研究内容

研究内容について簡単に紹介します。

研究概要

 タンパク質の構造(の変化)と機能の関係を主にタンパク質化学的な手法で研究しています。細胞内の種々の化学反応の担い手である 酵素タンパク質は、実に巧妙に各々の担当する反応を触媒しています。「生命が長い年月をかけて作ってきた、その仕組みを知りたい。 見てきたように説明をしてみたい。」というあたりを目指して研究をしています。

 主な研究対象であるATP合成酵素は、バクテリアから真核細胞のミトコンドリア、植物の葉緑体まで広く普遍的に存在し、細胞のエネルギー通貨とも呼ばれるATPの好気的な条件下での合成のほとんどを担っている重要な酵素です。もちろん私たちの体の中にもこの酵素はたくさんあり、日々一生懸命働いてATPを作っています。(ヒトは1日に自分の体重と同じくらいの量のATPを作っており、その多くをATP合成酵素が作っています。) ATP合成酵素の活性は、細胞のエネルギー需給の状態に応じて、高度に調節されていると考えられています。真核細胞のミトコンドリア、植物などの葉緑体にあるATP合成酵素は、それぞれ特有な活性調節のしくみを持っていることが知られています。しかし、これらと比較して単純な細菌のATP合成酵素にも活性調節の仕組みが備わっています。

 私たちの研究室では、細菌のATP合成酵素の活性調節を行っていると考えられているεサブユニットの働きを調べる事を主な研究課題としています。 εサブユニットには活性調節だけではなく、他にも色々と面白い役割がある事も分かってきました。


研究テーマ

ATP合成酵素のF1部分の構造

青い部分がεサブユニット

ATP合成酵素のεサブユニットによる活性調節

 細菌のATP合成酵素で活性調節を行っているεサブユニットが、どのように機能することで活性調節を行っているかを明らかにすることを目指しています。とりわけ、好熱菌Bacillus PS3由来のATP合成酵素で私たちが発見した、εサブユニットへのATP結合が、活性調節やその他のεサブユニットの働きとどのような関係があるのかを明らかにしたいと思っています。 これまでに、εサブユニットへのATP結合が、ATP合成酵素をATPase活性型に固定する働きがある事、ATP合成酵素の共役に必要である事などを明らかにしました。枯草菌を用いて、生きた細胞の中で、この活性調節機構がどのように役に立っているのかを調べるような実験も行っています。

関連論文:

Kato, S. et al. (2007) J. Biol. Chem. 282, 37618

Kadoya, F. et al. (2011) Biochem. J. 437, 135

Akanuma, G. et al. (2019) MicrobiologyOpen e815

εサブユニットによる調節とADP阻害の関係

ATP合成酵素のεサブユニットとADP阻害による活性調節

 細菌のATP合成酵素では、εサブユニットによる調節のほか、ADP阻害と言われる調節を受けていると考えられています。この2つの調節の仕組みがどのようにバランスを取りながら、ATP合成酵素の活性を調節しているのかを調べています。細菌の種類、その生育環境などによって、これら2つの調節の仕組みをどのようなバランスで使い分けているのかは、ずいぶんと異なるようです。

関連論文:

Haruyama, T. et al. (2010) BIOPHYSICS 6, 59

Mizumoto, J. et al. (2013) PLoS ONE 8, e73888

εサブユニットへのATP結合に依存して共役状態が変化する

ATP合成酵素の脱共役機構の解明

 ATP合成酵素は、呼吸や光合成によって作られた膜を介した水素イオンの濃度勾配、電位差をエネルギー源とし、水素イオンの流れと共役してATPを合成しています。(ちょうど水力発電のタービンと発電機のような関係です。) しかし、私たちのこれまでの研究から、ATP合成酵素の共役状態がεサブユニットへのATP結合の状態によって変化する事がわかりました。つまり、ある条件下ではカラ回りをしてしまうことになります。このような反応は細胞にとってエネルギーの損失になる有害なものであると考えられますが、その分子機構を調べるとともに、細胞にとって何かいい事があるのではないかと考え、生理的な役割についても調べています。

関連論文:

Kadoya, F. et al. (2011) Biochem. J. 437, 135

などなど

 他にも色々やっていますが、基本的にはタンパク質を取ってきてそれをゴリゴリ調べるというやり方を採ることが多いです。