プログラム

シンポジウム  

テーマ「日本の英語教育の将来:自律的な英語学習者の育成」

概要:主体的な学びを引き出す英語の授業とはどのようなものなのだろうか。自ら学びに向かおうとする学習者に成長するためには、どのような授業を設計し、教員はどのような支援をすれば良いのだろうか。動機付け、メタ認知、学習方略、自己調整学習などのこれまでの研究や実践、さらには、学習の個別化、協働的な学びの在り方なども踏まえて、自律的な英語学習者を育てるために、英語教育はどうあるべきかについて、議論する。

コーディネーター:

染谷藤重(京都教育大学)

登壇者:

染谷藤重(京都教育大学)

鈴木章能(⻑崎大学)

関屋 康(神田外語大学)

伊守勇治(神田女学園中学高等学校)

特別講演 「英語の学習意欲を問うーモチベーション理論の視角からー」

講師:鹿毛雅治氏(慶應義塾大学教職課程センター教授)

講演概要:

生徒の学習意欲をいかに高めるか。それは今も昔も教師にとって悩みの種であるに違いない。意欲が学習の成否を左右する重要な要因であることは確かだが、やる気を必ず高める便利な方法があるわけではない。ともすると、「○○さんはやる気がない」というように学習者側に原因があると考えがちだが、それは教える側の責任放棄だ。そもそも学習意欲は当人と教育環境との相互作用によって立ち現れる心理現象であり、学習活動を促すような教育環境をデザインすること自体が教師の重要な責務だからだ。しかも学習者一人ひとりには個人差があって教育の効果は一様ではない。このように教師たちにとって学習意欲とは常に直面する難題であって、答えが一つに定まらない永遠の問いなのである。

そもそも学習意欲とは何なのだろう。感覚的にわかったつもりになりがちな「やる気」や「意欲」という現象について、教育心理学の観点からきちんと理解することは重要だろう。そこで当日の講演では、英語に特有な学習意欲の性質を念頭に置きながら、それに関連するモチベーション理論を紹介することを通して、教育実践を創り出していくためのヒントが見出せるような話題を提供してみたい。

特別講演講師 プロフィール

慶應義塾大学教職課程センター教授/同大学院社会学研究科委員(教育学専攻)。1964年、横浜市生まれ。横浜国立大学教育学部心理学専攻卒業、慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了、同博士課程単位取得退学、博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員、慶應義塾大学教職課程センター助手、同専任講師、同助教授、スタンフォード大学心理学部客員研究員、東京大学大学院教育学研究科客員教授等を経て、現職。専門は、教育心理学、特に学習意欲論、授業論。

主な著書に、

『教育心理学の新しいかたち』(編者、誠信書房、2005)、

『教育心理学(朝倉心理学講座第8巻)』(編者、朝倉書店、2006)

『学習意欲の理論-動機づけの教育心理学』(⾦子書房、2013)

『発達と学習(未来の教育を創る教職教養指針3)』(編者、2018,学文社)

『授業という営み―子どもとともに「主体的に学ぶ場」を創る』(教育出版、2019)

『モチベーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム』(中央公論新社、2022)

課題研究フォーラム1年目

コーディネーター:草薙邦広(県立広島大学) 

提案者:

浦野 研(北海学園大学)

中村大輝(宮崎大学)

概要:英語教育研究の大部分は人を対象とする研究によって得られたデータによって成立し,研究の発展には,多くの教師や学習者の協力が欠かせない。しかしながら,私たちはその事実に見合うような研究倫理指針と個人情報保護の手立てを学会等の諸制度として,そして研究を遂行する際の当事者の意識として,十分に備えているといえるのだろうか。英語教育研究における関連学会の多くが研究倫理要項等を持たない現状や,学会を主導とする研究倫理教育における機会の少なさを見ると,まず私たちがなすべきは研究倫理に関して活発な議論を続けることであると考えられる。本発表はその端緒を広くため,(a)QRPs,(b)杜撰なデータ管理,(c)現代における教育・研究技術の発展と諸制度のミスマッチといった問題を視野に入れ,関連分野の動向を見据えながら今後の英語教育研究にあるべき研究倫理について議論を始める。 

