当初、京都で開催していましたが、より広くご参加いただくためにオンライン化しました。
ベーシックを3回、アドバンスドを3回の2部構成です。講義+事例検討を開催しています。
年間6回のセミナーを基礎的な内容に軸をおいた「ベーシック」、より専門的な内容を盛り込んだ「アドバンスド」という、2つのセミナーに分割した形で開催することとしました。精神分析の初心者の方から、ベテランの方までそれぞれの形でセミナーを活用していただけるようになっています。
【ベーシック】
・第1回 2025/11/16 平井 正三氏 (サポチル/御池心理療法センター)
心理療法の基本概念 心理療法の基礎の基礎に関して
・第2回 2026/1/11 鵜飼 奈津子氏 (大阪経済大学人間科学部・大学院人間科学研究科)
子どもと家族の相談におけるアセスメントと支援 ―基本的な考え方と方法―
・第3回 2026/3/1 小笠原 貴史氏 (小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム)
子どもの心を援助するということ ー子どもと家族の心理臨床の実際ー
【アドバンスド】
第1回 2026/5/17 吉沢 伸一氏 (ファミリーメンタルクリニックまつたに)
トラウマを抱える子どもの臨床実践 ー複雑なケースの理解とアプローチー
第2回 2026/6/14 南澤 淳美氏 (タカラ精神分析オフィス)
発達障害を精神分析的視点から考える
第3回 2026/7/26 橋本 貴裕氏 (帝京大学)
心理療法とエビデンスをめぐる対話 ―臨床の本質を再考するもうひとつの言語―
【ベーシック】
1:心理療法の基本概念 心理療法の基礎の基礎に関して
平井正三氏(サポチル/御池心理療法センター)
本講義では、精神分析的心理療法の基礎の基礎である、設定と観察について話していきます。およそ基礎というものはすべてそうであるように、設定と観察も「こういうものだ」と明確にあるようで、実践面では困難や問題をはらんでいます。つまり、常に新しく考えられ、作られていく側面もあります。こうしたこともあり、本講義では基本的な考えをご紹介しつつ、できるだけ受講生と共にこれら精神分析的心理療法の基礎の基礎について考えていきたいと思います。
参考文献
平井正三『子どもの精神分析的心理療法の経験 タビストック・クリニックの訓練』金剛
出版
平井正三「第1章 総説」平井正三・西村理晃共編著『児童養護施設の子どもへの精神分
析的心理療法』誠信書房
2:子どもと家族の相談におけるアセスメントと支援 ―基本的な考え方と方法―
鵜飼奈津子氏(大阪経済大学人間科学部・大学院人間科学研究科)
子どもが何らかのつまづきを経験したり、いわゆる問題行動を呈したりした際、そこにどう向き合い対応するのかには、家族によって様々なあり方があると思われます。同じく、専門家として、専門機関として相談を受ける際にも、その専門家の専門性や相談機関の特徴により、さまざまな介入の方法があるでしょう。しかし、その子どもと家族の状況について考え、見極めるというアセスメントのプロセスがなくては、どういった支援が必要、かつその時点での最善の選択肢であるのかを判断することはできません。
本講義では、まず、子どもと家族のアセスメントについての基本的な考え方を概観します。ここでいうアセスメントとは、精神分析的な視点から、どのように子どもと家族の現状に即した支援が提供できるのかを模索するプロセスです。そして、その時点での理解をベースに、どういった介入ができそうなのかを検討することです。講義では、いくつかの事例の紹介も含めつつ、参加者の皆さんがそれぞれの臨床現場での具体的なイメージを持っていただけることを目指します。
参考文献
子どもの精神分析的心理療法のアセスメントとコンサルテーション(誠信書房 2021)
子どもの精神分析的心理療法の基本<改訂版>(誠信書房 2017)
3:子どもの心を援助するということ——子どもと家族の心理臨床の実際——
小笠原貴史氏(小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム)
今や、子どもの心理支援に関わる場合、子どもの支援者が親や家族と会って話をするということは避けて通れない。それは子どもの精神分析臨床においても同様であり、子どもの心理療法を続けていくためには、それを支える親や家族の役割がとても重要である。子どものセラピストが子どもの親や家族との協働関係を築くことによって、それが子どもの心を共に抱えていくための治療的環境として作用し得るからである。しかし、臨床の場においては、子どもの心を育む親自身もまた心理的課題や困難を抱えている場合も少なくない。そうした場合、子どもの心を抱え育んでいくために、親もまた自身の心あるいは家族という単位で生じている心的物語に向き合うことが迫られるだろう。つまり、子どもの個人心理療法というよりも、子どもと家族の心理臨床/療法としての実践を考えていく必要があるということである。本セミナーでは、子どもの心を援助するということがどういうことなのか、子どもと家族の心理臨床の実際について考える機会を提供したい。
参考文献
平井先生(2025)「子どもと家族の心理相談——精神分析的アプローチによるアセスメントとコンサルテーション」,臨床心理士子育て支援合同委員会企画『臨床心理士による心のケアと子育て支援』福村出版
小笠原貴史(2025)「同一治療者による父子面接——家族の物語が紡がれ,解かれ,主体を立ち上げていく心的過程」精神分析研究,Vol.69(2),p.15-22.
