令和7年11月18日、公益財団法人不動産流通推進センター 副理事長 田尻 直人様に当協会からの提言を手渡しました。また、業界各紙に発表いたしました。
令和7年度 提言
令和7年11月
一般社団法人 不動産流通プロフェッショナル協会
はじめに
私ども一般社団法人不動産流通プロフェッショナル協会は、不動産流通業界が社会から真に尊敬される業界となることを目指し、消費者・クライアントの立場にたって誠実に行動する「ppp精神」(添付「ppp講座テキスト」参照 脚注1))の普及を使命として活動している。本提言は、当協会の最大の取組みとして、不動産流通業界に対し、今後の発展と社会的信頼の向上の一助としていただくことを目的にまとめたものである。
(1) 業界を挙げての協働化
*業界共同での業務プロセスの標準化や契約書等の営業ツール開発およびDX化におけるシステムの共同開発や共同利用、また消費者向けPRや事業者・消費者啓蒙用のAIチャットボットの活用など、実務面での協働を進める必要があると考える。
(2) 時代の先を行く優秀な人材の育成
*(1)のような協働を進めるうえで、重要となるのが人材の質である。金融業界やデジタルAI業界からの優秀な人材の流入を待つだけではなく、不動産流通業界自らが優秀な人材を育成する仕組みを構築する必要があると考える。
大手・中堅や先進的な中小企業が出資する自由度の高い教育プログラムを設け、個々の圧倒的な専門力を磨くとともに、他業種や現場の体験等により広い視野や倫理観等の人間力を身につけ、新たな価値を創造できるプロフェッショナルな人材を育成することが必要と考える。
(3) 優秀な学生が、「不動産流通業界」を選ぶための環境作り
*給与面等、待遇の改善も必要だが、不動産流通業が他の業種と比較して優位に立てるのは、自らの力によって、直接、目の前のお客様、クライアントの喜ぶ顔を見ることができ、満足を感じてもらう仕事であるということ。さらに、取り扱う物件は個別性が高く、奥深い面白さがあることが挙げられる。
当協会はppp精神の普及のため努力していくが、業界も一致してppp精神を浸透させるべきと考える。前項の、他業界から優秀な人材がやりがいをもってこの業界に入ってきてくれるかについても、この点が鍵になると思われる。
(4) 20代の若者を「行動規範を守れる人材」に
*(3)の延長線で、社内教育についても考慮願いたい。
その会社独自のルールや手法に慣れさせることを優先し、行動規範を守る姿勢が疎かになると、短期的には合理的であるかもしれないが、中堅社員となって以降、その会社でしか通用しない人材となりがちである。長期的に通用するのは、ppp精神を理解した人材=顧客が付き信頼される人材である。そのような人材が豊富な企業を目指すべきではないか。不動産流通業界がリスペクトされない大きな要因として、長期的視点を持てない組織の壁(注)があると思われる。
(注)個人では理解していても、組織の同調圧力や短期目標が優先され、顧客本位ではなく組織本位となってしまう現象。
(5) 「営業実務基準」の作成を
*ppp精神の中心に位置する「行動宣言―行動規範」を具体的な行動に落とし込んだ「営業実務基準」(添付「ppp講座テキスト」P.5~P.7参照 脚注2))をより実務に合う形でまとめ、普及させることが浸透の道筋と思える。当協会としても、業界とともにその策定を進めることを提案する。
(6) 消費者・クライアントへの誠実な対応
*第一歩として、不透明さを是正していくことが必要である。例えば、賃貸・賃貸管理業界では、仲介手数料や管理手数料のダンピング競争が一部で見られるが、それを補完するためか、根拠のあいまいな諸手数料等の請求が横行している。
業界自らがルールを定め、透明性の向上に取り組む必要がある。
(7) あらゆる数値や公共データの標準化・オープン化
*小は、プレイヤーの実績を正しく消費者に把握してもらうために仲介取引件数のカウント方法(注)を統一することから、大は、適正な不動産価格を導き出すための取引価格(購入価額、売却価額)を明示、データ化することまで、業界の健全化と安心・安全な不動産取引のために、ルール化をしていく必要があるのではないか。
(注)不動産会社のブランドだけでなく、営業エージェント制の広まりから、営業マン個人の実績をPRする傾向が一部でみられる。その指標としてサイトやパンフレット等に取扱件数を明示する場合、両手仲介、片手仲介、配分等のカウントを自主ルールとして統一する必要がある。
上記の課題を解決していくためにも、また、不動産流通業界がより信頼される業界となるためにも、次の2点が最重要点と考える。
1.全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会をはじめとする全業界団体が一致しての協働体制を目指す。
2.賃貸仲介業務に関して、また売買仲介業務と自ら売主となる販売業務について、あるいはデジタル化への対応など、宅地建物取業法自体が現状に合っていない部分があるので、消費者本位の規定として組み替える必要がある。
あわせて、信頼される業界を目指す実務のリーダーとしての公認不動産コンサルティングマスターと宅建マイスターについても言及したい。
(1) 公認不動産コンサルティングマスター
