セルロースは、植物細胞壁を構成する主要な生体高分子です。セルロース繊維をナノスケールまで細かくしたものがセルロースナノファイバー(Cellulose Nanofiber, CNF)であり、原料植物の種類や製造法によって多様な特性を示します。CNFは軽量で強度に優れ、世界中で高機能先端材料として盛んに研究されています。
CNFの製造法の一つに、水中対向衝突法(Aqueous Counter Collision, ACC法)があります。この方法では、セルロース懸濁液を高速で対向衝突させ、その衝撃エネルギーによって繊維をナノ化します。ACC処理によりセルロース結晶は「へき開」し、内部の疎水性面が露出します。その結果、ACC-CNFは化学修飾なしに親水性と疎水性を併せ持つ、「面」で「両親媒性」を示すユニークなナノファイバーとなります。
両親媒性ACC-CNFは界面に強く吸着する性質を持ち、そのままで疎水性ポリプロピレン、親水性ポリビニルアルコールなどの高分子と相互作用をもつほか、有機溶媒と水の乳化作用を示します。これらの特性は、従来の親水性CNFには見られない特徴です。
本研究室では、このACC-CNFの特性を活用することで、プラスチックをモノマーから分解までを取り扱い、循環型資源として再設計する研究(Lifecycle design of plastics for circularity)に取り組むことを目指しています。
ACC-CNFは、親水面と疎水面を併せ持つ両親媒性を特徴とし、従来の親水性CNFとは異なる界面吸着挙動を示す。本研究では、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレン(PP)やポリ乳酸(PLA)など代表的な熱可塑性ポリマーとの界面構造や相互作用機構を多角的に解析する。特に、結晶化挙動、界面強度、分子配向性に着目、ACC-CNFがもたらす補強効果の分子的な特徴を明らかにすることを目的とする。
両親媒性を有するACC-CNFの界面特性を明らかにするために、低分子有機化合物の乳化・結晶化現象を相互作用プローブとして活用する手法を開発する。本テーマでは、脂質などの低分子有機化合物が示す乳化や結晶化といった物理化学的挙動をACC-CNFとの相互作用の指標として捉えることで、ACC-CNFの両親媒性の発現機構を体系的に解析することを目指す。これにより、ACC-CNFの表面特性評価に基づく新たな解析手法の確立を進め、プラスチックをはじめとする循環型材料設計への応用展開につなげる。
本研究では、ACC-CNFの界面活性を利用して、ポリマーの微粒子を乳化法あるいは乳化重合法により合成し、CNFを外殻に配置した構造体を創製する。得られたマイクロ粒子はペレットとして成形し、機械的特性・熱特性・リサイクル挙動を評価することで、新しい循環型材料プロセスの構築を目指す。最終的には、モノマーレベルの分子設計から生分解性を担保したプラスチック材料の開発につなげることを目標とする。