ファム・ ベト・ アン

PHAM  VIET  AN

Profile & Message

2020年3月 正社員として勤務した会社を退職 

2020年3月 ベトナム食品販売会社を設立

2020年6月 通販サイトを開設

2020年7月 1号店オープン

2021年7月 2号店オープン、通販サイトをリニューアル

2022年4 月 通販アプリをリリース

在日ベトナム人向けの市場はまだ比較的小規模ですが、競争が激しいため、顧客に自社を認識してもらうには多大な努力が必要です。単に他の多くの人々と同じことをやっていては、既存の市場に新たに1つの窓口を加えるだけになってしまいます。差別化を生み出さなければ、ビジネスで本物の成功を築くのは難しいでしょう 

約6年前の2018年9月、私はMPKENのVOICE OF ASEAN SEMPAIシリーズで、日本での生活をスタートさせた留学時代から、日本で正社員として勤めつつベトナムで「Hajime Nippon」という日本留学サポート会社を運営するまでの私の人生について紹介させてもらいました。

あれから6年。現在は日本でベトナム食品の販売サービスを展開する会社を起業し、新しい経験と体験を重ねつつ、新しい道に進んでいます。そして今回再びVOICE OF ASEAN SEMPAIの取材を受ける機会をいただきとても嬉しく思います。この記事を通して、今後日本で起業を考えている皆さんにとって有益な情報を提供できればと願っています。

>>>VOICE OF ASEAN SEMPAI VOL 41 

ビジネスのアイデア

2018年末、食品分野に関わるプロジェクトに参加する機会がありました。プロジェクトの内容は、日本のアジア食品輸入流通会社に、日本市場で販売できるベトナム製品について、アドバイスをしたり、ベトナムの会社をつなげるサポートでした。

当時、私は輸出入業務に関する知識は全くなく、ベトナム国内の食品会社数社とネットワークを持っていただけで日本とベトナムの会社を結び付けることしか出来ませんでした。輸出入手続きの専門的なサポートが出来るベトナム人がいなかったこともあり、多くのベトナム企業を紹介したにも関わらず、結果日本に輸入できた商品は1つか2つでした。

理由は、日本で販売できそうな商品は沢山ありましたが、輸入の手続きが複雑すぎて、日本の会社が途中で諦めてしまったからです。しかししばらくすると、他の会社がその製品を日本に輸入することに成功し、とても残念な気持ちになりました。この経験を通じて私はベトナム製品を日本に輸入するのは、ベトナム人が行うべきであり、そのほうが早く、効果的であるということに気が付きました。

さらに色々調べてみたところ、当時(2019年)、日本のベトナム食品小売業界には多くの問題点があることが分かりました。ベトナム製品を販売する店の数は昔に比べて大幅に増加していましたが、多くの店は都市部にしかありませんでした。地方の人がベトナムの食品を購入したい場合は、都市部まで行くか、オンライン注文をするしかありませんでした。オンライン注文といっても楽天やAmazonのような正式な通販サイトではなく、主にFacebook上のグループを介して行われており、注文した商品が違ったり、送金したが、商品が届かなかったりなどトラブルが多発していました。。このトラブルを解決するためには、食品の品質と購入後の顧客ケアの両方を保証する必要がありました。

当時の日本でのベトナム食品市場は小規模な店が多く、大手ベトナムブランドと提携できるほどのベトナム食品を扱う店はありませんでした。在日ベトナム人向けの食品ビジネスにはまだ問題も多く、会社としてこのビジネスに乗り出す組織がほとんど存在しないことに気づきました。そして、この在日ベトナム人向けの食品ビジネスこそ、起業するのに有望な分野だと気が付きました。

ピンチをチャンスに

具体的な起業計画を考えながらも、正社員として働く日本の仕事と、ベトナムの自社での仕事の両立は忙しく、思うように起業計画は進みませんでした。

2019年末、世界をコロナが襲いました。私が出資している留学コンサルティング専門会社「Hajime Nippon」の収入はほとんど無くなり、会社維持の為の資金だけがどんどん出ていく状況でした。2019年10月に結婚した妻が妊娠していたため、生活を安定させベトナムのコンサル会社を維持するためにも、日本の会社を辞めるわけにはいかず、起業計画は延期するしかないように思われました。

