これまでにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用し、超小型の触覚センサを開発してきた。下図にその動作原理を示す。この触覚センサはSi基板の上に極小マイクロカンチレバーを複数個作製し、さらに全体を弾性体(エラストマ)で覆う構造である。この弾性体の上部に外力を与えると、弾性体が変形し、同時にカンチレバーの傾斜角度も変わる。電気的にこの傾斜角を計測し、適切な演算を施すことで、弾性体上部に作用する外力を3軸(圧力+剪断力2軸)として計測できる。現在の試作センサは直径1mm、高さ1mmで実現している。
2025年 第8回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会 開催情報 (立命館大学 東京キャンパス)
2024年 第7回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会 開催情報 (立命館大学)
2023年 第6回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会 開催情報 (立命館大学 東京キャンパス)
2022年 第5回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会 (新潟大学)
2021年 第4回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会 (オンライン)
2020年 第3回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会(COVIDのためキャンセル)
2018年 第2回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会(立命館大学 東京キャンパス)
2017年 第1回 力触覚技術応用コンソーシアム研究会(立命館大学)
計測結果
MEMS触覚センサにはカンチレバー構造を三つ配置することで、センサの突起部先端にかかる外力を計測できる。下図に実際のサンプルでの計測結果を示す。各センサの出力をei (i=1〜3)として、あらかじめ各センサに作製する構成マトリックスMと掛け合わせることで、センサに対して垂直な圧力とセンサに沿う方向の2軸の剪断力としてFk (k=x,y,z)を得る。下図に示すように、それぞれの軸方向に作用させたが威力を正確に分離して計測できることが分かる。下図では圧力で80gf程度の外力を示しているが、500gf程度までは線形性を保つ。また、PDMSが外力を変形に変換するトランスデューサであるが、現状のPDMSの硬度は人間の皮膚と同程度の硬度で設計している。この硬度を変化させることでMEMS部分の構造を変更することなくダイナミックレンジを変化させることが可能である。
この試作センサの感度は極めて高い。日本の紙幣には偽造防止のためにインクで印刷された高さ30μm,幅500μmのスリット状の構造が設けられている。その表面をヒトがなぞると紙幣の真贋を見破ることができるが、同様にMEMS触覚センサでスリット部分をスキャンすると、そのまま検出できる。従って、高い強度と感度を両立させたセンサである。
さらに、このセンサを産業用ロボットに応用する上で有効な機能として、光学近接計測機能も有している。生産ラインにおいてロボットが物体を掴むためには、あらかじめカメラなどで環境を計測し、対象物体近傍にロボットハンドを移動させたのち、指を物体表面に接触させる。その際に接触直前の近接情報は安定した把持のために極めて重要である。本センサでは制御が容易な光を利用した方法を採用し、距離検出の手法を検討した。
光検出の原理について述べる。MEMSセンサ基板のSi でバイス層には、金属半導体間の仕事関数差により空乏層が存在すると考えられる。触覚検知のように端子B 間の直流抵抗を測定する場合には、Si3N4 薄膜は絶縁膜として振る舞うため,NiCr ひずみゲージ抵抗の変化のみを検出する。一方、端子間に交流信号を印加した場合、Si3N4 薄膜はキャパタとして振る舞うため、Si 基板の物性値変化の影響を容易に受ける。端子間の等価回路は、ひずみゲージ抵抗と基板の並列回路で概ね近似でき、光照射によって半導体 Si 層に生成したキャリアにより、Si 層の抵抗 RSi および空乏層容量 CD が変化する。つまり、センサへの入射光量を端子間の交流インピーダンス変化として検出することができるため、端子間で計測する信号の交流/直流を切り替えるという単純な方法で近接覚と触覚の2つの情報が検出可能となる。従って、下図 に示すように触覚センサの傍に投光用のチップLED を配置し、物体表面で反射してセンサに入射する光の強度が物体センサ間の距離により変化することを利用し、交流計測モードで接触までの距離を検出できる。同時に同じ回路を直流モードで計測することで接触後の外力を計測可能である。現実的には同一センサに切り替え回路を設けるよりも、センサのパターンとして触覚センサと距離計測センサを独立に設けるが、それぞれに個別のプロセスを設ける必要は無く極めて生産性が高い。
フレキシブル基板への実装
触覚センサを実用化する上で、電源を供給し、信号を取得するための実装技術が重要である。ここではフレキシブル基板を用いた反転実装によって、強度と電気的接合性を確立した実装方法を開発した。
トマトの把持実験
産業用ロボット向けの応用として、大きさの異なるミニトマトを優しく掴むための仕組みを実装した。ここではグリッパー部分にアーム本体と独立したマイコンを実装し、アーム本体からの指令によってグリッパー動作をおこなっている。この際に、グリッパー内側に装着した触覚センサによってトマトへの加圧を計測し、十分に把持したところでグリップを停止する処理を組み込んでいる。