「行動支援の手引き」は、支援チームで行動支援を行ってく際の手順や大切なポイントを示したものです。
行動支援について十分な研修と実践経験がない場合、手引きにある手順を理解してすすめることは難しいでしょう。校内の行動支援リーダー、サブリーダーに相談し、行動支援ブロックマネージャーと連携して相談しながらすすめてください。
行動支援は担任の先生が一人でかかえて取り組むものではありません。支援チームで取り組むことが大切です。まずは、学級で対象の幼児児童生徒について話し合い課題を共有しましょう。
情報収集は個別の指導計画、個別の教育支援計画に加え、以下の項目を参考に不足している内容について情報を集めます。また集めた情報をチームで共有します。
基礎的な情報の確認(所属、学年、性別、診断名、検査結果、家庭環境)
成育歴、教育歴、病歴、課題となっている行動はいつから見られるか
好きなものや活動(好子となりそうなもの) ※ 「好子」とは、行動の直後に出現するとその行動の将来の生起頻度を上げる刺激や出来事や条件のこと。
言語やコミュニケーションの仕方や状態(理解と表出)
課題となっている場面の環境、いつ、どこで、だれが、どのように、きっかけ、具体的な行動、対応方法、顛末など
課題となっている行動の頻度や程度
保護者の考えや要望、現在の状態の受け取り方
放課後デイサービスなど福祉機関での様子
一日の生活の詳細な把握(睡眠、起床、食事、活動、移動、余暇、人間関係など時間をおって一日の生活を把握する。)
課題となる行動が起きる(活動がはじまる)前の時間から行動(活動)の後の時間まで観察、撮影します。
できるだけ周囲の環境も含めて撮影します。
児童生徒の実態によっては、ビデオ撮影ができない場合も考えられます。その場合は撮影しなくてもよいです。
この段階では、抽象的なイメージでもよいです。学級や支援チームで意見交換します。教師の都合ではなく子どもの生活や人生の豊かさにつながる方向性を検討します。
※ QOL(Quality of Life)とは、生活や人生が豊かであるという指標となる概念のこと。「生活の質」や「人生の質」という意味。
長期目標と短期目標の検討を通して、見通しをもって指導計画をたてることが大切です。
長期目標や短期目標は、個別の指導計画に反映するようにします。
課題分析は、指導可能な標的行動まで具体化する作業です。
課題が複雑な場合は、課題を細かく分解する課題分析をします。→時系列課題分析
抽象的な表現である場合は、具体的に書き下す課題分析をします。→抽象-具体分析
課題や目標が大きすぎるまたは高すぎる場合は、行動の階層性を分析する課題分析をします。
課題分析は、必ず十分な研修を受けた職員と一緒に行ってください。
現段階での標的行動を決め、記録用紙を作成し、記録方法を決めます。継続的に無理なく記録できる方法を検討しましょう。
記録方法の検討や記録用紙の作成は、十分な研修を受けた職員と一緒に行ってください。
現状(介入前)の自然な状態について記録をとります。
記録初日の記録内容について確認し、記録方法や記録用紙について修正点があれば修正します。
ベースラインは最低1週間程度行うようにします。
ベースライン期間は長くなりすぎないようにします(1か月は長い)。
グラフを作成する際は、十分な研修を受けた職員と一緒に行ってください。
ベースラインのグラフを支援チームで共有します。
下図は、ベースラインの折れ線グラフの例です。必要な要素を入れて作成してください。
標的行動に修正点があった場合は、必要に応じて記録方法や記録用紙を修正します。
修正に伴い、修正前の記録との比較ができない場合、再度ベースラインを取り直してください。
記録は指導開始前からはじめ(ベースライン)、指導開始後もとり続けグラフを更新していきます。
指導手続きは、十分な研修を受けた職員と一緒に作成してください。
指導手続きは以下の内容を含んでいます。
標的行動(増やしたい行動・減らしたい行動)
標的行動は、指導する際に、変えようとする行動のことです。増やしたい行動と減らしたい行動に分けて検討します。(減らしたい行動がない場合もあります)
般化場面
般化とは、ある先行条件で強化されて学習した行動が他の先行条件で強化されないうちに自発することです。指導場面と類似した刺激や条件が先行条件と考えられる場面を般化場面として想定してください。
