授業×DX

単線型授業から複線型授業への転換

 これまで教室の中で行われてきた一斉指導による授業は,教師が一斉に知識をインプットし,友達同士の協議も教師の合図によって始まるものでした。授業流れは一本の線に例えることができます。1人1台の端末がある現在の教室では,1人1人が目標を立て,自己のペース,最適な解決方法を選んで学ぶことができます。友達との協議も必要に応じて行われ,その回数も児童の自己決定によって変わることが言えます。児童1人1人によって学び方が変化するこの授業は,複数の線に例えることができます。自律的な学びが展開されるこの「複線型の授業」は,これからの時代に大切な資質・能力の向上に期待が持てますし,それと同時に教師はこれまでの授業観を見直す必要があると言えます。

岩沼小学校オリジナル授業スタイル 

方法選択型探究学習  IndiviFLIS

1人1台の端末を生かし,個別最適な学びと協働的な学びが一体化した指導方法として,岩沼小学校では,「教材」「学習形態」「学習ペース」「表現」「対話」を児童に委ねる『方法選択型探究学習』を実施しています。本校では,方法選択型探究学習をIndividual Freedom Learning Iwanuma-Shoの頭文字を取り,IndiviFLIS(インディビフリス)』と呼称しています。この学習スタイルは本年度からのスタートとなり,以下は実践の記録となります。実践によっては指導案のデータを記載しております。

『IndiviFLIS』の実践記録

第1実践 第6学年理科「動物のからだのはたらき」  『IndiviFLIS』 1回目

「教科書」「動画」「webサイト」「関連図書資料」と自分で教材を選択し,学びをノート,デジタルノートアプリ,Jamboardと集約方法も自分に合ったもので学習を進めました。

 しかし,45分の授業すべて調べ学習で終わってしまいました。学びの成果を相手に伝える時間設定の必要性や集約方法の統一による時間効率の促進という課題が明らかとなりました。

2実践 第6学年理科「動物のからだのはたらき」  『IndiviFLIS』 2回目

Jamboardに集約方法を統一し,他者参照の場面を取り入れたところ,学びを自分なりの表現で集約する様子が見られました。完成したjamboardを見せながら,相手に自分の学びを伝えることができました。

 課題として,教師の指示による対話以外,自己決定による対話や討議が見られないことが出されました。3回目は共同編集を取り入れることで対応することとなりました。

実践 第6学年理科「生き物のくらしと環境」  『IndiviFLIS』 回目

 3回目は共同編集を取り入れたことにより,学習の序盤は役割分担やレイアウトの相談,中盤においては分かったことの情報交換,終盤は発表のための調整と適時に必要感を持って協議する様子が見られました。

 課題としては,得た知識を使った思考の場面が少ないことや内容理解に児童間の格差があることが明らかとなりました。4回目は教師による一斉指導の場面を取り入れ,知識の強化・補完を行うことにしました。

実践 第6学年理科「生き物のくらしと環境」  『IndiviFLIS』 回目

 4回目は授業時間を休憩含めた85分設定にして指導を行いました。前半はIndiviFLISで学習し,後半は知識の強化・補完のための一斉指導と,学びを生かして仮説を伝え合う授業構成にしました。一斉指導を取り入れたことで,生態系についての理解が深まり,自ら得た知識と全体でおさえた知識により,仮説の伝え合いでは,議論が大いに白熱しました。

 課題としては,学習を振り返る手立てがなかったため,クラウドを活用した振り返りの手立てを講じる必要があることが明らかとなりました。

実践 第6学年理科「月の形と太陽」  『IndiviFLIS』 回目

 学習の振り返りとして,Googleスライド左にJamboardを添付し,右に感想を記入させました。児童の振り返りは他者参照が可能なポートフォリオになり,友達の学びの成果を見合うことができました。

 課題として,45分の中に探求活動・伝え合い・まとめを収めるには時間的にタイトであることが分かりました。その時間において何に重点を置くのか定める必要があることに気付きました。その上では年間カリキュラムの中にそれを明記できることが望ましいと考えます。

実践 第6学年理科「月の形と太陽」  『IndiviFLIS』 回目

 付箋の数が増え,キーワード抽出ができるようになってきました。月の満ち欠け図から得た概念を,体感させることによって,より深い内容理解につながったと考えます。児童が自ら知識を獲得し,実験によってそれを確かめるという理想的な授業構成となったと感じました。

 課題として,教師が与えたテーマを探求する前に,児童1人1人が個人の目標設定をすることで,達成度を認識したり,次の目標設定につながったりとメタ認知を高めることにつながることが明らかとなりました。

