては、この選手が2年後、3年後にどのように成長するか、彼女らを上回るのかがとても楽しみです。