2026
京都府立大学の原田浩二教授にお話をうかがいました。原田先生はPFAS汚染問題の第一人者で、各地で講演などに多忙な日々を送られています。また東京電力福島第一原発の事故にあたっては、南相馬市、相馬市、川内村など原発近隣地域に事故直後からチームで入り、集落内の空間や日常的な食品などさまざまなものの放射能測定を実施されました。
聞き取りでは、原発事故のあといかに調査計画が起こり、時間とともにどのように変化していったのか、他分野の研究者との協力の様子などをお聞きしました。住民の方々に毎日の食事で一人分を余分に準備してもらい、その中に含まれる成分や物質を調査する「陰膳法」と言われる調査方法が興味深かったです。ご協力ありがとうございました。
『文化人類学』第90巻3号に論文が掲載されました。タイトルは「野良化する汚染ー原発近隣地域で山の幸とかかわりつづける模索について」。原発事故後の阿武隈山地において、きのこ、山菜、獣や魚、燃料などの山の恵みがどのような影響を受けているのか、そのなかで人々がいかに山とかかわりつづけようとしているかを書いています。キーワードはferality(野良/手に負えないこと)。人工的に作られた物質が人間のコントロールの外に漏れ出て生体的・生態的な物質循環のなかを動きまわるさまを「汚染の野良化」と呼び、これに向き合う日常的な営みについて書いています。
2025
イギリスの文化・社会人類学の雑誌、Journal of the Royal Anthropological Instituteに論文が掲載されました。この分野を国際的に先導する雑誌の一つでもあり、やはり嬉しいです。タイトルは'Dwelling in a post‐fallout landscape: re‐shaping and sustaining life in a former evacuation zone in Fukushima'。インゴルドがハイデッガー(やマルクスなど)の影響を受けつつ展開した「住まうこと」(dwelling)という概念は、現代の世界状況を鑑みるならば、汚染のある環境条件のなかでこそ重要な意味をもつのでは、ということを原発事故後の阿武隈山地の日常的営みを事例に論じたものです。
冊子版の公開は2026年6月の予定ですが、オンラインでearly view版が公開されています。
10月28日にトークイベントに呼んでいただいたDeep Care Labさんが、「あそびの精舎」應典院にて開催していた「おわりのケア展」を見に行きました。「ロボットの供養」や、肉牛の解体過程を目の当たりにした後の「肉食」に対する向き合い方の変化(不変化)など、興味深い内容でした。
展示のなかに、Deep Care Labで行われてきた「モバイル貝塚」の紹介がありました。「身近な死との関係性の変化を記録・観察する実験」ということで、メンバーの方々が、日常生活のなかで出会った「小さな死」をガラス瓶の中に集めていくというものです。虫の死骸、抜けた髪の毛、食べた肉や魚の骨、などなど。
とても面白い取り組みで、お願いして聞き取りに協力していただきました。ご対応くださったのは、田島瑞希さん、川地真史さん、吉田快馬さん。充実した内容のインタビューとなりました。近々、「汚穢の倫理」研究会ウェブサイトにて紹介したいと思います。
2025年10月28日、大阪市の「あそびの精舎」應典院とDeep Care Labが開催している「むぬトーク」の第4弾「汚穢と死ー見たくない、けど避けられないものとどう向き合う?」に登壇しました。應典院は浄土宗のお寺で、芸術、哲学、教育、福祉などさまざまな事柄にふれて考える企画をもち場所を提供されています。Deep Care Labは、身近な人々、生物、地域の歴史等々のネットワークの中で生きることを考える研究・実践集団。双方、大変面白い活動をされています。
Deep Care Labの田島さんとやりとりする中で、日常のなかの死と汚穢について話がふくらみました。またフロアから、自然界に存在する秩序についてどう考えるか、「音の命が尽きる」とはどういうことか、等、大変興味深い質問をいただきました。
2025年10月27日、京都大学人文科学研究所・共同研究班「高度経済成長期の生活史」にて研究発表しました。1949年創刊の、ファンも数多いあの雑誌『暮しの手帖』について、研究者と「暮しの手帖」社の方々が協力しながら、記事の社会・経済背景を調査したり、雑誌がいまに伝えるメッセージを考えたりする研究班です。発表タイトルは「衣(食)住を手づくりする:『暮しの手帖』1世紀にみる住空間と生活用品へのはたらきかけ」。
同時期の他の雑誌とのちがい、衣服の手づくりの背後にあった繊維産業の状況、当時の住まいの状況などについて、多くの質問とコメント、情報提供をいただき、今後の研究の助けとなりました。
2025年9月13日(土)・14日(日)に日本オーラル・ヒストリー学会第23回大会が大阪大学にて開催されました。わたしは13日(土)の午前の会場で自由報告の司会を務めたほか、14日(日)のテーマセッション「まだ見ぬ「わたし」を語る--マルチモーダル人類学の試み」にコメンテーターとして参加しました。映像民族誌などの研究経験を、授業でどのように盛り込めるか?というテーマです。1分間の無音の映像を学生に撮ってもらったり、デジタル・ストーリーテリングを取り入れたり、コラージュを作ってもらったり、などなど。フロアからも、研究→教育という流れに加え、教育での経験から自身の研究への影響についてはどうだったか、など重要な質問が出て、刺激的でした。
9月3日(水)・4日(木)・5日(金)、東京大学総合文化研究科・教養学部で集中講義を行いました。調査の中での身体的・情動的経験をいかに社会的・歴史的事実として検討していくのか、またランドスケープ論などの「人間以上のもの」を視野に入れた関係論的な研究を行うにあたって、複数の認識論が混ざり合うことをどう考えていくのか、などをお話しました。受講者の方々にも思うところを話し合ってもらい、最後にスライド発表もしてもらいました。学生さんたちのフィールド経験や人類学以外のディシプリンからの視点なども聞けて、大変刺激的な経験でした。
8月30日(土)、神戸演劇鑑賞会の9月例会事前学習会にてお話させていただきました。9月の例会では北アイルランドを舞台にしたオーウェン・マカファーティ作「モジョ・ミキボー」が上演されるということで、背景の歴史や社会についての学習会でした。ベルファストで出会い、親友になる二人の男の子たちが、激化していく住民対立と紛争に巻き込まれていくあらすじのお芝居です。みなさん熱心に話を聞いてくださり、懇親会では演劇を愛する思いも聞くことができました。
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7月25日(土)、福島県田村市都路町に拠点を置く、あぶくま山の暮らし研究所の企画運営会議に参加しました。「放射能汚染がもたらした被害に向き合いながら、豊かな山の資源を今から150年先の世代にまで手渡せるように、山の暮らしを紡いでいくこと」を目標とする団体で、地元住民の方、研究者の方、地域にかかわりをもつ方などがつどっています。
6月14日(土)、人文科学研究所共同研究班「記憶と身体の人文科学」の例会にて「歴史の具現化としてのランドスケープ—阿武隈山地の山林生態系・産業史・感覚記憶—」というタイトルで研究発表しました。
ランドスケープ概念の変遷を追うとともに、人の生の営み・場所の利用の蓄積・不平等な権力関係などの歴史が具現化したものとしてランドスケープがあるという考え方を、阿武隈山地を事例にしながら議論しました。
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