研究テーマ

左手系メタマテリアルの無線回路応用

約20年前,負の屈折率・透磁率をもつ媒質(メタマテリアル)が作り出されました。私たちの身の周りの光や電波は右手系の電磁波ですが,この人工媒質の中を通過すると通常の電磁波とは全く性質の異なる左手系の電磁波に変わります。それは,ワイヤレスの分野において革新的な無線回路が実現できる可能性があることを意味します。

左手系メタマテリアルは,本来は物理学のテーマです。ただ幸いなことに,CRLH線路(注)という概念を使って回路的に扱うことができます。そのため,電気回路と電磁気学の基礎知識をもつ電気電子情報系の学生なら,誰でもその奥深さに触れることができます。

本研究室ではCRLH線路の独自の設計方法を提案しており、これらのアイデアを通して次世代無線システムに貢献することを目指しています。

注)CRLHComposite Right-/Left-Handed)線路:右手/左手系複合線路

純粋に左手系の電磁波というものは自然界に存在しませんが,CRLH線路を使うことでの性質を引き出すことができます。

次世代の高効率電力増幅器

地球温暖化の対策を妨げる要因の一つが,大電力を消費するITインフラです。携帯電話のアンテナ基地局もその内に含まれ,アンテナ直前の電力増幅器(PA)の電力効率を向上させること求められています。

PAに高効率化が求められるのは,環境対策のためだけではありません。5G以降では小型の基地局が多数使われます。基地局の小型化のためには,PAの高効率化を実現して冷却装置を簡素化する必要があるわけです。

また,PAはスマホから電波を送信するためにも使われます。PAの高効率化はスマホの電池の長持ちにも繋がります。

私たちは、左手系メタマテリアルを実用的な方法で高効率PAにつなげる世界初の技術の開発に成功しています。

参考資料1(大学のGoogleアカウントでログインしてください)

参考資料2(大学のGoogleアカウントでログインしてください)

注)PA:Power Amplifierの略

5G以降では直進性の強い電波が使われるため,小型のアンテナ基地局が多数使われます。PAの電力効率を向上させ送信装置の発熱を極力抑えることが重要になります。

世界最高クラスのドレイン効率86.5%を実現

CRLH線路を使う世界最小の高調波処理回路で,高効率増幅器を実現。飯坂尚章君(当時,院生)が担当。2020年電子情報通信学会のエレクトロニクスソサイエティ学生奨励賞を受賞。

CRLH線路を用いた世界初の連続F級モード増幅器

帯域で高い効率を維持する連続F級モード増幅器。注目される一方で回路サイズの大きさが課題でしたが,CRLH線路を適用することにより,従来より回路面積をひと桁小さくすることに成功しました。辻恵梨さん(現在M2)が担当。

無線電力伝送

電波は,無線通信では「情報」を運びますが,昨今のエネルギーへの関心の高まりを背景に「電力」を運ぶ手段として注目されています。無線電力伝送の代表的な応用例としては、宇宙で太陽光発電したエネルギーを電波で地上に送電する技術が知られています。

また最近は,RFエネルギーハーベスティング*技術により,IoTセンサやウェラブル端末などが環境電波からエネルギーを得ることができるようになると,電池不要で動作するようになると期待されています。

本研究室では,無線電力伝送の様々な応用に対応できる整流回路の研究に取り組んでいます

* Harvestは「収穫する」という意味です。環境電波の微弱でも広い集めると大きな収穫になります。

RFエネルギーハーベスティング整流器

私たちの身の周りにはTV,携帯電話などの電波で溢れていますが,これらの環境電波は信号強度として微弱なため,整流器が応答しにくいことが大きな課題の一つです。

この問題の要因の一つは,ダイオード特性の閾値電圧(Vth)が零でないため,電波の電圧振幅がVthを超えない限りダイオードが動作しないということです。

研究室では,共振コイルを用いることで,受電した電波がダイオードのVthを超えるまで増幅する方法を提案しています。また,FETを用いることでゼロVthの擬似的なダイオードが実現できることもシミュレーションで示しています。

私たちは,これらの原理を応用した各種のRFエネルギーハーベスティング整流器を研究しています

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地デジTVに対応するRFエネルギーハーベスティング整流器

共振現象の狭帯域性と地上デジタルTVの広い帯域という矛盾を克服して,地デジ対応のRFエネルギーハーベスティング整流器を実現しました。4年生(当時)の田中克幸君が基本原理を発見し,大学院生(当時)の大野圭君がその技術を大きく発展させました。


ゼロ閾値電圧ダイオード

FETを使ってゼロ閾値電圧の理想的なダイオード特性を擬似的に実現できることを提案,シミュレーションでその原理を示しましたRFエネルギーハーベスティングへの応用が期待されます。椙江陽人君(当時4年生)が担当。