福井特産農産物中の健康機能性成分の老化予防効果の検討

 私たちの体の細胞は年をとると老化していき、機能が低下していきます。また、老化した細胞が体の中に蓄積すると、様々な疾患を発症しやすくなります。現在、細胞の老化を遅らせたり、老化してしまった細胞を除去したりできるような化合物がそのような疾患を予防し、寿命を延伸できるかもしれないと注目を集めています。

 私たちのグループは福井特産の農産物や海藻、雑草といった未利用資源の特有成分の中からこのような活性を持つ化合物を探しています。特に現在は、皮膚の真皮層にある線維芽細胞という細胞に着目していて、トリテルペノイドやポリフェノール、タウリンなど様々な化合物の効果を研究しています。

 その他にも、機能性化合物の生体内での体内動態を解析しています。

【これまでの研究成果】

1.Odama, Maegawa et al. 2023 Journal of Agricultural and Food Chemistry 

2.Kamiya, Odama et al.  2021 Plos One

3.Nguyen , Ito S et al 2020 ACS Omega. 

福井特産農産物をつかった健康マフィンの開発

 食品加工工場において、野菜や果物原料のおよそ50%が搾りかすなどの副産物として廃棄されているそうです。これらの廃棄物は焼却処分されたり、堆肥やバイオ燃料として利用されています。一方で、果物の果汁を絞った後に出る副産物(搾りかす)は食物繊維やミネラル、ファイトケミカル(植物中の有用化合物)に富んでいるため、近年、搾りかすをパンやビスケットといった焼き菓子に応用する取り組みが進められています。

 私たちのチームでは、県内の果物加工企業と協働して、福井県特産品の搾りかすを使ったマフィンなどのお菓子の開発に取り組んでいます。私たちの作ったマフィンによって健康長寿が叶えられることを期待しています。


タウリンの健康効果に関わるメカニズムの解析

 タウリン(アミノエタンスルホン酸;NH2-C2H4-SO3H)は、ヒトの生体内に高濃度に含まれる含硫黄アミノ酸の一種です。生体のタウリンは主に肝臓における生合成や魚介類を中心とした食餌からの摂取により維持されています。タウリンは生体では多様な作用を持ち、肝臓での保護効果や、心臓や筋肉、脳などで広範な生理作用をもつ。また、タウリンを投与することによって心不全や肝毒性、糖尿病などの生活習慣病など多くの疾患に対して有益な効果があることが示されています。タウリンの細胞内での役割は様々ですが、主には細胞内のイオンバランスや浸透圧を調節する作用があります。その他にも、神経間の情報伝達をになったり、肝臓で胆汁酸を抱合して水溶性を毒性を下げたりします。また、酸化ストレスの軽減なども知られていますが、どのようなメカニズムでこのような細胞内での作用が発揮されているか、様々な説が提唱されているものの詳細は不明です。

 最近、タウリンが試験管内で起こる卵白リゾチームの液液相分離を抑制することを見つけました(Tubotani et al. 2021)。液液相分離とは、特定のタンパク質が水溶液中で集まって相を形成する現象のことで、神経変性疾患の原因となるタンパク質は細胞内で相分離状態になったあとに異常な状態になると考えられています。したがって、液液相分離を細胞内で制御することで疾患の予防につながるのではないかと考えています。したがって、我々の発見はタウリンが神経変性疾患に有用である可能性を示唆するものです。

 さらに、タウリンのみならず、タウリンから派生してできた食品中および生体内の化合物(N-メチルタウリン、タウロピン、N-クロロタウリンなど)の健康効果にも興味があり、体内動態を調べたり、抗サルコペニア作用や抗肺炎作用などの解析も実施しました。

【これまでの研究成果】

1.Tsubotani et al. 2021 Amino Acids

2Nguyen  et al.  2022 Metabolites