グリーンランド氷床や南極氷床には、過去の降り積もった雪が地層のように堆積しています。氷床には、周辺の大陸や海域から様々な物質がエアロゾルとして輸送されます。また、降雪そのものは、上空の温度や水蒸気起源の温度を記録しています。さらに、雪結晶同士の隙間(空隙)が閉じる際に、周囲の空気を気泡に閉じ込めます。そのため、氷床には、周辺大陸・海域の環境情報、温度、大気組成といった過去の情報が記録さています。そのため、氷床を鉛直方向に掘削して得られる「アイスコア」を分析することで、過去の地球の気候変動の歴史を紐解くことができます。
現在もっとも古くまで連続的に遡ることが可能なのは、南極で欧州グループが掘削したEPICA Dome Cコアで、過去80万年の記録を保持しています。日本は1990年大半ばと2000年代半ばにドームふじ基地で2本の深層コアを掘削し、第1期ドームふじコアは2503mで過去34万年、第2期ドームふじコアは3035mで過去72万年の記録を保持しています。そして現在、第3期ドームふじ深層掘削計画が進行中で、100万年以上遡ることが可能なコアの取得を目指しています。
私たちのグループでは、アイスコア中に保存された空気成分に特に着目し、さまざまな研究を展開しています。
DF1, DF2の融解法による500年間隔の気体分析と年代構築(川村基盤A)
CFAを用いたCH4濃度の高解像度分析(学変)
最終氷期の涵養量復元(論文査読中)
最終間氷期の気温復元(大藪基盤B、オレゴン州立大と共同、論文化を進める)
完新世におけるメタン濃度の南北勾配(大藪基盤B終了、論文化を進める)
Termination 4の100年解像度復元(大藪創発)
過去数百年のCH4濃度復元(SE DomeII, EGRIP浅層, NEEM浅層, D1鈴木)
最終氷期最盛期のドームふじの氷厚復元(JAMSTEC, 東大と共同、学変)
Arハイドレートの同位体比(北見工大、北大と共同)
CO2分析手法の開発(大藪創発)
希ガス分析手法の開発
フィルンエア・・・(H128, NDFN, EGRIP)(データ取得済み)
南極 南やまとコアの研究(東北大学M1 荻原)
JARE65浅層コアの空隙率とO2/N2(井上)
これまでのアイスコアや海底堆積物の研究から、過去80万年間は約10万年周期の氷期ー間氷期サイクルが卓越し、北半球氷床量、南極の気温、大気中CO2濃度が調和して大変動していたことが知られています。一方で、卓越周期の4万年から10万年への移行の実態や機構については、様々な仮説が提案されていますが、データの欠如により未だ解明が進んでいません。仮説の検証やモデリングには、南極大気や南大洋の温度、涵養量、大気中温室効果気体濃度、南北半球間の気候変動の位相差といった、アイスコアからしか得られない情報が必要です。そのため、SCARや国際北極科学委員会(IASC)等が支援するアイスコア研究の国際組織であるIPICS(International Partnership in Ice Core Sciences)は、南極域で複数の100万年を超えるアイスコアを採取することを目指して「Oldest Ice」計画を立ち上げ、この国際協力の枠組みの下で各国が掘削候補地の調査を行ってきました。日本は、第Ⅸ期計画で、ドームふじ周辺での最古級のアイスコア採取に向けた氷床の大規模な高精度レーダー探査や雪氷調査を展開して最適な掘削地点の絞り込みを行ってきており、第Ⅹ期計画では、この結果に基づいて、100万年を超える最古級のアイスコア掘削に挑みます。
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NEWS!最新情報
2023/2024シーズン、第65次南極地域観測隊でパイロット孔掘削とケーシングを終え、いよいよ深層コア掘削の準備が整いました。掘削した126mの浅層コアは極地研に輸送され、氷化深度以深については電気伝導度や物理パラメータの初期分析を行い、水平バンドソーによる水平切断を実施済みです。(2024.08)
温暖化によって南極氷床が局所的に臨界点を超えて不安定化し、従来の想定以上の速さで海面上昇を引き起こすことが懸念されている。逆に、温暖化によりグローバルな空間規模で湿潤化した大気は氷床上の降雪量の増加をもたらし、氷床縮小を抑制する働きも有する。氷床と大気が変動する時間スケールは異なるが、この異なる空間・時間スケールの現象が相互作用する複雑さが将来予測の精度向上を妨げている。本領域研究では、革新的な観測・試料分析とシミュレーションの融合により、南極氷床とグローバルな気候システムとの相互作用を数万年以上の過去から近未来におよぶ時間軸で統合的に研究し、気候・環境科学の新展開と社会への貢献を目指す。
