これまで教室の中で行われてきた一斉指導による授業は,教師が一斉に知識をインプットし,友達同士の協議も教師の合図によって始まるものでした。授業流れは一本の線に例えることができます。1人1台の端末がある現在の教室では,1人1人が目標を立て,自己のペース,最適な解決方法を選んで学ぶことができます。友達との協議も必要に応じて行われ,その回数も児童の自己決定によって変わることが言えます。児童1人1人によって学び方が変化するこの授業は,複数の線に例えることができます。自律的な学びが展開されるこの「複線型の授業」は,これからの時代に大切な資質・能力の向上に期待が持てますし,それと同時に教師はこれまでの授業観を見直す必要があると言えます。
単元内自由進度学習の準備段階のとなる学習メソッドの構築
新しい授業観の具体的姿として、一人一台端末をフル活用した「単元内自由進度学習」があります。先進校ではこのスタイルでの研究が進んでいますが、いきなり模倣することは難しいと考えました。そこで、教師の授業観の転換や単元内自由進度学習の実践に向けた準備段階となるものを設定しました。それが、『方法選択型探究学習』です。
1人1台の端末を生かし,個別最適な学びと協働的な学びが一体化した指導方法として,岩沼小学校では,「教材」「学習形態」「学習ペース」「表現」「対話」を児童に委ねる『方法選択型探究学習』を実施しています。本校では,方法選択型探究学習をIndividual Freedom Learning Iwanuma-Shoの頭文字を取り,『IndiviFLIS(インディビフリス)』と呼称しています。
方法選択型探究学習は、これまでの一斉指導の体裁を崩すことなく、展開の部分に単元内自由進度学習の要素を取り入れるものです。この展開の中では、アウトプットの場面を大切にしています。
『IndiviFLIS』の実践記録
子供は回数を重ねるごとに、情報を整理・分析する力、構造化する力、伝達する力はどんどん高まり、共同編集を通して協働や対話によるチームでの学びも深まりが見えました。教師も指導を重ねることで、子供への支援の仕方や環境設定の重要性への気付きなど多くを得ることができました。
『IndiviFLIS』の積み重ねによって得られた資質(情報活用能力含む)
白紙共有
白紙ホワイトボードアプリから学びを構築していく。
自己決定による
対話・協議
必要な時に必要な箇所について何度も対話し,検討する。
クラウド活用
Googleクラスルームによる見通し,教材選択
付箋の追加
思考の再構築
友達との対話によって,自身の考えをより洗練していく。
他者参照
クラウドが可能にする友達の集約方法や思考の比較・統合
思考の言語化
ホワイトボードのキーワードを言語によって補いながら説明することで,自分の考えを言語化する。
校内の教員による『IndiviFLIS』実践の広がり 関連ページ「研修×DX」
『IndiviFLIS』実践の積み重ねにより,児童が学び方を習得すると,自立した学びの展開を図ることができるようになります。これを本校は「学びの自走」と評しています。学びの自走は個別最適な学びにつながるほか,教員の働き方改革にも寄与することが考えられます。また,本校は自走状態に入った『IndiviFLIS』を今後多様な形式で実践し,能動的な学び手の育成に関して成果と課題を検証していきます。
『IndiviFLIS』による情報収集や整理に加え,傍らに実験道具を配置し,任意で実験に取り組むようにしました。子供たちは端末から得た情報を,実験によって試すことにより体感的理解を深めることができました。
翌日の実験に向けた学びを家庭で予習する反転学習をリモートで実施しました。時間帯を決めてGoogleMeetを接続できるようにし,音声通話をしながら,チームでJamboardの共同編集をしました。コミュニケーション手段が音声のみなので,対話・協議が積極的に行われました。
教科担当不在の状況を設定し,子供だけで『IndiviFLIS』の45分を実施させました。学習リーダーを二人指名し,クラスルームを使って学習の流れを伝えました。リーダーの合図から,情報収集,情報交換,一斉発表,振り返りシートの記入といつもの流れで学習を進めることができました。
ほぼゼロベースから構築してきた本校の取組「方法選択型探究学習『IndiviFLIS』」は,模倣しやすいものであり,他の学校に横展開を図っていけるものなのではと考えます。活用しているクラウドアプリケーションが汎用性の高いGoogleアプリケーションであることも,横展開を促す要因になると言えます。本校の取組が市内や県内に少しずつでも広げていければと思います。
方法選択型探究学習『IndiviFLIS』のメリット
パフォーマンス評価(記録に残す評価)
動画によるポートフォリオ
1人1人の児童がどの程度学びを深めたのかを見取るには,集約したJamboardを個人で説明させることが有効です。児童1人1人に自分のJamboardを使った解説を撮影させ,教師に提出させました。これによって,内容理解だけでなく,相手に応じた伝え方や情報の集約・整理など情報活用能力の向上を見取ることができるようになります。
すべての児童を褒め,助言し支援できる。
『IndiviFLIS』では,教師は25分という長い時間児童のサポートにあたることができます。一斉指導の自力解決5分間に児童を見取ることに比べ,すべての児童に時間をかけて適切な助言や励ましができます。
クラウド活用により,1人1人の変容をしっかりと捉えることができる。
クラウドによるポートフォリオによって,児童個人の伸びを捉えることができ,次回の教師による働きかけも練ることができます。
また,他者参照を促すことにより,相手の意見を聞く良さや友達の表現を参考にするなど,一斉指導に比べて友達同士の関わり合い,学び合いの場面が格段に増えます。
意図的に情報活用能力育成を働きかけることができる
情報活用能力体系表の各項目の中から,教師が身に付けさせたいものを選択し,『IndiviFLIS』で意識的に取り組ませることで,情報活用能力の計画的向上につなげることができます。