昨今の観測技術の進歩により、初期宇宙にさまざまな銀河の集団が見つかっています。これらは現在の宇宙に見られる巨大な銀河団の若い時代のすがたと考えられ、「原始銀河団」と呼ばれています。現在の宇宙では銀河団に存在する銀河の多くが楕円銀河であることが知られていますが、100億年前の時代には銀河はどのようなすがたをしていたでしょうか?いつ・どのように銀河は現在のすがたを獲得したのでしょうか?銀河団の銀河の進化は一般の銀河の進化とどのように異なるのでしょうか?初期宇宙にある原始銀河団の銀河を狙い、ジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、ALMA望遠鏡、すばる望遠鏡の補償光学などを用いた高解像度観測を行なって、生まれたばかりの銀河団内部における銀河の進化過程に迫ります。
そもそも「銀河団」はいつの時代から存在していたのでしょうか?最近の研究では、100億年以上過去の宇宙にも銀河集団はたくさん見つかっています。しかし、それらはすべてのタイプの銀河団を網羅しているでしょうか?銀河団はどこにでもあるものではなく、宇宙を広大に探索することで初めて見えてくるものです。すばる望遠鏡のHyper Suprime-Cam(HSC)やPrime Focus Spectrograph(PFS)、Euclid宇宙望遠鏡、Roman宇宙望遠鏡、さらにはすばる望遠鏡の次世代補償光学ULTIMATE-Subaruなどの広視野探査に適した観測機器を用いて、巨大な天域から、私たちがまだ見たことのない銀河集団を探し出します。そのなかには、我々がまだ目にしたことのない最遠方の銀河団や、最大級の銀河団が眠っているかもしれません。
銀河は色や形が多種多様ですが、大きく分けると「星形成活動がさかんな銀河」と「星形成活動をしていない銀河」の2タイプに分けられます。では「星形成活動をしていない銀河」は、なぜ星を作らなくなったのでしょうか?すべての銀河に星を作った時代があるはずです。しかし、銀河は永久に星を作り続けることはできないのです。近傍宇宙の銀河は見かけのサイズも大きく、その内部を詳細に調べることができます。私たちは、星形成活動が止まりつつある銀河に狙いを定め、近傍宇宙にある進化途上の銀河を多波長で観測することで、その素性を明らかにしていきます。
今世紀に入ってから、スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)に代表されるような巨大な銀河サーベイが行われるようになりました。またGALEX(紫外線)やWISE(赤外線)、我が国の赤外線天文衛星「あかり」のように全天をカバーする多波長の観測データベースも構築され、世界中に公開されています。その巨大なデータベースを活用することで、銀河宇宙に存在する普遍的な法則を見つけることができるかもしれません。遠方銀河の観測結果を解釈するうえでも、近傍銀河の多波長データベースは大いに役立ちます。
すばる望遠鏡では、次世代広視野補償光学システム「ULTIMATE」の開発が進んでいます。私たちは、その科学検討グループのリーダーとして、銀河・銀河団の研究にとどまらず、さまざまな分野の研究者の皆さんと対話をしながら「プロジェクトを作っていく」役割を担っています。また、日本学術振興会の研究拠点形成事業(通称SUPER-IRNET)を通して、若手研究者の海外派遣を進めています。