講演1
有機フッ素化合物(PFAS)の環境汚染の現状および規制の動向とその処理技術の紹介
橋口 亜由未 (岡山大学 術研究院環境生命自然科学学域 助教)
カーワックスや泡消火剤には有機フッ素系の界面活性剤が使用されています。この難分解性の有機フッ素化合物は,パーフルオロアルキル化合物(PFAS)と呼ばれており環境中では分解されず、地球上で長距離移動し、生態系に悪影響を与えることが知られています。例えば、魚介類からもPFASが検出されており、生体濃縮による人体への影響も懸念されています。PFASの中でもペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)は、2009年頃から世界的にも規制が進んでおり、輸出入や使用が制限されてきました。また、PFOSの規制後に代替物質として利用されてきたペルフルオロヘキサスルホン酸(PFHxS)も2022年に新たに残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)で規制されました。さらに、欧米を中心にPFASのリスク評価が進み、飲料水中のPFOAおよびPFOSに対する濃度の目標値などが設定されてきましたが、日本ではPFOSとPFOAの合算値が50 ng/Lと極低濃度で設定され、その目標値を満たすべく水道水原水中からの除去技術の開発が求められています。また、飲料水以外にも古い泡消化器(新しい泡消火剤にはPFASは使われないが)などに含まれる高濃度のPFASの処理技術の開発も急がれています。
一口にPFASと言っても、その類縁化合物や異性体を含めると4700種類以上も存在することがわかってきており、現在では有用なPFAS分解技術がないことやそれらの化合物が地球上に広く低濃度で存在していることに対して、具体的な解決策はまだありません。本講演では近年着目を集めているPFASの問題について、PFASの物理化学的な特性、汚染の現状、世界的な規制の流れ、分解・除去技術などをご紹介させていただきます。
橋口 亜由未 先生
岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域 助教
【研究テーマ】
環境工学の中でも水処理工学を専攻しており、学生時代は鉄バクテリアによる地下水中からのヒ素除去、電気分解によるPFAS(とりわけPFOSやPFOAなど)の電気分解に関する研究に取り組んできました。現在では、嫌気性微生物の微生物間コミュニケーションによる排水処理技術の高度化や紫外線技術による有害物の分解や殺菌に関する研究に取り組んでいます。また、水の紫外線殺菌技術を応用して、低レベル放射性廃棄物保管容器の微生物学的腐食防止のための表面殺菌技術の開発に関する研究も進めています。
講演2
福島とウクライナにおける環境調査結果とウクライナ戦争の環境影響
藤川 陽子 (京都大学 合原子力科学研究所 教授)
私の専門は土木環境工学ですが、京都大学原子炉実験所(今は複合原子力科学研究所)に就職した関係で、放射性物質による環境汚染の課題に取り組むようになりました。今回は、事故を起こした福島第一原子力発電所(1F)、Chernobyl原子力発電所に関連する環境調査と、今般のウクライナ戦争の環境影響についてお話しします。
東日本大震災の際、2011年3月11日に1Fに大津波が押し寄せ、最終的に1F内の全ての電源が失われてました。原子炉を冷やす機能が無くなり、原子炉の入っている格納容器のシール部等から放射性物質が漏れ、また原子炉の圧力を下げるため、空気の「ガス抜き」をした際にも放射性物質が漏れました。漏えいした放射性物質のうち放射性セシウム(半減期約2年のCs-134と半減期30年のCs-137)が長期間、環境に影響を及ぼしています。色々な放射性セシウムの濃度基準値が作られるなどして、社会は大混乱しました。様々な環境影響の中で私自身は下水汚泥やごみ焼却灰、そして地下水を中心に研究しました。
1Fと同等以上に大きな事故をおこしたのがウクライナにあるChernobyl原子力発電所です。この原子炉の場合、原子炉にある燃料そのものも、環境中に放出されました。私は図1のようにごく最近に現地の地下水の調査を実施しました。
最後にウクライナ戦争ですが、国際的なエネルギー価格高騰や穀物供給の問題の発端となり、またウクライナ国内で広範囲な環境影響を起こしています(図2)。
藤川 陽子 先生
京都大学複合原子力科学研究所 原子力基礎工学研究部門教授
【研究テーマ】
放射性物質や非放射性物質の環境中でのふるまいや汚染された環境を浄化する方法を研究しています
・高レベル放射性廃棄物最終処分の安全評価
・野外環境調査(水俣湾から八代海への水銀の拡散、広島・長崎原爆の降下物のウラン· プルトニウム同位体比分析、現場設置型 Ge半導体検出器等による天然放射能分布)
・土壌浸透法による水浄化とダム湖浄化用の実施設建設
・鉄バクテリア法とアナモックス法による地下水中砒素、アンモニア除去とベトナム農村水道施設建設
・家畜糞尿由来のエストロゲンの土壌植物系での動態
・ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)の電気分解
・高速繊維ろ過
・福島第一原発事故後の放射性セシウムの除染の技術開発と現場試験
・福島第一原発事故の影響地域下での埋立処分場調査と地下水流動シミュレーション
・ウクライナ(Chernobyl原発周辺)の地下水調査