南極氷床と南大洋を中心とする南極環境をシステムとして研究する「南極環境システム学」が創成された。特に、南極氷床末端への暖水流入と棚氷融解過程解明、無人観測技術の開発、底層水の物理・化学・物質循環解明、海氷と生態系・物質輸送の関係解明、氷河の流動速度と海洋環境の関係解明、氷床質量変化と固体地球変形の制約、高精度な古環境復元や年代の高精度化、過去の氷床縮小の原因解明、将来1000年間の南極氷床の予測とティッピング・ポイントの提案などの連携成果を得た。多岐にわたる若手人材育成を行ったことにより、次世代の融合・連携研究を担える有力な若手研究者が多数育った。
科学研究費助成事業:学術変革領域研究(A)(領域代表者:青木茂)
課題名:グローバル南極学 ー大変化する氷床と地球環境の連鎖をつなぐー
計画班代表:川村賢二(分担者:堀内・植村・平林・大藪・中澤)
課題名:アイスコア解析による南極・グローバル相互作用の解明
研究期間:2024 - 2028年度
研究経費:172,250千円 (直接経費: 132,500千円、間接経費: 39,750千円)
南極ドームふじアイスコアを分析し、過去数十万年間の気候・氷床変動の強制力や応答(南極・南大洋の温度や積雪、氷床高度、エアロゾル関連物質、温室効果ガスなど)を復元する。中低緯度や北半球を含む世界の古環境データとの年代対比を通じ、南極とグローバル気候システムとの相互作用の理解に迫る。また、南極沿岸アイスコアによる近年の積雪・エアロゾル・微生物の解析から、直接観測とリンクする復元も行う。領域内の観測研究や過去の地質学的研究、モデリング研究と連携して新学理「グローバル南極学」の創成に貢献する。
科学研究費助成事業:基盤研究(A)(研究代表者:川村賢二, 分担者:大藪幾美)
課題名:南極ドームふじ氷床コアの精密年代決定で解く氷期サイクルの根本要因
研究期間:2024 - 2027年度
研究経費:47,580千円 (直接経費: 36,600千円、間接経費: 10,980千円)
これまでの研究において、南極ドームふじ氷床コアのO2/N2データを元に34万年間の高精度なコア年代を確立し、氷期サイクルの原因を南極気候変動のタイミングから論じた。その後開発した分析手法によりO2/N2データの質を高め、日射変動との同期性を実証した。本研究では第2期ドームふじコアのO2/N2を高分解能で分析し、72万年間全体にわたるコア年代を高精度化する。気候や大気組成の変動を解析し、決着が付いていない10万年周期の氷期サイクルの原因解明に取り組む。特に退氷期のタイミングに着目し、自転軸の歳差(約2万年周期)と傾斜角(約4万年周期)のどちらが根本的に重要かという問題に決着を付けたい。
科学研究費助成事業:基盤研究(B)(研究代表者:大藪幾美, 分担者:川村賢二)
課題名:最終間氷期の南極は本当に現在より6度も暖かったのか?氷床コアデータの逆解析で解く
研究期間:2024 - 2026年度
研究経費:18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
約13万年前の最終間氷期は現在よりも全球的に温暖であり、南極の気温も高かったと考えられている。将来の南極氷床の縮小が人類の懸念となる中、氷床変動の強制力となる気候の振る舞いを理解し数値モデルで再現・予測するために、南極大陸上の過去の気温を正確に復元することが重要である。本研究では、氷床最上部の通気性のある層(フィルン)の厚さと氷床コアの年代が温度と積雪量に支配されることを利用した新たな方法により、南極氷床コアの水や気体の多種成分を従来にない高解像度で取得し、フィルンの圧密モデルにより逆解析することで、最終間氷期の南極気温の正確な復元に取り組む。
科学研究費助成事業:基盤研究(A)(研究代表者:堀内一穂, 分担者:宮原・三宅・川村・大藪・山崎・小田・笹)
課題名:マルチスケール宇宙線生成核種分析より紐解く地質時代の宇宙・地球現象と環境変動
研究期間:2023 - 2026年度
研究経費:47,060千円 (直接経費: 36,200千円、間接経費: 10,860千円)
太陽地磁気変動や宇宙線イベントなどに由来する宇宙・地球現象は、地球惑星科学の主要な研究対象の一つであり、近年では災害科学の観点からも注目されている。しかし、地質時代のそれを知る手段は相当に限られる。本研究では、宇宙線と大気との相互作用により生成する宇宙線生成核種を様々な時空間スケールで戦略的に分析することで、過去400万年間の宇宙・地球現象を、連続的もしくは注目する区間で集中的に解明する。またその応用として、アイスコア・堆積物・年輪などの古環境アーカイブから獲得される宇宙線生成核種記録の層序学的利用を推進させるとともに、環境トレーサー・プロキシとしての宇宙線生成核種の利用も開拓する。
国立研究開発法人 科学技術振興機構:創発的研究支援事業(研究代表者:大藪幾美)
