理研AIP数理科学チームは、幅広い純粋数学・理論物理の研究者の力を借りて、人工知能・機械学習分野における様々な数学的課題に組織的に取り組んでいます。整数論、数論幾何、代数幾何、偏微分方程式、超弦理論、量子多体系、微分幾何、位相幾何、作用素環論、確率論、統計など、幅広い数理科学・物理分野の研究者が参加して、人工知能・機械学習の専門家とともに、研究を進めて来ました。
2016年に開設されたAIPですが、今年10年目という節目を迎えるにあたり、数理科学チームの成果報告会を開催します。この10年の経験に基づいて、数学・数理科学や理論物理学の様々な考え方がどのようにして機械学習やその周辺領域に適用されるかに焦点を当てつつ、今後更なる分野融合の可能性を探る機会としたいと考えています。このような研究領域への参入を検討されている、特に学生・若手研究者の方々にとって有益な時間となれば幸いです。
2025年 8月8日(金)
理研日本橋オフィス・オープンスペース
対面参加の場合、理研外部の方は入場のために事前にQRコードが必要ですので、フォームへの記入を忘れないようお願いします。※ 定員に達し次第、締切前でも受付を終了する場合があります。
対面で日本橋会場に参加の場合:
こちらからお願いします → フォーム
※ 締切:2025年7月22日(火)23:59 (JST) まで
※ 参加人数に限りがありますので、登録をいただいても参加できない場合があります。
オンラインから参加の場合:
こちらからお願いします→ Doorkeeper
※ 締切:2025年8月1日(金)23:59 (JST) まで
導入 (13:00-13:10)
講演者名:坂内 健一
量子もつれの境界則予想と最近の進展(13:15-13:55)
講演者名:桑原 知剛
量子多体系における「量子もつれの境界則予想(Area Law Conjecture)」は、量子情報理論および量子多体物理の両分野において中心的な役割を果たす予想であり、量子物質の普遍的な構造の理解と数値アルゴリズムの成功の両方に深く関わっている。特に、密度行列繰り込み群(DMRG)などの効率的な数値手法が成功を収めている理由の根幹には、この境界則の成立があると考えられている。従来、境界則は主に一次元系かつ短距離相互作用とエネルギーの有界性といった制限下での理解に留まっており、高次元やより一般的な状況における成立条件の理解は限定的であった。しかし近年、これらの制限を超えた理論的進展が見られており、たとえば一次元系においては長距離相互作用系や非有界なハミルトニアンを含むより広範なクラスへの拡張が進められている。また、高次元系に関しても部分的ではあるが、有望な成果が報告されつつある。
本講演では、この量子もつれの境界則の持つ意義について、歴史的背景を交えながら概観を行うとともに、近年の理論的な進展について紹介する。特に、どのような物理的条件のもとで境界則が成立するのかという問いに対する新しい知見に焦点を当てる。
作用素論的アプローチに基づく非線形データ解析の理論と応用(14:00-14:40)
講演者名:池田 正弘
本講演では、講演者が理化学研究所AIPセンターにおける研究活動を通じて得た成果を紹介する。特に、クープマン作用素に基づく非線形力学系の解析とそのデータ駆動型研究への応用、劣モジュラー非線形ラプラシアンの理論構築とハイパーグラフ構造解析への展開、さらに、非線形偏微分方程式に対する一般解の数理解析とその機械学習への応用といった近年の研究の進展を中心に議論する。講演者は、理研AIPに着任する以前は非線形PDEの理論解析を専門としていたが、AI研究の最前線が交差する同研究センターの学際的・先進的な環境のもとで、数理構造とデータ解析の融合という新たな研究方向を切り拓いてきた。本講演では、そうした研究の展開とその背景にある理論的基盤、さらには応用的意義について、俯瞰的かつ具体的に解説する。
ポスターセッション・コーヒーブレイク(14:40-15:40)
量子力学から見た拡散生成モデル(15:40-16:10)
講演者名:田中 章詞
拡散生成モデルは主に画像生成において有効性が実証されてきた生成モデル手法であるが、その定式化において量子力学の立場から再定式化することが可能である。本講演ではそのことについて簡単に説明した後、生成プロセスにおけるノイズの有無による性能差について、量子力学におけるプランク定数の対応物を導入することで対数尤度の計算を通じて論じることができることを説明する。
非局所発展方程式の反応拡散近似に関する研究 (16:15-16:45)
講演者名:関坂 宏子
本講演では、畳み込み積分を含む発展方程式および反応拡散方程式に対して,多成分の反応拡散系により解が近似できるという成果を報告する.方程式に領域全体での解の積分が含まれることによる非局所性から,反応拡散系などで用いられる従来の方法(局所解析など)を用いることができない場合がある.本研究は,非局所性による解析の困難さを解決する手法として,特異極限により非局所相互作用を,多成分の局所的な反応により近似できることを保証した結果である.また先行研究をより一般的な拡散項が含まれていない方程式も同様の近似が成り立つことから,提案した近似方程式系が,畳み込み積分タイプの非局所方程式に対して汎用性が高いことを表す.本講演では,応用として非局所発展方程式とグラフ上の反応方程式との関係についても議論したい.
関数空間論を用いた力学系のデータ駆動解析の数理と応用について(16:50-17:30)
講演者名:石川 勲
力学系のデータ駆動解析において、力学系を関数空間上のKoopman作用素などの線形作用素に持ち上げることで関数空間論を援用した手法が知られている。このアプローチは、工学と数学の双方に関連する問題を解決する必要があり、極めて学際的な指向を持つものでもある。本講演では、その学際研究としての面白さや近年講演者が得た研究成果、そして、今後の展望等について紹介したい。