招待講演

相馬雅代 先生北海道大学大学院・理学研究院・生物科学部門

鳥の行動にみる歌とダンスの進化

人間の行動の進化,特にコミュニケーション能力の適応的意義を考える上で,鳥類は興味深い比較対象である.過去半世紀以上にわたって,鳴禽の歌(さえずり)は研究され,とりわけその獲得を支える発声学習は大きな注目を集めてきた.鳥の歌学習をヒトの言語獲得のモデルとなぞらえる潮流はいまだ根強く,確かに両者の学習機構に類似点は多い.しかし,鳥の歌はヒトの言語と本当にそれほど似ているのだろうか.そう考えた時に何より明瞭なのは,多くの鳥種でオスだけしか歌わず,ヒトの言語は雌雄に共有されるという相違である.一般に鳥の歌は性淘汰進化によるもので,オスによる縄張り・求愛の一方向的宣伝として機能しており,相互的な個体間のやりとりが常にあるとは限らない.さらに,鳥の「歌」という語そのものに明らかなように,鳥類のメロディアスな発声は,ことばよりむしろ音楽に音響特性上似ている側面もある.しかも,鳥の求愛コミュニケーションはしばしば歌以外にダンスを伴うため,なおさらヒトの音楽的行動を彷彿とさせる.これらをふまえ本講演では,鳥の求愛が雌雄双方向的な視聴覚コミュニケーションとして機能する事例を紹介しながら,社会要因がいかにコミュニケーション信号の進化を促してきたか考察したい.くわえて,鳥類の種間比較研究の結果をひきつつ,社会的一夫一妻の配偶システムと長期的に維持されるつがい関係という特徴が,コミュニケーション信号の進化とどう関わっているかについても考える.ヒトを含む様々な動物において,過剰なほどに複雑で派手なコミュニケーション行動がなぜ進化したか,という問いはいまだ十分に解明されたとは言い難い.本講演は,それに対する明快なこたえを示すものではないものの,今まで見過ごされがちがった手がかりを示すものとなるはずである.

山内太郎 先生 北海道大学環境健康科学研究教育センター/大学院保健科学研究院)

ヒトのライフヒストリーと成長・行動:狩猟採集民の子どもの生活世界

ヒトのライフヒストリー(生活史)を、他の霊長類と異なるユニークな成長パタンから概観する。その中で、乳児期、子ども期(Childhood + Juvnile)、思春期に着目し、アフリカ熱帯林に暮らすピグミー系狩猟採集民の育児協働と思春期の前後における行動変容を定量データから描き出す。さらに、子どもと森の関わりについて、食物獲得活動の視座から考察する。