実践 第6学年理科「大地のつくり」  『IndiviFLIS』 回目

実践 第6学年理科「大地の変化」  『IndiviFLIS』 回目

実践 第6学年理科「てこのはたらき」  『IndiviFLIS』 回目

 7回目からは,スプレッドシートによる個別の目標設定や振り返りを行う振り返りシートを活用しました。Googleスライドによるポートフォリオと合わせて,学習の足跡を残すことができました。

「予想」「まとめ」「仮説」「分類・強調」など,

教科の見方・考え方を働かせた表現に進展しつつある‼

未知の言葉を自分たちで調べて,内容理解を深める

獲得した知識を用いて,独自の仮説を設定する

 付箋の色分けで分類化,

自分たちで学びの総括する

『IndiviFLIS』の積み重ねによって得られた資質(情報活用能力含む)

白紙共有

白紙の共有Jamboardから学びを構築していく。

自己決定による

対話・協議

必要な時に必要な箇所について何度も対話し,検討する。

クラウド活用

Googleクラスルームによる見通し,教材選択

付箋の追加

思考の再構築

友達との対話によって,自身の考えをより洗練していく。

他者参照

クラウドが可能にする友達の集約方法や思考の比較・統合

思考の言語化

Jamboardのキーワードを言語によって補いながら説明することで,自分の考えを言語化する。

校内の教員による『IndiviFLIS』実践の広がり 関連ページ「研修×DX」

※実践の参考文献      小学校算数「個別最適な学び」と

「協働的な学び」の一体的な充実:加固希支男(2023)

 『IndiviFLIS』は「教材」「学習形態」「表現」「対話・協議」と,児童の自己決定による選択をさせるスタイルなので,指導の取り入れやすさがあり,自由進度学習の入門編という価値付けができます。

『IndiviFLIS』の積み重ねで「学びが自走する」

 『IndiviFLIS』実践の積み重ねにより,児童が学び方を習得すると,自立した学びの展開を図ることができるようになります。これを本校は「学びの自走」と評しています。学びの自走は個別最適な学びにつながるほか,教員の働き方改革にも寄与することが考えられます。また,本校は自走状態に入った『IndiviFLIS』を今後多様な形式で実践し,能動的な学び手の育成に関して成果と課題を検証していきます。

『IndiviFLIS』で実験も児童に委ねる

 『IndiviFLIS』による情報収集や整理に加え,傍らに実験道具を配置し,任意で実験に取り組むようにしました。子供たちは端末から得た情報を,実験によって試すことにより体感的理解を深めることができました。

自宅にて,音声通話しながら共同編集(反転学習)

 翌日の実験に向けた学びを家庭で予習する反転学習をリモートで実施しました。時間帯を決めてGoogleMeetを接続できるようにし,音声通話をしながら,チームでJamboardの共同編集をしました。コミュニケーション手段が音声のみなので,対話・協議が積極的に行われました。

教科担当なしの自分たちだけで学ぶ45分

 教科担当不在の状況を設定し,子供だけで『IndiviFLIS』の45分を実施させました。学習リーダーを二人指名し,クラスルームを使って学習の流れを伝えました。リーダーの合図から,情報収集,情報交換,一斉発表,振り返りシートの記入といつもの流れで学習を進めることができました。

 

 ほぼゼロベースから構築してきた本校の取組「方法選択型探究学習『IndiviFLIS』」は,模倣しやすいものであり,他の学校に横展開を図っていけるものなのではと考えます。活用しているクラウドアプリケーションが汎用性の高いGoogleアプリケーションであることも,横展開を促す要因になると言えます。本校の取組が市内や県内に少しずつでも広げていければと思います。

方法選択型探究学習IndiviFLIS』のメリット

パフォーマンス評価(記録に残す評価)

動画によるポートフォリオ

 1人1人の児童がどの程度学びを深めたのかを見取るには,集約したJamboardを個人で説明させることが有効です。児童1人1人に自分のJamboardを使った解説を撮影させ,教師に提出させました。これによって,内容理解だけでなく,相手に応じた伝え方や情報の集約・整理など情報活用能力の向上を見取ることができるようになります。

すべての児童を褒め,助言し支援できる。

 『IndiviFLIS』では,教師は25分という長い時間児童のサポートにあたることができます。一斉指導の自力解決5分間に児童を見取ることに比べ,すべての児童に時間をかけて適切な助言や励ましができます。

クラウド活用により,1人1人の変容をしっかりと捉えることができる。

 クラウドによるポートフォリオによって,児童個人の伸びを捉えることができ,次回の教師による働きかけも練ることができます。

 また,他者参照を促すことにより,相手の意見を聞く良さや友達の表現を参考にするなど,一斉指導に比べて友達同士の関わり合い,学び合いの場面が格段に増えます。

意図的に情報活用能力育成を働きかけることができる

 情報活用能力体系表の各項目の中から,教師が身に付けさせたいものを選択し,『IndiviFLIS』で意識的に取り組ませることで,情報活用能力の計画的向上につなげることができます。