2. エンゲージメントを高める英語授業 (担当:関東甲信越英語教育学会)

コーディネーター:廣森友人(明治大学) 

提案者:

髙木俊輔(聖光学院中学校高等学校)

小金丸倫隆(神奈川県立光陵高等学校)

奥貫明子(行田市学力向上支援教員・明治大学大学院博士後期課程) 


概要:これまでのモチベーション研究は,英語の上達には気持ち(いわゆる,やる気)だけでは不十分であり,実際の行動が不可欠だということを繰り返し指摘してきた。その結果,近年の研究では,行動面を含めて,モチベーションという概念をより包括的に捉えようとする機運が高まっている。そのような流れの中で注目を集めているのが,「エンゲージメント」(engagement)である。エンゲージメントとは,学習者が夢中になって,目の前の活動や学習に主体的,意欲的に取り組んでいる状態のことを指す。モチベーションが学習者の欲求(desire)や意図(intent)と強く関連しているのに対して,エンゲージメントはそれらを具体化し,維持することで,確固たる学びに結びつけている。まさに,「エンゲージメントはすべての学びを定義する」(“Engagement defines all learning.”; Hiver et al., 2021, p. 2)のである。

本フォーラムでは,エンゲージメントの枠組みに基づき,学習者が自ら積極的に英語授業に取り組む教室環境はどのように作り出せるのか,そのような学習活動のデザインはどのように行えばよいのか,そして,エンゲージメントの実態を明らかにする研究にはどのように取り組むのかといったテーマに対して,理論・実践・研究の三側面から統合的にアプローチする。教室でエンゲージメントを引き出す英語授業を行いたい,エンゲージメントを研究対象にしたい,そんな教師,教師を目指す学生・院生,研究者の多くがエンゲージしたくなるようなフォーラムを目指したい。


課題研究フォーラム2年目

1.「スピーキングの指導と評価:指導と評価の一体化とその効果」(担当:九州英語教育学会)

コーディネーター:森下浩二(佐世保工業高等専門学校)

提案者:

吉永早紀子(中津市立豊陽中学校)

三浦宏昭(大分県立大分上野丘高等学校)

一ノ瀬憲二(長崎県立長崎東高等学校) 


概要: 現行の中学校・高等学校学習指導要領(外国語)で、「英語」を用いた自己表現への重要性が以前より明確になり、授業においてコミュニケーション能力育成に焦点を当てた活動の実践が求められている。そのような状況下、スピーキング活動に関して、その効率性を高めるため指導と評価を一体化した取り組みが注目を集めている。

ただし、スピーキング活動・評価を授業の中に定着するためには、適切な評価方法の確立・教員が確保できる時間の確保等、解決すべき課題がある。実際に、大学入試に導入が検討されたスピーキングテストが、その運営上の問題から延期になったケースも報告されている。

本課題研究フォーラム1年目では、「スピーキングの指導と評価の実際」として、3名の教員によるスピーキング活動・評価の報告をもとに、現状での課題・今後の方向性等について議論を進めた。今回2年目では、「指導と評価の一体化とその効果」に焦点を当て、授業におけるスピーキング活動と評価を一体化した活動が、授業(学習者・教員・指導方法)に与える影響に注目し議論を進めることにしている。たとえば、「学習者」と「教員」の関係に注目すると、評価を意識したスピーキング活動に継続して取り組むことにより、評価基準・規準を両者が事前に「共有」することが可能となり、それがお互いの立場において「授業の振り返り」につながることで、教育の質向上が期待される。



2.「観点別学習状況の評価と言語能力の評価-言語習得・リーディング・語彙研究の知見から」(担当東北英語教育学会)

コーディネーター:鈴木渉(宮城教育大学)

提案者:

鈴木渉(宮城教育大学)

髙木修一(福島大学) 

