同窓会について

会長挨拶   ~歴史を実践するということ~

                                                                                                                                                                                                                                                                            同窓会長  轟 寛逸(1978年入学)

                                                             令和6年5月


  山と渓谷社の『日本人とエベレスト 植村直己から栗城史多まで』(2022年3月発行)が、第12回(2023年度)「梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞しました。信州大学経法学部同窓生の神長幹雄さん(1975年人文学部経済学科卒)が、編集者を務めるとともに5人の共同執筆者の一人として複数の章を担当された1冊です。この功績に対し信州大学同窓会連合会は、卒業生表彰の一環として、今年(2024年) 4月、神長さんに表彰状を贈りました。心からお慶び申し上げます。

 文学賞選考委員会は、その講評で「時々の社会的変遷・登山隊の人間関係などを織り込み、日本人とエベレストの関係を活写、従来型の四角四面の『山岳通史』とは一線を画して(抜粋)」いると、本書を高く評価しています。日本人が初めてエベレスト登頂を果たしたのは、1970年5月。日本山岳会エベレスト登山隊の松浦輝夫、植村直己の両氏が山頂に立ちました。滑落事故や隊員の死を伴った日本隊の挑戦から半世紀余り、今やエベレストは大衆化し、ガイド付きの公募登山隊が主流になっているとのこと。半世紀余りの「日本人とエベレスト」の関係について証言できる人が存命しているうちに記されなければ忘れ去られてしまう歴史であり、また、半世紀近くに及ぶ編集者としての神長さんと山との関わりがあって初めて実現した出版でした。

 歴史とは単なる過去の叙述ではありません。「生の発展がそう要求するにしたがって、死んでいた歴史はふたたび蘇えり、過去の歴史はふたたび現在となる」(クロオチェ著『歴史の理論と歴史』1952年岩波文庫、羽仁五郎訳)。この言葉に私は強く共感します。歴史について探求したり行為したりするプロセスを「歴史実践」と呼びますが、私が長野県教育委員会で一緒に仕事をさせていただいた小川幸司先生は、その著書で「歴史を参照しながら、自分の生きている位置を見定め、自分の進むべき道を選択し、自らが歴史主体として生きることにより、『行為の探求』を行うこと」を「歴史創造」と呼び、歴史実践におけるその重要性を述べておられます(『世界史とは何か―「歴史実践」のために』2023年岩波新書)。私は時々、大学卒業後自分がしてきたささやかな仕事のいくつかを受け継ぎ、発展させてくださっている人に出会うと、私の過去が現在に生きていることを感じます。好むと好まざるとにかかわらず全て人は、誰かの未来を変える今を生きているのであり、そのことを意識して歴史に学び、歴史を実践すべきだと、私は考えます。

 これからの社会を担い、それぞれに歴史を実践していく学生諸君を応援する存在である経法学部同窓会は、どんな歴史を創造できるのか。同窓生の皆様としっかり考えてまいりたいと思います。

 また、同窓会は会員の大切な親睦組織。今年の西穂登山は、9月8日・9日の両日を予定しています。ここでは、冒険としての山ではなく、山歩きの純粋な喜びを味わっていただきたいと思います。多くの皆様のご参加をお待ちしています。



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