2011年の東京電力原発事故後の環境において、周辺の生きものや自然との関わりを模索する日常的な営みを見ています。おもに福島県浜通りと阿武隈高地の町・村・山において、住民の方々や、現場につどうさまざまな関心と専門の方々とかかわりながら、お話を聞いたり活動に参加させていただいたりしつつ調査を進めています。これらの土地のランドスケープが、自然・産業・生活の深いからまりあいのなかで形成されてきた歴史についても調べています。
この研究活動は以下の論文などで内容を発表しています。
Tomoko Sakai (forthcoming), Dwelling in a post-fallout landscape: Re-shaping and sustaining life in a former evacuation zone in Fukushima. Journal of the Royal Anthropological Institute.
酒井朋子(近刊)「野良化する汚染—原発近隣地域で山の幸とかかわりつづける模索について」『文化人類学』.
現在、「原発近隣地域の生活におけるモノ・場所との身体的かかわり」というタイトルのプロジェクトで科研費基盤Cを受けています(JP25K04658)。
ここしばらくは、キノコをキーワードに調査しています。
英領北アイルランドは1960年代後半から30年以上の紛争を経験した土地で、都市部の労働者階級居住区(低所得者地域)が紛争の前線になりました。わたしは2000年代前半からこの地でフィールドワークを行い、紛争期とポスト紛争期の日常生活について調べてきました。この内容は、たとえば以下で発表しています。
Sakai, Tomoko (2022) Humour and the plurality of reality: Comical accounts from interface areas in Belfast, Social Anthropology, 30(3): 143-160.
酒井朋子(2015)『紛争という日常−−北アイルランドにおける記憶と語りの民族誌』人文書院.
和平合意が結ばれて30年近くが経つ現在も、これらの地区の景観は、紛争と分断の歴史を想起させる建物やモニュメントに満ちています。近年は、紛争の痕跡の身体経験が、人々の紛争の記憶をどう形作っているのかを調べ、考えています。
この研究は、研究仲間と2021年に作った「汚穢の倫理」研究会を契機として始まりました。汚穢忌避と「きたない」という感覚や現象を探究し、倫理に新しい角度から光を当てることをめざす研究会でした。この研究会の成果は『汚穢のリズム——きたなさとおぞましさの生活考』(酒井朋子・中村沙絵・奥田太郎・福永真弓 編著、左右社、2024年)として出版されました。
(c)酒井朋子. 2025