佐藤剛(弘前大学)


概要:平成29・30・31年度告示の小・中・高等学校の『学習指導要領』では、外国語教育の目標が「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」および「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で整理された。それに伴い、学習評価も「知識・技能」、「思考・判断・表現」そして「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理され、国立教育政策研究所が刊行している『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』(参考資料)に学習評価の事例がまとめられている。本フォーラムでは、学習指導要領や参考資料に基づいた観点別学習状況の評価のポイントを整理した上で、それらを英語教育研究の立場から考えることを目的とする。具体的には、目的・場面・状況などを設定して行う観点別学習状況の評価の方法と、言語習得・リーディング・語彙研究で使用されている測定法や評価方法との類似点や相違点を探り、学校現場における指導と評価の改善に向けた視点を提供したい。2年目である今年度は、英語教育研究で使用されている測定法の学習評価への応用可能性を検討し、教室環境における実用性を中心に議論する。


授業研究フォーラム

1.「「見方・考え方」を豊かにする「やり取り」の指導の在り方」(中国地区英語教育学会)

コーディネーター: 小橋雅彦(ノートルダム清心女子大学)

提案者:

三仙真也(福井県立藤島高等学校)

宮崎貴弘(神戸市立葺合高等学校)

千菊基司(鳴門教育大学)

概要:学習指導要領では、「見方・考え方」が「学びの深まり」のカギとして示されている。「主体的・対話的で深い学び」の視点と「見方・考え方」は、授業改善を図る上では密接不離の関係にあるにも関わらず、生徒が「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」を働かせた言語活動の在り方について多く語られないのは何故か。また、何が「見方・考え方」の本質的な理解を阻む要因となっているのか。

フォーラムでは「やり取り」の実践事例の紹介を通して、外国語科における「見方・考え方」を実践者がどのように言語化し、学習過程にどのように反映されるのかを探る機会としたい。

実践事例の提案は、「やり取り」の指導において顕著な実績を挙げられている先生方にお願いした。三仙真也先生(福井県立藤島高等学校)には、「ディベート」を言語活動として取り入れた指導の実践、宮崎貴弘先生(神戸市立葺合高等学校)には、「意見や考えの再構築」を目指した指導の実践、千菊基司先生(鳴門教育大学、前広島大学附属福山中・高等学校)には、「意思決定タスク」を含む言語活動中心の指導の実践をご紹介いただく。

提案者の実践報告は、「やり取り」の指導における切り口は異なるものの、「見方・考え方」の観点からは、指導者が抱く信念に関していくつかの共通項が見えてくる。ここを外国語科における「見方・考え方」の本質の一部を読み解く糸口とし、参加者の方々との活発な議論を期待したい。


2.「「指導と評価の一体化」の実践課題:小・中・高での事例研究」(担当:関⻄英語教育学会)

コーディネーター:今井裕之(関⻄大学)

提案者:

羽渕弘毅(⻄宮市立甲陽園小学校)

狩野伸⾏(堺市立上野芝中学校)

有嶋宏一(鹿児島県総合教育センター)

概要:準備中

大学生・大学院生フォーラム

1日目 「大学生・大学院生のためのキャリアパス」

司 会: 森 好紳(白鴎大学)

登壇者: 内野駿介(北海道教育大学)

2日目 「大学生・大学院生のための交流の場」

司 会: 小木曽智子(富山大学)

概要:大学生・大学院生フォーラムは、香川研究大会の2日間にわたって昼休みの時間帯に開催されます。1日目は、若手の先生をお招きし、現職に至るまでの体験談や実際に就職して感じたことなどを伺いながら、英語教師・研究者のキャリアパスについて考えを深めていきます。2日目は、参加者の皆さまでグループを作り、情報交換や交流をしていただく予定です。 

ワークショップ

1.「CLIL の授業方法の提案」   

講師:柏木賀津子(四天王寺大学)

