生物多様性の保全上重要な地域の法面緑化には、外来植物ではなく在来植物の利用が推奨されています。しかし、緑化に使用する在来種の産地に関する規制がないため、市販の緑化用種子のほとんどが中国を中心とした海外から輸入されてきました。
生物は同種であってもそれぞれの生育環境条件に適応した遺伝子セットをもっています。そのため、地理的に離れた地域の個体を導入することにより、その地域にうまく根付くことができず緑化が失敗したり、もともとその地域に生育している個体と交配し、その土地に適応していない遺伝子を持ち込む可能性(遺伝的撹乱)があります。しかし、導入された個体と、もともとその地域に生育する個体との間に遺伝的・形態的な違いがあるのか、遺伝的撹乱が起こっているのかについてはほとんど評価されてきませんでした。
ヨモギ(Artemisia indica var. maximowiczii)は緑化によく用いられる在来種のひとつです。
日本各地をめぐりヨモギを採取し、国内のヨモギの遺伝的多様性を把握するとともに、緑化に使われている中国産種子(中国原産の輸入種子と、日本原産種子を中国で栽培してから再度輸入した逆輸入種子)から育成した個体について、遺伝的および形態的変異を評価しました。
国内のヨモギには東日本と西日本間で遺伝的な分化がみられた一方で、緑化地には、西日本地域であっても東日本個体と類似した個体が多いことがわかりました(図1)。逆輸入種子由来の個体は東日本個体と近縁であったことから、東日本由来の緑化種子が日本全国の法面緑化に使用されていることが示唆されました。
中国原産種子由来の個体は、日本のヨモギとは遺伝的に異なるだけでなく、痩果の形態や1頭花あたりの花数にも違いが見られました(図2)。これらの結果から、日本のヨモギとは異なる種が緑化に使われ、実際に緑化現場にも定着していることがわかりました。
日本列島は南北に長く、多くの在来種で地理的な遺伝的分化が見られ、越冬率や開花時期にも適応的な変異が見いだされています。こうした地域ごとの違いを考慮した緑化が望ましいのですが、地域性種子の供給体制の構築や、そのためにかかる費用の増加をどのように緑化工事に配分していくかなど、地域生態系と調和した法面緑化の実現には、まだ解決すべき課題がたくさんあります。
Wagatsuma S., Imanishi J., Suyama Y., Matsuo A., Sato M.P., Mitsuyuki C., Tsunamoto Y., Tominaga T., Shimono Y. 2022. Revegetation in Japan overlooks geographical genetic structure of native Artemisia indica var. maximowiczii populations. Restoration Ecology 30: e13567.