指導場面
指導の対象としている行動を直接指導する場面
学習環境、使用する教材教具
指導計画をもとに必要な学習環境や教材を準備します。場所や材料の調達など、関係する職員と相談しながらすすめてください。
指導者の対応(正反応時・誤反応や無反応時)
指導場面における対象児童生徒の行動に対する指導者の対応を決めておきます。正反応時と誤反応や無反応時に分けて検討します。
時系列の指導手続き
指導者が行う指導の手続きを箇条書きに時系列に並べて記述します。
指導期間
次回、実施した指導を評価する日までを指導期間とします。
達成基準
標的行動がどの程度増えたら(減ったら)達成とするかの基準を決めます。
指導中止の条件
指導を一旦中止して、目標や指導手続きを再検討する必要があると判断する条件を決めておきます。
指導手続きにそって支援チームメンバーでリハーサル(ロールプレイ)を行います。
リハーサルの結果、指導手続きに修正点があれば修正します。
インフォームド・コンセントと呼びます。これは「説明と同意」という意味で、保護者に対し、目的や意味、指導方法や見通しについて説明を丁寧に行い、納得の上で同意を得ることです。
学校での課題として取り組みたいというスタンスで説明してください。
その上で家庭や事業所での様子も聞き取り、共通の課題があればそのことを共有してください。
特に指導開始直後の場合は、まだ行動変容につながっていない場合でも、指導手続きどおりに実施したことを支援チーム内で肯定的に評価するようにしましょう。
指導初日~数日はできるだけビデオ撮影を行います。
課題となる行動が起きる(活動がはじまる)前の時間から行動(活動)の後の時間まで撮影します。
繰り返し同じ場面で支援する場合は、定点撮影が望ましいです。
周囲の環境も含めて撮影します。
指導期間中は定期的にビデオ撮影を行います。
ビデオ記録、行動記録(グラフ化されたもの)をもとに指導の評価や修正をします。
グラフは、日々の指導の結果をモニタリングできるように随時共有するようにします。
指導手続き通りに行えたことを肯定的に評価しあいます。
行動変容について評価します。
表情、情緒、その他の行動についても話題にします。
小さな改善も支援チーム全体の成果として確認します。
教師間で指導結果に差があってもその差自体を問題にするのではなく、よい方法を共有することを大切にしてください。
下図は、折れ線グラフの例です。グラフに必要な要素を入れて作成しましょう。
達成基準に至った場合は、次の指導目標と支援方法を検討します。
指導中止の条件に至った場合は、まず学習環境や指導方法の改善が必要かを検討します。学習環境や指導方法の改善でもなかなか達成基準にいたらない場合は、指導目標が高すぎないか(低すぎないか)検討します。
指導仮説、指導目標、ストラテジーシート、学習環境、教材教具、指導手続きに変更が生じた場合、それぞれを修正しよう。
指導の条件が変更になった日やセッションを記録しておこう。→グラフ編集時に必要な情報になります。
本人の成長したところにフォーカスを当てて説明します。
動画や画像、グラフを使って説明します。
保護者の感想、家庭での変化もあれば聞き取ってください。
必要に応じて校内リーダーやサブリーダーなどチーム内の第3者が参加するとよいです。
残された課題については具体的な方法や今後の見通しを説明します。
事前に事例の取り扱いについての承諾を確認しておきましょう。
報告や発表資料は指定されたフォーマットを使う、または行動支援に必要な要素を含む資料にします。項目にそってスライドにまとめることによって、あらためて実践を整理できその後の支援に役立てることができます。また、支援力の向上にもつながります。
成功の(実践の)ポイントを支援チームで検討します。
発表資料は、十分な研修を受けた職員を含む支援チームで検討してください。
校内事例については、校内研修会、職員会など多くの職員が参加する場で実践経過を報告しよう。実践を報告することによって、よい実践についての知見を校内職員と共有することができます。
Before、Afterについて、端的な記述と画像や動画で分かりやすい報告になるようにします。
好事例は実践報告会でも報告し、個人情報に配慮した上でデータベースに掲載できるとよいです。