公開講座



 行為としての文学をどのように学ぶか ②


中学校・高等学校国語科における

物語・小説の役割から考える 


2024.5.18(Sat)/14:30-17:30

(学会日程とは別日にオンライン開催します)


話題提供者

 千野 帽子

文筆家

丹藤 博文

愛知教育大学

中野 登志美

宮崎大学

司会・進行

鈴木 愛理

弘前大学

会場:Zoomミーティング

定員 250

※ アーカイブ配信はありません

※ 画面の録画は絶対にしないでください

参加の仕方

以下のフォームから申し込みをしてください。

参加申し込み期間

2024年2月26日~5月15日23:59

(定員250名に達し次第締め切ります)

日 程

2024年5月18日(土)

※下記のタイムスケジュールは一部変更する可能性があります。

14:30~14:40 公開講座の趣旨説明(司会)

14:40~15:10 中野登志美氏の発表(30分)

15:10~15:40 丹藤博文氏の発表(30分)

15:40~16:10 千野帽子氏の発表(30分)

16:10~16:30 休憩(20分)

16:30~16:45 発表の補足および互いの報告へのコメント(15分)

16:45~17:30   全体討議(45分)

趣 旨


 本講座は、2023年10月21日(土)に開催された、「行為としての文学をどのように学ぶか①―小学校国語科における物語(ショートショート)創作の学習指導について―」(以下、前回講座)での内容を踏まえ、文学的文章の学習指導の在り方について更に検討することを目的とするものである。


 前回講座では、ショートショート作家である田丸雅智氏による物語創作ワークショップを開催したのち、物語創作指導の実践史や小学校での具体的な指導・評価方法を取り扱いながら、物語創作指導の在り方について追究した。物語創作指導の目標は、作家を育てることにはない。大切なことは、実際に創作過程を体験することや、完成したテクストが読者に読まれ「作品」となる経験を積み重ねることによって、書き手としての喜びや苦悩を知ることにあるのではないだろうか。このように、作者や語り手の立場に立つことによって「ものを見たり考えたりする方法」の一つを子どもたちが獲得することこそが、物語創作指導の目標の一つであるといえる。


 物語創作指導によって獲得した「ものを見たり考えたりする方法」は、この複雑化した世界を生きていくための大きな力となる。「物語」をつかって自分の過去・現在・未来を結びつけながら、「なぜ自分は生きるのか」「どのように生きるのか」を考える営みは、生きづらさが指摘される現代において重要な行為である。小川洋子「なぜ物語が必要なのか」(教育出版 中学校国語教科書3年)でも指摘されるように、人間は昔から「物語」とともに生きてきた。自らの「物語」を紡ぐとともに、他者の「物語」に寄り添うことによってしか生きられない存在が人間だということもできるだろう。


 しかしその一方で、「物語」には人間に苦しみや痛みをもたらす面があることも軽視できない。「起源」や「存在」を確認するのに役立つという「物語」の本質の裏側には、人間を都合の良い「物語」にからめとる危険性が潜んでいる。山極寿一「作られた『物語』を超えて」(光村図書 中学校国語教科書3年)では、人間がゴリラに対して「凶暴で好戦的な生き物である」という誤解に基づく「物語」を作ったことを例としながら、人間同士においても「物語」が悲劇を生み出すことを指摘している。つまり、どのように「物語」を作るかだけでなく、作られた「物語」に対してどのように向き合うかということが重要なのである。そして、そのことについて子どもたちとともに追究することは、文学教育の使命であるといえる。


 現行の学習指導要領の目標では、「学びに向かう力・人間性等」として、「言葉がもつ価値」を認識すること(中学校)、認識を深めること(高等学校)が求められている。「言葉がもつ価値」とは、「言葉によって自分の考えを形成したり新しい考えを生み出したりすること、言葉から様々なことを感じたり、感じたことを言葉にしたりすることで心を豊かにすること、言葉を通じて他者や社会と関わり自他の存在について理解を深めることなどがある」とされている。「読むこと」の領域では、作品や文章に表れているものの見方や考え方への着目が促されている(中学校第3学年・イ、高等学校「言語文化」・イ、「文学国語」・オ)。また、作品や文章の内容や解釈をもとに自分の考えを深めることが期待されている(中学校第3学年・エ、高等学校「言語文化」・オ、「文学国語」・カとキ)。このように中学校・高等学校国語科では、物語・小説の言葉(語り)を、世界を捉える行為(方法)として読み、評価(批評)・解釈できるようになることが目指されている。そこには、語り手が世界をどのように捉えたくてそのように語るのかという背景(欲望)を読みとることも含まれるだろう。

 

 以上の経緯・背景にもとづき、本講座では、「物語」と人間とのかかわりについて、またその学習指導の在り方について、中学校・高等学校国語科を中心に検討していく。国語科における文学的文章(物語・小説)の学習指導を〈物語行為〉について学ぶものとして捉え、その意義や方法について考えたい。話題提供者としてお迎えするのは、丹藤博文氏(愛知教育大学)、中野登志美氏(宮崎大学)、千野帽子氏(文筆家)である。丹 藤氏には、娯楽や消費ではなく行為としての物語・小説教材の読みをなぜ目指すのかについてお話しいただく。中野氏には、「批評読み」という観点から文学的文章の具体的な授業デザインやそのための教材研究についてお話しいただく。千野氏には、認識・思考の枠組みとしての「物語」とはどのようなものなのか、その功罪とつきあい方も含めてお話しいただく。そのうえで、参加者全体で質疑応答や討議を行い、行為としての文学について、その教育の在り方について、考えていきたい。


※一部修正する可能性があります。