研究

静電気技術としてパルス電界と大気圧非平衡プラズマを用いた食品の非加熱殺菌技術を中心に研究を行っています。

パルス電界による微生物殺菌と生体分子制御 

パルス電圧波形


パルス電界の微生物細胞への作用

 瞬間的なパルス状高電圧の水中への印加ではジュール熱の発生は少なく、微生物がパルス電界(PEF)に晒されると微生物膜がコンデンサの様に振る舞うため細胞膜の電気的膜圧縮を経て膜破壊が起こります。これを応用した液状食品の非加熱殺菌技術の社会実装を実現するため、種々の微生物の殺菌特性の調査、殺菌プロセスの検討に取り組み、牛乳などの液体食品中の微生物を熱履歴少なく殺菌可能であることを実証しています。

 特筆する取り組みとしては、PEF殺菌後の液体食品への金属混入を根本的に排除するため炭素材料を電極として用い、金属材料を電極とした場合と同等の殺菌効果が得られることを実証し、安心・安全を担保するための完全な金属フリーPEF殺菌処理層の開発に成功しました。次いでPEF殺菌装置に高電圧電極と接地電極とをイオン交換膜によって隔てた殺菌槽構造を導入し、高電圧電極側に冷却水を、接地電極側に日本酒を流通させPEF処理を行うことで高電圧電極表面での焼付きと温度上昇を防止し、日本酒中の酒造酵母と火落ち菌を40℃以下の低温環境下で完全に殺菌可能であることを実証しています。

 またPEFは生体やこれを構成する生体分子にとっては未知の物理刺激です。私はこれまでにPEFがタンパク質のリフォールディングなど立体構造変化を引き起こすことを明らかにしてきました。生体のPEFに対する応答としては微生物のグルタチオン合成遺伝子群の誘導などの生体機能の具体的な変化を明らかとしており、PEF損傷菌の動態に影響する諸因子の解明にも着手しています。 

大気圧非平衡プラズマを用いた固体食品の殺菌 

誘電体バリア放電を用いたコショウの殺菌





誘電体バリア放電殺菌技術の食品応用展開

 大気圧非平衡プラズマはその発生に伴い生成するオゾン・一重項酸素・OHラジカルなどの単寿命な活性種を利用し熱の影響が少なく殺菌因子の残留の心配がない殺菌が可能です。香辛料・穀類など粒状農産物の殺菌に応用することで、これらの高付加価値化と安心・安全の担保が実現できるものと考え、コショウなどの粒状固体表面に付着した枯草菌芽胞・カビ胞子の殺菌に取り組んでいます。

 コショウに付着させたカビ胞子は円環の内表面に発生させた沿面放電プラズマにより殺菌可能であり、装置を回転させ接触効率を向上させるとともに雰囲気を加湿しOHラジカルの生成を促進することで殺菌効率が向上すること、プラズマ殺菌を行ったコショウは熱殺菌を行ったコショウに比べ抗酸化活性、還元力、チオバルビツール酸化の面で優れており高品質となることを明らかとしました。

 沿面放電を用いた本法ではスケールアップが困難であることから、粒状個体食品をプラズマ発生空間中に導入することでプラズマと3次元的に接触させることを目的とし、プラズマの形態として低圧誘電体バリア放電(LPDBD)を選択した検討を行いました。電極距離と圧力に着目して最適化したプラズマを用いた殺菌を実施し、3次元的にプラズマに接触させることで高い殺菌効率が得られること、殺菌メカニズムとしてオゾンと熱の関与は少なく、LPDBDにおいてもOHラジカルの生成を促進する雰囲気の加湿により殺菌効果が大幅に向上することを明らかとしました。

 これらの知見を生かし、産業利用に適したプラズマ殺菌システムの新規構築を目指して、香辛料を含む個体・粉体食品の殺菌技術の開発と高品質な食品の開発に取り組んでいます。 

水中放電プラズマを用いた水処理技術 

バブルをトリガーとして発生させた水中放電プラズマの様子

 水中での絶縁破壊電圧は1 MV/cm以上とされており、電極への非常に高い電圧の印加と集中を必要とするため水中で安定して放電プラズマを発生させることは困難です。当研究室は放電プラズマ発生のトリガーとしてバブルを積極的に水中へ混合し電極に接触させることで放電プラズマを発生させる手法を検討しています。 これまでに水中放電プラズマにより染料、シュウ酸、難生分解性化合物であり構造中にベンゼン環を含む界面活性剤直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)などの分解が可能であることを実証しています。また微生物の殺菌を行い、指標菌として広く用いられる大腸菌では短時間で殺菌効果が得られ、殺菌が困難とされる枯草菌胞子の場合についても時間を必要とするものの殺菌効果が得られることを示しました。