真鍋淑郎先生ノーベル賞受賞記念特別公開シンポジウム

日本気象学会2022年度春季大会

真鍋淑郎先生ノーベル賞受賞記念特別公開シンポジウム

2022年5月21日(土) 13:30〜16:35 オンライン配信(学会員・一般)

You Tube URL:https://youtu.be/97U8HobBm_U

趣 旨:日本気象学会名誉会員の真鍋淑郎博士(プリンストン大学)が2021年ノーベル物理学賞を受賞されたことはまだ記憶に新しいところです。受賞理由は、「地球温暖化を確実に予測する物理気候モデルの開発」で、地球気候をコンピューター上で再現・予測できる数値モデルを開発し、大気中の二酸化炭素濃度の増加による気候への影響を初めて明らかにした真鍋先生の先駆的な研究が評価されました。真鍋先生が開拓された数値気候モデル研究は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の評価報告書に代表される地球温暖化研究の進展は勿論のこと、古気候研究も含め、今日の気象学・気候学研究の礎となっているほか、日々の数値天気予報の発展にも影響をもたらしています。そこで本特別公開シンポジウムでは、特別な許可を得て真鍋先生のノーベル物理学賞受賞講演(英語)を日本語字幕付でビデオ上映し、引き続き、真鍋先生の先駆的な研究の意義や今日へのインパクトについて5名の気象学会会員が分かりやすく解説します。

【プログラム】

13:30 概要説明 中村 尚 (東京大学先端科学技術研究センター)

13:45 「真鍋淑郎先生ノーベル物理学賞受賞講演」(日本語字幕付ビデオ講演)

14:10 「真鍋先生が拓いた気候モデリングと温暖化研究―その後の発展―」

渡部 雅浩   (東京大学大気海洋研究所)

14:35 「対流をめぐる気候モデルの発展」

佐藤 正樹  (東京大学大気海洋研究所)

(休憩15分)

15:15 「真鍋先生の古気候モデリングとその後の展開」

阿部 彩子   (東京大学大気海洋研究所)

15:40 「最新の気候モデルが描き出す、地球温暖化と日本の異常気象」

今田 由紀子 (気象庁気象研究所)

16:05 「数値予報と気候変動予測の接点」

岩崎 俊樹 (東北大学大学院理学研究科)

16:30 閉会の挨拶 佐藤 薫   (東京大学大学院理学系研究科)

※講演20分+質疑応答 (zoom Q&A) 5分

※zoom Q&Aを利用したご質問は大会に参加登録された学会員に限らせて頂きます。その他の方にはYouTubeにて同時配信します。

 zoomの接続情報は大会参加者限定サイトにて公開されております。

問い合わせ先: 日本気象学会2022年度春季大会実行委員会

E-mail: msj-ecomm2022s@metsoc.or.jp




「真鍋先生が拓いた気候モデリングと温暖化研究―その後の発展―」

渡部 雅浩 (東京大学大気海洋研究所・教授)

地球温暖化の自然科学的な理解は、過去30年の間に大きく進展しました。その主要な部分はIPCCの評価報告書にまとめられていますが、理解を促進してきた原動力は、世界中の気候科学者によるさまざまな研究です。とりわけ、全球気候モデルによる過去から将来までの気候シミュレーションは、温暖化の理解を促進する上で重要な役割を果たしてきました。真鍋先生の業績の1つである、大気海洋結合モデルの開発およびそれを用いた温暖化応答の研究は、その源流に位置しています。本講演では、気候モデリングに関する真鍋先生の業績に触れつつ、その後のモデルの発展や、IPCC第6次評価報告書にまとめられている温暖化メカニズムに関する知見を紹介します。その上で、数値モデルを用いた今後の温暖化研究の方向性について、皆様と一緒に考えてみたいと思います。

「対流をめぐる気候モデルの発展」

佐藤 正樹 (東京大学大気海洋研究所・教授)