しかし、パンデミックの中で、在日ベトナム人向けの「ベトナム食品のオンライン販売」での起業計画のチャンスをはっきりと感じられた事も確かです。政府はレストランの営業時間を制限し、人々は自宅で食事をし、接触を制限するためにオンラインショッピングを利用することを奨励しました。これは私にとって、今まで考えたアイデアを実行するためのまさに絶好の機会です。

妻や友人と何度も話し合った結果、失敗を恐れずにこの機会にチャレンジしてみることにしました。そこで私は、当時「Hajime Nippon」で保有していた資本のすべてをベトナムの株主に売却し、日本の会社を辞め、「在日ベトナム人向けの食品ビジネスを日本で起業する」という新しい試みに挑戦することにしました。

いつも応援してくれる家族

試行錯誤の日々

 私が目指していたのは、遠方の方にも商品が届くオンラインでの食品ビジネスです。

これを実現させるには、ITやマーケティングなどに強い仲間が必要でした。そして、多くの資本も必要でした。そこで私は友人、知人に支援を求めることにしました。調べたデータと実際の状況を基に、長期的な方向性を含めたビジネスプランの提案をし、仲間たちに株主としてこのプロジェクトに協力してくれるよう声をかけてみました。現在、プロジェクトに参加している株主の方々は、マーケティングやIT、資金に関してそれぞれ得意な専門分野を持っている昔からの知り合いがほとんどで、彼らの知識や経験から私のビジネスを進める手助けをしてくれています。

人材と資金の目処が立った時点で長期的なビジネスプランを考え、法人を設立し起業することにしました。収益のない運営初期に、メンバーが経済的な心配をしなくても良いよう、役員となるメンバーには一定の月給(役員報酬)を支払うようにしました。経営管理ビザも、細かなビジネス計画と今後の会社の発展が望めることから、問題なく取得することが出来ました。

最初に解決しなければいけない問題は、どうやって会社を周知するかと、ターゲットとする客層を明確化することでした。

先ずはターゲットを単に「日本在住のベトナム人」と定義するのではなく、「購入前および購入後に手厚いカスタマーケアがあり、決済方法が便利で安心でき、食材の品質が保証されているベトナム食材販売サービスを求めている在日ベトナム人」と定義しました。次に、顧客の買い物に関する習慣も徹底的に調べました。商品をオンライン購入する際にスマホとPCどちらの端末で調べることが多いのか、どの決済方法を求めるのかなどです。ウェブサイトの方も、単に商品を表示するだけのものにして、商品を購入する際はFacebookチャットで連絡しないといけないという今までの一般的なやり方ではなく、商品掲載から決済まで完了するECサイトを作るのに何が必要なのか?を研究しました。これらは、私たちが Sesofoods のウェブサイトをつくり始めた日から常に問い続け、現在に至るまで毎日継続的に観察し、改善してきました。

ビジネスを運営する過程で遭遇する2つ目の課題は、オンライン販売と店舗販売の在庫量を整理するためのノウハウ不足によって引き起こされる、商品不足です。開業当初は資本が少なく、オンライン販売のみに注力することにしていたため、直売所にもなるとても小さな倉庫しかありませんでした。

顧客がウェブサイトでオンライン注文し、在庫があると表示されているにもかかわらず、実際に店舗に行ってみると品切れであったということがよくありました。そのため、急遽商品を追加したり、別の商品へ変更してもらえるようにお客さまに連絡する必要があり、多くの時間と労力を費やしていました。このような状況では、顧客満足度が十分に得られないことが課題です。これは、企業が過剰なマーケティングで顧客を引き寄せようとする一方で、インフラや商品の在庫、倉庫管理が追いつかず、円滑な運営ができていない結果と言えます。

この問題を解決するため、私たちは新しい大きな倉庫を借りることに決めました。これにより、より多くの商品を輸入し、品物をより良い状態で保管し、在庫不足による問題を減らすことができると考えています。

新しい倉庫

 同時に、日本のサービス企業からおもてなしを学び、包装や連絡、顧客サポートのプロセスを改善しました。これにより、顧客がサービスを利用する際に最高の体験を提供できるよう努めています。例えば、お礼の手紙や製品・サービスの詳細を記載したパンフレットを商品と一緒に送ること、バウチャーの提供、注文確認メールの送信などです。