概要:21世紀の社会には答えのない問題が次々と起こる。英語の授業でも、言葉や文化の多様性を超えて対話を通した学び合いをすることが、シチズンシップに繋がればという願いを持っている。CLILの授業では母語以外のもう一つの言語(ここでは英語)をもちいて次のような言語活動を組みたい。「調査や実験をする(Doing)―問いをたてる(Research Question)ー情報を整理・分析する(Organizing and Analyzing Informationー原因と結果を考える(Cause and Effect)ー説明や議論をする(Explaining・Arguing)ー社会と繋ぐ・他の場面で応用する(Transferring)」といった問題解決のプロセスである。

一方で、発表者は、日本の中高大における英語教育において、英語面や文構造への注目が無いCLIL授業は、あまり想定していない。寧ろ、「内容×文構造」のシナジーを産み出したいと考えている。その際に、Usage-based Modelに基づく、リテリングやリプロダクション、まとまりのある表現とその一部入れ替えをどのように授業に取り入れるかが、教師としてのやりがいである。そのため、諸外国のCLIL研究においても、CLILに取り組むことが、教師のProfessional Identityの追究となることが注目されつつある。本WSでは、中学校~大学生と行った授業から、「SDGs×英語」「芸術や文化×英語」などの取り組みを紹介したい。

(スマートフォンでQRが読めるようにしてご参加ください。)

2.「授業におけるタブレットの効果的な活用」

講師:瀧沢広人(岐阜大学)  

概要:英語授業におけるICT活用の目的は何であろうか。もちろん「学力の向上」である。子どもたちの「学力の向上」のために、ICT機器を活用し、興味・関心を引き、授業の効率化を図る。しかし、その1人1台端末の時代に向かう過渡期においては、ICT活用を目的にしてもよいと考える。意図的に授業で活用し、子どもたちに使わせる中で、効果的な指導方法が自然と残っていくことと思う。

私は、ICT等の教育機器の専門家ではない。英語教育を専門とし、どのようにしたら、よりよい授業が展開できるのかを研究している。そして、必要に迫られ、1人1台端末時代における英語授業も考えざるを得なかったということになる。

  さて、コロナ禍を経て、1人1台端末活用の授業が当たり前のようになった。既に、子どもたちにとっては、タブレット等は1つの文房具である。私の関心事は、「今までやっていた授業は、ICTを使ったらどんな授業になるのであろうか」ということである。

  本ワークショップでは、①英語授業におけるICT活用の考え方、②ICTを実際に授業で用いた場合の活用法と使い方の実演、③デジタル教科書での活用法、④対話型AI時代の課題と展望、等をお話できたらと思う。


(参加者は、可能でしたら、スマートフォン等のwifiにつなげられる端末をお持ちください)

3.「やりとり」を対象としたパフォーマンステストの実践を通して 

   〜設計、評価、そして新課程への対応について〜 

講師:木村一男(千葉県立船橋高等学校)

概要: 小学校、中学校、そして高等学校における新学習指導要領の施行によって、高等学校では、これまで以上に言語経験と言語知識が豊富な学生を受け入れることになると予想される。今後、より高度な言語活動とその評価方法を開発する必要性が生じる。よって、本ワークショップでは、高等学校における高度なパフォーマンステストの開発をテーマに、自身の先行事例から得られた知見を紹介するとともに、参加者とのディスカッションを通して、今後のパフォーマンステストのあり方について考えていく。

 本ワークショップは、主に1)テストの設計、2)評価尺度の開発、3)評価の課題と対策の3つを取り扱う予定である。1)テストの設計では、参加者に実際にタスクを体験してもらい、タスクの内容及び環境設定の重要性について考えていく。2)評価尺度の開発では、学習者の変化(成長)を測るためにはどのような尺度が必要かを考えていく。3)評価の課題と対策においては、パフォーマンステストにおける大きな課題である評価の信頼性について理解を深め、課題の対策について共に考えていきたい。

  

(本ワークショップは、普段パフォーマンステストを実践している中学校、高等学校の英語教員及び高等学校におけるパフォーマンステストに興味・関心のある研究者を対象としている。)