セラミックス系バイオマテリアルの開発
近年、日本における65 歳以上の人口の割合は、欧州諸国や米国にくらべて高く、急速に少子高齢化が進行しています。また、高齢化社会の到来にともない加齢による骨密度の低下から骨折や骨粗鬆症を発症する患者が増加しています。このようなことから、骨欠損部の補填や修復に使用される硬組織用代替材料の重要性が高まっています。
ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)に代表されるリン酸カルシウムは、骨などの硬組織用代替材料としてよく知られています。とくに、生体アパタイト以上に溶解性の高い材料として知られているβ型リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2;β-TCP)は、生体吸収性をもつバイオセラミックスとして注目されています。しかし、人工骨として応用する場合には、その溶解性の高さと低い機械的強度が問題となり、自家骨が形成する前に溶解が進行し、内部骨折などを引き起こしてしまいます。そのため、溶解性などの材料自身の物性を制御することが重要となります。
我々はセラミックスの結晶構造と物性との関係を明らかにするために、β-TCPの結晶構造に着目しました。β-TCPは空間群R3cの菱面体晶系の構造をしており、その単位格子内にはAカラムとBカラムの2つのカラムで構成されています。これらのカラムに存在するカルシウムイオンのサイトは、様々な金属イオンを固溶させることができ、固溶した金属イオンの種類によってβ-TCPの機械的強度や溶解性などの物性をコントロールすることできます。得られたβ-TCPは、緻密体や多孔体に成形して焼結し、その材料物性を詳細に検討しています。また、物理学的および化学的な材料の物性だけでなく、生物学的な安全性や生体適合性についても評価しています。これは、骨リモデリングに関与する破骨細胞および骨芽細胞を用いて細胞評価を行い、得られたβ-TCPの骨細胞に与える影響についてもin vitro研究を進めています。
このほかに、結晶配向性のハイドロキシアパタイトの合成、各種の手法を用いたβ-TCPの多孔体の調製、新しい生体骨セメントの開発などの研究も行っています。