認知度を高めるために多くのフェスティバルに参加

Sesofoodsは、他のベトナム食品販売会社よりも前にウェブサイト設計やプロモーションに力を入れ始めました。これにより、ベトナム食品小売を行う他店舗も、ウェブ販売を展開したりキャンペーンを打ち出したりするようになり、確実にサービス利用者への恩恵になっていることを、私自身大変嬉しく感じています。

NHKが撮影と取材に来ました

波乱によって得た経験

 当然、ビジネスの世界では常に順風満帆ということはありません。企業は外部および内部からの波乱を経験することがあります。私たちにとってその波乱とは、2022年に日本におけるベトナム食品市場で新しい販売形式が現れ始めたことです。新形式は、ライブストリームを通じた卸売価格に近い小売販売のやり方です。

この新しい販売形式が現れたことにより、日本のベトナム食品市場での販売価格競争が非常に激しくなりました。多くの会社・個人がこの競争に巻き込まれ、その中にはもちろん私たちの会社も含まれています。価格を下げることで注文数が増えたものの、売価の低下により利益が減少し、増えた注文数に対して増えた作業量が利益を生み出さない状況となりました。このため、サービスの向上に投資するためのリソースが不足し、スタッフの忙しさが増して、健康状態も悪化しています。

この状況により、開業当初から共に歩んできた何人かの仲間が耐え切れず、諦めていってしまいました。

IT担当とマーケティング担当が、次々と会社を去っていきました。彼らの不安が徐々に私にも伝わり、長い間方向性を見失っていました。私は常に顧客により良いサービスを提供することを信条としてきましたが、やはり顧客は多かれ少なかれ「価格」を気にします。そして、あの当時のように激しい価格競争にある市場で、この2つの要素をバランスよく保つことは非常に難しい課題でした。

右腕・左腕として親しんできた2人の仲間を失った混乱から立ち直って、会社を再起動しました。

以前の私は企業の成長に集中しすぎていたあまり、周囲の人々とのつながりや、共有してコミュニケーションを深めることを忘れてしまっていたと気付きました。彼らが会社を去ってしまった後になって、なおさらそれを痛感しました。なので今回は、同じ間違いを繰り返すわけにはいきません。顧客に価値を提供することは重要ですが、企業が自身のチームに価値を提供できないと意味がありません。

会社の方向性を再調整し、価格競争に巻き込まれないことを決意しました。新しい人材を採用し、従業員の労働条件と福利厚生の向上に注力しています。古い従業員と新しい従業員とのコミュニケーションも強化しました。オフィスでの時間を増やし、同僚と深くつながり、交流する時間を持つように心がけ、新入社員のトレーニングや効果的な作業方法の指導に注力しています。現在、すべてが新しい軌道に乗りつつあります。

会社のキャンプ

社員たちにベトナムのお正月料理を振る舞う

メッセージ

 日本で起業するかどうか迷っている方たちへ、私からのアドバイスです。誰でも少しの資金とアイディアがあれば起業はできます。しかし、成功するかどうかは準備と事前の積み重ねに大きく左右されます。起業を考えているなら、少なくとも次の5年間の会社の発展計画を明確にしておくべきです。どのようなキャッシュフローになるか、どんな人材が必要かを想像し、長期的に事業を維持できるようにする必要があります。ビジネスはしばしば情熱によって推進されますが、情熱だけではなく「知識と人間関係」が成功と長期的な進化を達成するための要素です。

在日ベトナム人向けの市場はまだ比較的小規模ですが、競争が激しいため、顧客に自社を認識してもらうには多大な努力が必要です。単に他の多くの人々と同じことをやっていては、既存の市場に新たに1つの窓口を加えるだけになってしまいます。差別化を生み出さなければ、ビジネスで本物の成功を築くのは難しいでしょう。

一旦起業を決意したら、多くの困難に直面する覚悟が必要であり、自分の計画に対して常に確信を持たなければなりません。日々観察し、考え、悩みながら、運営中に生じる問題を解決して改善する方法を探さなければなりません。会社が成長しているのに自分が進むべき道を見失った時は、一時停止して進路を見直すことができます。停滞は立ち止まることではなく、進路を見直し、息を吸ってエネルギーを回復し、その後でより速く進むための準備期間です。

日本で起業を考えている皆さんが、多くの貴重な経験を積み、期待通りの成功を収めることを願っています。

東京、 6/2024