*コンサルティング報酬に関しては、可能な限り明示できるようにして、クライアントにとっても、公認不動産コンサルティングマスターにとってもスムーズな委託・受託環境とする必要がある。そのためには、複雑なコンサルティング業務だからこそ、仲介業務との関係の整理や、兼業に関する明確な基準を設け、資格、制度を活性化するとともに、公正かつ円滑に業務が行える取引環境を整備していただきたい。
(2) 宅建マイスター
*宅地建物取引業務の深掘り、リスクの対応力を極めるためのスキルアップの態勢を強化し、地方自治体等から「優れた宅建士」と認知されることで、地域での活躍の場を広げる方向に進められないか、また、地方の業界団体等と連携した勉強会、相談会等を開催していけないか、不動産流通推進センターや国土交通省によるサポートを期待したい。
以上
ppp講座とは
ppp講座とは、プロフェッショナル・プレイヤー・フィロソフィー講座の略で、不動産流通業界をけん引するプレイヤー、事業者がコンプライアンスを極めることにより、社会やクライアントの信頼を得て、もって業界の地位を向上させていくという趣旨で創設した講座です。
ここでいうコンプライアンスとは、単に、法令遵守ではなく、職業倫理、クライアントファーストの精神のことを言います。
業界をけん引していく人たちに求められるコンプライアンスとは、「やってはいけないこと」「やるべきこと」を超え、「何が業界に求められているか」「そのためにどういう姿勢と志を持つべきか」というステージです。
道徳や姿勢、哲学に至るということで、フィロソフィー講座と名付けましたが、「フィロソフィー」については、さらに進化を続けます。
不動産という有限な資産の取引を行うのが仕事と考えますと、チャンスや取引の奪い合い、相手をだましてでも自分の稼ぎにつなげる、といったその場だけの低次元な話になってしまいます。しかし、狩猟型の営業より、信頼がリピートや紹介を呼ぶファーミング型のほうが、結局効率的であるし、仕事のやりがいにもつながります。取引の相手・クライアント・一般消費者との信頼関係から生まれる新たな価値が不動産ビジネスを信頼のサークルに導きます。と考えれば、今、目の前にある不動産取引は、無限の可能性に向けた第一歩となるでしょう。このような考え方を追求していくレベルまで「フィロソフィー」をもっていき、それを体現していくプレイヤーが真の「プロフェッショナル」であると考えます。
(「ppp講座テキスト」より)
行動規範
前文 私たち公認不動産コンサルティングマスター(宅建マイスター)は国民の重要な財産である不動産の取引を、依頼者にとって安全かつ最善最適な取引となるよう専門家としての知識・倫理に基づき全力を尽くすことを使命とします。
1.私たちは、依頼者利益のために全力を尽くし、依頼者の不利益となる行動はいたしません。
2.私たちは、真実のみを依頼者に伝え、情報の誇張や不正確な伝達、リスクや不利益情報の隠蔽、推測で業務を進めることはいたしません。
3.私たちは、利益相反に関し適切な管理を行い、依頼者に報告いたします。
4.私たちは、業務で知った依頼者にとって重要な情報は、過不足なく速やかに依頼者に報告いたします。
5.私たちは、依頼者の意思決定に必要な情報に関して依頼者が十分納得するように説明を尽くします。
6.私たちは、宅地建物取引業法をはじめとする関係法令や業界諸規則を遵守し、コンプライアンスを体現し続けることを誓約します。
(行動宣言・行動規範は、各団体等の規範を参考に竹井英久氏が草案を作られ、当協会にて策定、提言として発表しています。)
様々な団体や資格で設けられている倫理規程と重なる点があると思いますが、性格として倫理規程は内部に、行動規範は対外的にアピールするものです。
この行動規範を実効性の高いものとするために営業実務基準を策定する必要があります。これは、より具体的なものとして業界全体で策定し、浸透させるものであり、次に挙げる点を具体的に示したものとしていくこととなります。
*依頼者利益の優先、自由意思の尊重
*利害関係人取引の説明義務、周辺業者からの金銭授受の禁止
*査定価格と取引価格の妥当性説明の書面化
*両手取引は、売り買い別の宅地建物取引士で実施し、顧客了解が前提
*買取規制(仲介業者の自らの取引の禁止)※、不当な競争行為の禁止
*正確な仲介実績の公表
*売買仲介においては宅地建物取引士のみ営業可能(アシスタントは利用可)
*その他営業実務において消費者志向で見直し、宣言すべきもの
※ 「私のために仕事をしてくれている仲介業者」が「親切に私のためを思って買い取ってくれる」と思わせる行為は、慎みましょう、ということです。
仲介業務では、報酬をいただく相手のために全力で仕事をしますが、買取業務は、買い取る業者のために仕事をします。業者が損をしないように、もっと言えば仲介手数料の何倍もの利益になるように仕事をするのが当然ですから、それまで築いた信頼をもとに、売主に錯覚させるような行為はフェアでありません。
もちろん、買い換えや早期に秘密裡に処分したい等の売主の希望で買い取るケースもあると思いますが、その場合でも、仲介業者自身またはグループ、傘下の会社での買取りは避け、複数の業者が参加する入札によって決定するのが望ましいと思われます。
不動産流通業界は安全でフェアである、という認識が世の中に根付くためにも、ぜひ、ルールにしましょう。
(「ppp講座テキスト」より)