【アドバンスド】
1:トラウマを抱える子どもの臨床実践ー複雑なケースの理解とアプローチ
吉沢伸一(ファミリーメンタルクリニックまつたに)
近年、発達性トラウマ、複雑性PTSD、発達障害とトラウマの重複など、トラウマをめぐる議論が再び活発になってきている。精神分析は従来多くの知見を蓄積してきたが、発達研究、脳神経科学の知見を援用し、より包括的な理解が今日では目指されている。トラウマといってもその性質や子どもに及ぼしている影響は多様である。トラウマの影響は、解離、離人感、ひきこもり(あるいは自閉傾向)、ADH状態、精神病状態、対人関係を構築する困難さなど様々な問題として、臨床場面にあらわれる。
子どもの場合、トラウマを克服するという観点よりも、それによって損傷を受けている自己基盤を育むことや、対象との関わりにおける安全感や信頼感を構築していく経験を積み重ねることが可能となるかが鍵となる。そのためには、心理療法のみならず、養育者への対応、学校や関連諸機関との連携など、子どもを取り巻く大人たちの協働と、困難な中でも育み見守る環境を維持し続けることが重要となるだろう。本講義では、「複雑なケース」を中心に議論し、それぞれの現場での理解とアプローチを思索する機会となることが目指される。
参考文献
・G.ミュージック著 鵜飼奈津子,藤森旭人監訳「トラウマを抱える子どものこころを育むもの : アタッチメント・神経科学・マインドフルネスとの出会い」
・A.アルヴァレズ著 脇谷順子監訳「子どものこころの生きた理解に向けて : 発達障害・被虐待児との心理療法の3つのレベル」
・ 平井正三・櫻井鼓 編著「精神分析とトラウマークライエントとともに生きる心理療法」
2:発達障害を精神分析的視点から考える
南澤淳美氏(タカラ精神分析オフィス)
発達障害を精神分析の視点から考えることは、これまで様々な分析家により行われてきた。今回の講義ではまずビオン、メルツァー、タスティンから南米の分析家たちが発展させたことをもとに、英国タヴィストッククリニックの成人部門での経験を振り返る。次に米国の「神経多様性、精神分析、神経精神分析」グループで現在学んでいることを紹介したい。前者では一見発達障害に見えない患者の精神分析を進めると人格の自閉部分が明らかになるというプロセスが見られるが、後者は明確な生物学的差異があることを前提に、どのように精神分析的な治療を進めていくか考えるという違いがある。
参考文献
精神分析から見た成人の自閉スペクトラム(福本修・平井正三編著)、精神力動的精神医学第5版(GOギャバ―ド著)第13章、Insights into Safety and Connection in Relationships Provided by Psychoanalytic Trteatment of Autistic Individuals (Harrison AM, 2022)、 Sex on the Spectrum: Sexuality's Potential to Free Up Autistic Subjectivity (Moga DE, 2025)
3:心理療法とエビデンスをめぐる対話 ―臨床の本質を再考するもうひとつの言語―
橋本貴裕氏(帝京大学)
精神療法の現場では、しばしば効果測定が難しいと言われ、エビデンスの限界が語られてきました。しかしその一方で、評価を試みることで、治療者と患者の関係性の質や治療プロセスの核心に新たな光が当たることもあります。本講義では、精神分析的・力動的心理療法を軸に、さまざまな臨床に関する研究成果を俯瞰しながら、エビデンスを「臨床との対話の一つの形」として捉える視点を提案します。たとえば、治療効果の大部分(最大で約70〜80%)は技法ではなく、治療者の特性・治療同盟・期待・共通要因によって説明されるとされており、治療者の在り方が大きな影響を持つことが示唆されています(Wampold, 2015)。エビデンス研究は単なる効果検証にとどまらず、臨床の美しさや複雑さを、科学の言葉で語ろうとする試みでもあります。評価を通して見えてくる「心理療法」とは何か、皆さまと共に考えられれば幸いです。
参考文献
Gurman, A. S. (編), Messer, S. B. (編) (2019) Essential Psychotherapies, Fourth Edition: Theory and Practice. Guilford Press
Wampold, B. E.(2015)The Great Psychotherapy Debate. Routledge
▼参加費
全回受講者 :30,000円
ベーシックのみ:15,000円 アドバンスドのみ:20,000円
単回受講者 :前半 6,000円,後半 8,000円
*当セミナーは日本臨床心理士資格認定協会の「短期型ワークショップ(2ポイント)」として承認されています。今年度から構成が変わり、前半・後半を独立したセミナーとして開講します。ベーシックもしくはアドバンス出席者の方は2回以上出席の方に「研修証明書」をお渡しいたします。
前半のセット受講:2ポイント(オンラインのみ)
後半のセット受講:2ポイント(オンラインのみ)
全回参加:上記両方の交付
・1回のみの受講や、講義パートまたは事例パートのみの参加などで時間数が5時間に満たない場合、研修ポイントの対象となりません。事例検討のみ、ないしは講義パートのみは0.5回分の出席として扱います。