慶應×ライフサイエンス
第2回慶應ライフサイエンスシンポジウム
2018年9月13日(木)日吉キャンパス 協生館 藤原洋記念ホール
2018年9月13日(木)日吉キャンパス 協生館 藤原洋記念ホール
心臓には、数多くの脂質が含まれます。その「量」および「質」のバランスを整えることが、心臓の機能を保つうえで重要です。
肉や揚げ物に多く含まれるパルミチン酸は大量に摂ると、心臓に悪影響を与え、反対に、地中海食のオリーブオイルに含まれるオレイン酸は、心臓に良い油です。これらの脂質はともに、心臓の細胞を覆う脂質の膜に取り込まれ、心筋細胞の生存や機能に深く影響します。
また、脂質の質を修飾する大切な要素の一つが、「酸化」です。一般的に、過剰な酸化により作られるアルデヒドのような過酸化脂質は、有毒な脂質として捉えられることが多いです。しかし、このような脂質も低容量であれば、心臓のストレス応答シグナルを活性化し、糖・アミノ酸の代謝を劇的に変化させ、結果として心臓は外からのストレスに対して強い抵抗力を獲得します。
脂質メディエーターといわれる体内のあらゆる生理現象に関係する物質も、脂質の「酸化」により作られます。その中には、生体を直接保護してくれる酸化物も多数存在します。魚の油で有名なω-3脂肪酸EPAもその一つで、EPA一次酸化物18-HEPEは、心臓に存在するマクロファージから積極的に産生され、強力な抗炎症・抗線維化作用を示し、心不全を起こりにくくします。
このように脂質は、正にも負にも作用し生体の恒常性を維持しています。これらの脂質の「量」または「質」のバランスを制御することで、心疾患に対して積極的な治療介入ができないか、我々は研究を続けています。