課題名:南極氷床コアの気体分析から100年スケールで読み解く氷期-間氷期の全球気候変動
研究期間:2022 - 2028年度
研究経費:直接経費:48,000千円
気候変動メカニズムの解明は人類共通の目標です。本研究では、過去最大級の自然変動である氷期-間氷期サイクルと急激な気候変動との関連解明を目指します。そのために、分析手法を開発・高度化し、南極の氷床コアから、全球スケールの気候変動を反映するCO2やメタンなどのデータを超高時間分解能で取得します。過去100万年の南北両半球の環境変動を100年スケールで復元し、複雑系である気候システムの解明に挑みます。
科学研究費助成事業:基盤研究(A)(研究代表者:川村賢二, 分担者:大藪幾美)
課題名:南極氷床コアの連続メタン濃度解析に基づく過去の全球気候不安定性の解明
研究期間:2020 − 2023年度(2024年度繰越)
研究経費:45,760千円 (直接経費: 35,200千円、間接経費: 10,560千円)
これまでの南極ドームふじ氷床コアの分析結果から、気候の不安定性を南極と南半球中緯度の気候変動から論じた。一方、氷床コアの連続融解法によるメタン濃度分析手法を確立した。これらの成果を発展させ、ドームふじコアのメタン濃度を高精度かつ連続的に分析することで、未解明であった最終氷期より前の時代における北半球の気候変動シグナルを、南極氷床コアに見出す。これと北半球の海底堆積物コアや石筍などの解析データとの年代を統合し、ドームふじコアの気温の指標とも合わせて解析することを通じて、南北シーソーを伴う北半球の急激な気候変動の程度や頻度、地理的広がり、および平均気候状態との関係を解明する。
科学研究費助成事業:基盤研究(B)(研究代表者:大藪幾美)
課題名:両極の氷床コアと全球気候植生モデルによる過去1万年のメタン濃度の変動要因の解明
研究期間:2020 - 2023年度
研究経費:17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
科学研究費助成事業:新学術領域(研究領域提案型)(領域代表:川村賢二)
課題名:熱-水-物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床
研究期間:2017 - 2022年度
科学研究費助成事業:新学術領域(研究領域提案型)(計画班代表:川村賢二)
課題名:南極氷床と気候の変動及び相互作用
研究期間:2017 - 2022年度
研究経費:168,610千円 (直接経費: 129,700千円、間接経費: 38,910千円)
科学研究費助成事業:若手研究(B)(研究代表者:大藪幾美)
課題名:南極氷床コアの大気組成分析による間氷期から氷期への寒冷化メカニズムの解明
研究期間:2017 - 2019年度
研究経費:4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
科学研究費助成事業:日本学術振興会特別研究員奨励費(研究代表者:大藪幾美)
課題名:南極ドームふじ氷床コアを用いた気候変遷期の二酸化炭素濃度と全球平均海水温の復元
研究期間:2017 - 2019年度
研究経費:4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
科学研究費助成事業: 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)(研究代表者:川村賢二)
課題名:南極氷床コア高解像度大気組成分析に基づく退氷期における気候・海洋・氷床変動の解明(国際共同研究強化)
研究期間:2016 − 2019年度
研究経費:14,170千円 (直接経費: 10,900千円、間接経費: 3,270千円)
科学研究費助成事業:基盤研究(A)(研究代表者:川村賢二)
課題名:南極氷床コア高解像度大気組成分析に基づく退氷期における気候・海洋・氷床変動の解明
研究期間:2014 − 2016年度
研究経費:40,950千円 (直接経費: 31,500千円、間接経費: 9,450千円)
科学研究費助成事業:若手研究(S)(研究代表者:川村賢二)
課題名:南極氷床コア分析と気候モデリングに基づく氷期・間氷期の気候変動メカニズムの解明
研究期間:2009 - 2014年度
研究経費:107,900千円 (直接経費: 83,000千円、間接経費: 24,900千円)
科学研究費助成事業:若手研究(B)(研究代表者:川村賢二)
課題名:ドームふじ深層氷床コア分析によるフィルン内部の対流混合の解明とガス年代の高精度化
研究期間:2006 - 2007年度
研究経費:3,200千円 (直接経費: 3,200千円)
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