真鍋淑郎先生の1960 年代の気候モデルの開発は、地球大気の高さ方向の温度構造を放射と対流のバランスで求めることから始められました。真鍋先生のメッシュ間隔数百km 程度の気候モデルでは,実際に地球で起こっている数km 程度の水平スケールをもつ深い対流(積乱雲)を直接計算することができなかったため、対流の効果を「対流調節」と呼ばれる方法で導入されました。現在の気候モデルでも対流の効果は「対流パラメタリゼーション」と呼ばれる手法によって導入されており,対流調節はその1つと位置づけられます。対流パラメタリゼーションのモデル化には任意性があり,気候シミュレーションの大きな不確定性の要因となっています。今日では,コンピュータ能力の進展により,数km 程度のメッシュ間隔の新しいタイプの気候モデルによるシミュレーションが可能となってきました。これにより,対流パラメタリゼーションを用いずに計算することができます。本講演では、気候モデルにおける対流モデリングの展開を追います。


「真鍋先生の古気候モデリングとその後の展開」

阿部 彩子 (東京大学大気海洋研究所・教授)

真鍋先生が切り拓いた道は、気候将来予測とそのための大気海洋大循環モデル開発ばかりではなく、古気候研究にも広がりました。気候モデルを用いた古気候数値実験では、気候モデルの検証とともに、さらに、様々な時代が現在となぜ違うのか、なぜ気候変化が長時間スケールで起こるのか、極めて基礎的な研究を目指します。特に、氷期-間氷期問題は、天文学的要因(地球軌道要素)によるのか、大気中二酸化炭素濃度によるものか、19世紀から論争に発展し、温室効果の研究にも刺激を与えました。また、氷期中の急激な気候変化についても、大気海洋システムの平衡状態や変動特性が研究テーマです。気候学の基礎や真鍋先生の気候モデルの開発の歴史を振り返りながら、最新の古気候シミュレーションの一端をご紹介します。

「最新の気候モデルが描き出す、地球温暖化と日本の異常気象」

今田 由紀子 (気象庁気象研究所・主任研究官)

真鍋先生が確立された気候モデリングの基礎は、時を経て、より複雑で高度なモデルに発展しながら現在まで継承され、幅広い研究分野に貢献しています。現在では、日本のような島国の中で発生する極端な気象現象の将来を予測することも可能になって来ました。真鍋先生は、温暖化研究の方向性として、異常気象への影響を理解することの重要性に言及されています。本講演では、同時受賞されたハッセルマン先生が確立された地球温暖化の影響検出のための理論にも触れながら、地球規模で進行する温暖化が日本のローカルな異常気象にどのような影響を与えているのか、その仕組みを理解するために、どのような気候モデルをどのように活用するのか、といった視点から、偉大な先生方に続く気候科学者達が編み出してきた異常気象に関する気候モデリング研究の最前線をご紹介します。


「数値予報と気候変動予測の接点」

岩崎 俊樹 (東北大学大学院理学研究科・特任教授)

数値予報と気候変動予測は、出発点は大きく異なりましたが、両者には様々な接点があります。 第1の接点は、物理過程のパラメータ化です。1980年代、気象庁の数値予報モデルは、真鍋先生の先駆的研究より大きな恩恵を受けました。対象を徹底的に抽象化・単純化し、大規模な大気現象に付加すべき機能を追及する真鍋先生のアプローチは、計算資源の限られる数値予報モデルの開発指針と合致しました。第2の接点は、大気の長期再解析です。CO2濃度は産業革命以前に比べ約50%増加し、温暖化の影響評価は予測の時代から検証の時代に移ろうとしています。数値予報の初期条件は気候変動の貴重な検証データでもあります。ただ、デリケートな気候変動を再解析で再現するためには、高度なデータ同化手法とバイアスのない数値予報モデルが必要です。優れた再解析データを作成し、気候予測モデルを検証・改良し、気候変動予測情報の高度化に貢献します。