メタンの分解は、可逆反応で高温で有利な吸熱反応であるため、高い平衡反応率が達成できる高温で活性が維持できる触媒が必要です。資源制約の観点からも豊富なFeを触媒に選定し、検討しています。
CH4 → H2 + C
この反応系は炭素析出反応なので、活性低下が大きな課題です。繊維状に炭素が成長することが活性維持に必要であることが知られていますが、さらに触媒表面での逆反応(水素による炭素のガス化反応)が活性維持に大きな影響を与えることを明らかにしてきました。炭素成長に有利なFe触媒の開発と触媒表面でのガス化制御による活性維持手法の開発を目的として検討しています。
繊維状に析出した固体炭素
大気中の二酸化炭素は420 ppm程度であり、それを回収するのは大きなエントロピーロスがあります。バイオマス中の炭素は光合成から作られており、自然界の二酸化炭素濃縮装置という考え方ができます。一般的にバイオマスはカーボンニュートラルと言われており、燃焼でも二酸化炭素を排出したことにはならないと言われていますが、バイオマス中の炭素を固体炭素として固定できれば、カーボンネガティブで空気中の二酸化炭素を炭素に固定したことになります。
バイオマス中の炭素を固定する手法としては熱化学変換(熱分解)が有効ですが、一般的に炭素収率は低く、多くは揮発分として系外に排出されます。そこで多孔質炭素を共存させることにより、炭素表面での炭素析出反応を促進し、固体炭素として回収する手法を開発しました。
木質バイオマスの熱化学変換による炭素固定の概念図
おむつやペットシートに使用されている吸水性ポリマーは、使用後はほぼすべて焼却処分されています。プラスチック(PEやPPなど)、紙(パルプ)、吸水性ポリマー(ポリアクリル酸Naなど)が主成分で、このような全く異なる性質の混合物なためにリサイクルは難しいと考えられてきました。これまでに、適切な熱化学変換条件を選べば水に可溶な成分に転換することを見出しました。また、水に溶けていても多価カチオンでセ移出させることで固体として回収することができることも示してきました。このような手法を応用して吸水性シートのリサイクル手法の設計を検討しています。
水素によるCO2のメタネーションは、既存の天然ガスラインを利用できるため、CO2の有効利用と水素キャリアの点から非常に注目されています。CO2のメタネーション反応はサバティエ反応として知られており、多くの触媒が開発されています。サバティエ反応は大きな発熱反応であるため、高温では平衡による制限があります。また、CO2の濃縮プロセスでのエネルギー消費も大きいです。
そこで、CO2の吸収能とメタネーション能を併せ持つ二元機能触媒(DFM: Dual Function Materials)が提案されています。アルカリ金属やアルカリ土類金属はCO2を炭酸塩として固定できるので、メタネーション活性の高いニッケルと組み合わせることでDFMとすることができます。当研究室で培った炭素担持Ni触媒にアルカリもしくはアルカリ土類金属を担持してDFMとしての利用を検討しています。
DFM機能の概念図
Kosaka et al., ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9, 3452-3463
水素は貯蔵密度が低く、液化には極低温が必要です。また、水素脆化等の問題から天然ガスのように導管で輸送することも困難です。そのため、他の分子に転換して輸送、利用することが想定されています。このような物質を水素キャリアと呼んでいます。水素キャリアとしては、MCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアが良く知られていますが、水素を取り出す温度(脱水素反応温度)が高いことが課題です。ギ酸は水素の貯蔵効率(体積当たりの水素発生量)はやや劣るものの、脱水素反応が低い上に吸熱量も少ないため、水素キャリアの候補として有望です。特に100℃以下の液相で水素が取り出せれば、水の蒸発潜熱も利用でき、利用効率の大幅な向上が期待できます。
ギ酸分解触媒として活性の高いPdを担持した炭素担体触媒を利用しています。独自の手法で開発した触媒は、高分散、高担持量で100℃以下での脱水素反応を可能としています。炭素担体を用いることで、副反応を抑制し、ほぼ100%の選択率で水素を発生させることができます。触媒調製法や反応条件の最適化、さらにはプロセス効率の最適化について検討しています。
固体高分子型燃料電池(PEMFC)は、水素と空気を原料として80℃で作動する燃料電池で、燃料電池自動車や家庭用コージェネレーションシステム(電気と給湯)に利用されています。燃料電池システムは10~20年という長い寿命が求めらており、各構成部品の耐久性を評価して寿命を予測できるシミュレーターの開発が進められています。
ナフィオンに代表される固体高分子膜は、燃料電池セル内で発生した活性なラジカル種(OHラジカル等)による膜の分解反応で化学的に劣化すると言われています。しかしながら、実際の燃料電池セルでは触媒層やGDLなどの部材もあり、膜の劣化度を評価するのは困難でした。そのため、膜単独で化学劣化できる装置を開発し、分解速度を定式化してセル内の条件での化学劣化を表現できるシミュレーターの開発を行っています。
PEM分子とOHラジカルとの反応の流れ
Fenton反応は、Fe(II)と過酸化水素から酸化活性が非常に高いOHラジカルが生成する反応です。室温の水溶液中で迅速に起こる反応であることから、廃水中の有害有機物を酸化分解する手法として多くの研究が報告されています。一方、リグニンは、木質バイオマスからセルロースを精製する過程で発生する廃棄物で、現在は燃焼による熱回収がされています。リグニンを付加価値の高い化学物質(有機酸など)に転換するなどの有効利用技術の開発が望まれています。
Fenton反応は、OHラジカルの生成とともにFe(II)がFe(III)になります。Fe(III)は還元されてFe(II)に戻りますが、非常に遅いことが課題でした。当研究室では、これまでに廃水処理の観点から効率的にFe(III)を還元し、Fenton反応を持続させる技術の開発を行ってきました。この技術を応用し、室温でリグニンを有用有機酸まで酸化分解する手法の開発に取り組んでいます。このために、OHラジカルでCO2まで完全に酸化させることなく、酸化分解反応を制御する手法について検討しています。