講演者紹介

Cryopreservation Conference 2021 でご講演いただく皆様を紹介いたします。

大沼 学(Manabu Onuma

国立研究開発法人 国立環境研究所 生物多様性領域(生態リスク評価・対策研究室)

研究者紹介ページ

国立環境研究所における絶滅危惧種の培養細胞や生殖細胞の保存が開始されてから20年になろうとしています。開始当初は、絶滅危惧種の細胞で実施するのは夢のまた夢ではないかと思っていた内容の研究成果が、これまでに国内外から報告されています。これらの研究成果の中には、長期間凍結保存されていた絶滅危惧種の培養細胞や生殖細胞を活用したものも含まれています。また、ゲノム解析解析技術も大きく進展し、比較的低コストで参照配列のない絶滅危惧種のゲノム配列を研究に活用できるレベルまで決定できるようになりました。このゲノム解析に必要な高分子DNAは適切に凍結保存された組織や培養細胞から容易に抽出することができます。我々の活動は“ただ保存しておくだけ”と見られがちですが、“生きている状態で保存されている”ことの重要性を今後広く知っていただきたいと思っています。

伊豆津 健一(Ken-ichi Izutsu)

国立医薬品食品衛生研究所 薬品部

タンパク質は一般に化学変化や構造変化を起こしやすいため、抗体などを医薬品とする際は、分子の構造設計とともに添加剤活用や凍結乾燥など保存環境の最適化による安定化が行われる。凍結乾燥はタンパク質の分子運動とそれによる化学変化を抑制する一方で、低温や乾燥によるストレスは不可逆的な高次構造変化の要因となる。当研究室では凍結乾燥医薬品の合理的な「製剤設計」を目的に、水溶液の凍結と乾燥段階で起こるタンパク質の構造変化と添加剤物性の関係を検討してきた。凍結乾燥工程の第一段階となる凍結では溶質が氷晶間に高度に濃縮される。この濃縮相でみられる溶質の結晶化や相分離などの現象と安定化作用の関係について、細胞や組織の保存と比べながら紹介する。

津田 栄Sakae Tsuda

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門

研究室リンク

研究室リンク(英語版)

私達は、独自探索により見出した複数の日本産動植物由来の不凍タンパク質(Antifreeze Protein, AFP)について、アミノ酸・遺伝子組成の解析、生化学・物理化学的性質の解明、構造機能相関解析、および大量生産技術の開発を進めてきました。近年では、オオクワガタ等の昆虫がAFPを含んでいること、その幼虫が凍結環境下で生き延びることを明らかにしています。そうした生物のサバイバル・メカニズムを解明し、将来のコールド・スリープ技術の開発に結びつけて行くことが、今後の研究課題です。講演では、水が凍結する様子やAFPによって氷結晶の成長が止まる様子を動画で示しながら、AFPと氷の関係について考えたいと思います。

田中 大介Daisuke Tanaka)

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 基盤技術研究本部 遺伝資源研究センター

Researchmap

現代の生命科学研究の質は、生物遺伝資源や解析に用いる検体の質で決まるといえる。生命科学分野において生物遺伝資源を長期安定的に維持できる超低温保存技術は、欠かすことのできない基盤技術となりつつある。生物遺伝資源・バイオリソースは代々受け継がれてきたものばかりではなく、ゲノム編集技術により急速に増え続けている。それらのバックアップ保存に対応するには、効率的な保存技術が必要である。技術開発には、ガラス化や凍結のメカニズムの知識と保存対象となる生物遺伝資源の生理・生態に関する知識、さらに、材料化学の観点が必要である。多種多様な生物資源の長期保存を可能にする新規保存技術ならびに凍結保護剤の開発が急務である。本発表では、超低温保存を成功させる基礎知識から最近の保存法や施設について紹介する。